【完結】天使の愛は鬼を喰らう

大竹あやめ

文字の大きさ
上 下
36 / 44
壊すべきものは

36

しおりを挟む
 結局、索冥にも診てもらったものの、指輪を取り出すのは難しいという結果になった。場所が場所なだけに、下手に触ると何が起こるか分からないということで、そのままにしておくしかない。

「そうなると、やはり龍とその取り巻きが何て言ってくるか、だな……」

 鷹使は思案顔で言う。索冥もそうだね、と苦笑していた。

「でも、結果的に五大勢力のうち、四つは味方にできた、だろ?」

「だっ、誰が味方だ……っ、大体君は、命を狙われているというのに楽観的過ぎる……!」

 緋嶺の言葉に、索冥は案の定慌てだした。からかうのは楽しいと思うけれど、横で鷹使が睨んでいるので、程々にしておこう。しかし索冥はまだ視線を泳がせながら、話を続ける。

「だっ、だから……何かあったら連絡しなよ……」

 そうやって索冥が差し出してきたのは名刺だ。そこには仕事用の名刺らしく、【整体・足つぼ・マッサージ 樹木きき索冥】とある。携帯電話らしき番号も載っており、まじまじと眺めていると、鷹使にそれを取り上げられた。

「用がある時は俺から連絡する」

「……」

 鷹使があからさまに不機嫌な声で言う。しかし索冥は知らん顔だ。

「緋嶺、指輪を使ってコイツを懐柔したのか?」

 なぜこんなにもお前に興味関心を持つ、と鷹使は緋嶺に聞いてきた。それは本人に聞けよ、と思うけれど、索冥は答えてくれるだろうか?

「……君が僕に助けを求めた時……」

 索冥は少し恥ずかしそうに話し出す。

 相手を一途に思う事はこんなにも美しいのか、と思ったと言う。人ならざるものの世界では、打算や取引での繋がりが主だから、そういった感情は久しく忘れていたと苦笑した。

「自分が死なない為に媚びへつらうし、頂点を取りたいと戦争を起こすものばかり」

 僕はそんな世界に少し嫌気がさしていたのかも、と索冥は言った。だから緋嶺に関しては肯定も否定もしない、関与もしないと。

「元々麒麟は人間を癒すことしかできないしね、利用される事はそんなに無かったんだけど……」

 それでもそんな世界を憂いて、身体を弱らせてしまう仲間が沢山いた、と索冥はお茶をすする。どうやら麒麟は病弱だけでなく、ストレスにも弱いらしい。だから事なかれ主義なのか、と緋嶺は納得した。

「……僕もせいぜい、あと十年かそこらの命。君みたいな奴がいたら、少しは退屈せずに済むかなって」

 そう言えば麒麟は短命だと聞いている。どれくらい生きられるのかと聞いてみると、平均四十年、長くて五十年だという。平均寿命からして索冥はどうやら三十代らしいけれど、その美しさと若々しさは十代後半にしか見えない。





 夕方までしばらく索冥と話をして、緋嶺たちは自宅に戻る。着いた頃にはすっかり日が落ちてしまっていた。

 帰り際、何か言いたそうな索冥に、友達になってくれと言うと、目を白黒させて驚いて慌てていたけれど、消え入りそうな声でうん、と返事をもらった。

 自宅に入るなり鷹使が口付けを求めてくる。緋嶺は最初は受け入れたものの、しつこく何度もしてくるのでストップをかけた。

「ちょっと……アンタ、最近嫉妬しすぎ」

 出会った頃はそんな風には見えなかったのに、最近彼は緋嶺の事を好きだということを隠そうともしない。セナや索冥の登場で、より顕著になってきているので、緋嶺は釘を刺す。

「……五大勢力を手に入れたところで、龍のロンは簡単には意見を変えない」

 一度緋嶺を殺すとなったらやる男だ、と鷹使は緋嶺を抱きしめる。死なせたくないのは分かるけれど、どうしてこれほどまでに心配しているのだろう?

「その……ロンってやつはそんなに強いのか?」

「……」

 緋嶺の質問に、鷹使は答えなかった。それを緋嶺は肯定と受け取り、鷹使を抱きしめる。

「大丈夫。俺は何があってもアンタが好きだし、アンタだけは傷付けない」

 そう言って、緋嶺は鷹使に軽くキスをした。しかし鷹使は抱きしめたまま離してくれないので、彼が満足するまでそのまま大人しくしておく。

「……」

「さ、メシ食って寝よう?」

 何も言わない鷹使に緋嶺はそう言うと、彼は緋嶺にもう一度軽くキスをした。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

ハルとアキ

花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』 双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。 しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!? 「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。 だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。 〝俺〟を愛してーー どうか気づいて。お願い、気づかないで」 ---------------------------------------- 【目次】 ・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉 ・各キャラクターの今後について ・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉 ・リクエスト編 ・番外編 ・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉 ・番外編 ---------------------------------------- *表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) * ※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。 ※心理描写を大切に書いてます。 ※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。 このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。 そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。 一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて… 那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。 ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩 《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

幸せな復讐

志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。 明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。 だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。 でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。 君に捨てられた僕の恋の行方は…… それぞれの新生活を意識して書きました。 よろしくお願いします。 fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

処理中です...