【完結】天使の愛は鬼を喰らう

大竹あやめ

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壊すべきものは

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「納得いかないんだけど!」

 次の日、凝りもせず緋嶺に会いに来たと言って抱きついたセナは、指輪は破壊すると言った緋嶺に食い下がった。

 セナの反応は予想の範疇だが、このまま命を狙われるのは精神衛生上もよろしくない。

「そうは言ってもセナ、いつまでも返り討ちできるとは限らないし、恨みを買えば、それがまた連鎖するだけだ」

 俺が死なない限り終わらない、それは嫌だと緋嶺は言うと、セナは渋々といった感じで大人しくなった。鷹使はセナが離れるまで、珍しく黙っている。

「鷹使が指輪を取り出す方法に、心当たりがあるんだって」

 緋嶺がそう言うと、鷹使は頷いてその後を継いだ。

「麒麟の索冥さくめいだ」

「索冥だぁ?」

 するとセナは明らかにバカにしたような態度になった。緋嶺は初めて聞くその名に、麒麟の族長なのか? と鷹使に尋ねると、彼は、ああ、と首肯する。

「あんな弱っちい奴に尋ねるとか、僕は嫌だけど」

「お前の意見は聞いていない」

「何だって?」

 また鷹使とセナの言い合いに発展しそうだったので、緋嶺は慌てて間に入った。この二人は隙あらばこうなるので、緋嶺も気が気じゃない。おかしいな、俺の話をしているはずなのに、と苦笑する。

「でも弱っちいって? 確か五大勢力のうちの一つなんだろ?」

「そうだね! 緋嶺を見たら、それだけで卒倒して死んじゃうかも」

 そう言って笑うセナに、そんな大袈裟な、と緋嶺が言うと、鷹使は大袈裟じゃない、と苦笑した。

 鷹使によると麒麟は水の浄化と治癒に長けた部族で、人間しか治療できないという。それなのに病弱で寿命も短く、数も少ないらしい。

「じゃあ、何で五大勢力になれたんだ?」

「治癒の力は本物だからな。だが……」

「徹底的に事なかれ主義なんだよねぇ」

 鷹使とセナの言葉に緋嶺は納得する。族長会議でも我関せずで、緋嶺の事も勝手に決めてくれというスタンスだったという。だから相談しても、相手にしてくれないかもしれない、という事だ。

「でも、当たってみる価値はある」

 セナは鷹使の言葉に、しょうがないかぁ、と頬杖をついた。彼としても緋嶺が死ぬことだけは避けたいようだ。

「でもさぁ、今更だけど……俺に殺す程の価値はあるのか?」

 緋嶺はそもそもの疑問を口にした。すると鷹使もセナも黙る。その沈黙は何だ、と二人を交互に見ると、鷹使とセナは顔を見合わせた。

「緋嶺……豪鬼を殺した上に、天使と悪魔の族長を従えてるんだよ? そりゃみんな警戒するでしょ」

「え?」

 セナの言葉に緋嶺は意外に思って聞き返す。豪鬼も鬼の族長だ。これで五大勢力のうち三つを牛耳ってる事になるな、と鷹使は言う。意味が分からず呆然としていると、鷹使は更に説明してくれた。

「いくら人ならざる者が好戦的と言えども、負け戦に首を突っ込みたがる奴はいない」

「じゃあ今のままで平和になるじゃん?」

「……みんな、自分の部族が全滅させられるのを避けたいんだ。言ったろう、お前の暴走が怖いんだ」

「……」

 そんなの、鷹使との【ちぎり】で安定しているから良いのでは? と思うけれど鷹使はそれ以降黙ってしまった。セナも苦笑している。

「緋嶺が指輪を使って、死ねと言えばみんな従っちゃうんだよ」

 でも緋嶺はそんな事言わなそうだから、僕は本名を教えたんだけどね、とセナは言った。緋嶺を知らない奴からしたら怖いわけ、と付け足す。

「豪鬼も決して弱くないんだよ? 呆気なく倒したって聞いて驚いた」

 緋嶺はその時の事を思い出す。自分の中で声がして、コイツを殺せと思っていた。でも豪鬼を倒した後、自分は誰に向かって行ったかに気付いて、寒気がする。

 もし暴走して、今度こそ鷹使に手を掛けてしまったら──。

「……緋嶺、落ち着け」

 不意に鷹使に頭を撫でられ、緋嶺はハッとした。でも、自分の存在意義は何だ、と考えてしまうのだ。

 確かに望まれて産まれてきたと思う。けれど、家族以外はそれを望んでいない。自分は生きていて良いのか、と。

「ま、一番の問題は堅物のロンさんだろうけどね」

 豪鬼が倒され、セナも緋嶺に付いたと知れば、彼もどう動くか分からない、とセナは言う。

「……とりあえず、索冥さくめいを探すのが先だ」

 鷹使はすぐにスマホで電話を掛け、コハクに索冥の捜索を指示した。

「じゃあ僕は緋嶺とイイコトしよっかな」

 鷹使が電話をしているのを良いことに、セナがすすす、と寄ってきた。鷹使は電話をしながらこちらを睨んでいる。

「あのさぁセナ、何で急に俺の味方になってくれたんだ?」

 緋嶺は近寄らせまいと、質問をする事にした。どの道あとで鷹使に色々言われるけれど、黙ってされるがままになる訳にはいかない。

「言ったじゃん、緋嶺の事が気に入ったって。それじゃダメなの?」

「ダメじゃないけど、何で気に入ったのか、きっかけが見当もつかないから」

 緋嶺はそう言うと、セナはふふふ、と笑う。じゃあ、緋嶺の何気ない一言で気が変わったって事にしといて、と彼は言った。ますます意味が分からなくなり、頭を搔く。

「おい、離れろ」

 通話が終わった鷹使が、早速セナに絡んできた。この嫉妬深さは何とかならないかな、と緋嶺は苦笑すると、セナはそんなにくっついてないでしょー? と文句を言っている。

「なぁに? そんなに僕が緋嶺に触るのが気に食わない?」

「当たり前だ」

 鷹使は何の臆面もなく言い放ち、またいつものようにケンカが始まる。緋嶺はしばらく放っておいたけれど、そのうちうるさくなってきたので声を上げた。

「お前ら、うるさい!」

 すると、二人ともグッと息を詰めて口を噤む。あまりに息の揃った行動だったので、思わず笑った。

「こういう時は息が合うんだな」

 しかし緋嶺の笑顔に対して二人は、お互い顔を見合わせて真剣な顔をしている。どうした? と聞くと、鷹使が今の、自覚は無いのか? と眉を寄せた。

「は? 自覚って?」

「僕たち、今のは黙りたくて黙った訳じゃない。つまり……」

 緋嶺の声に従わざるを得なかった、と鷹使も頷いた。緋嶺はドキリとする。

 という事は今の一瞬、緋嶺は指輪を使ったらしい。自覚も無く使えるなんて、と緋嶺は少し寒気がして身を震わせた。

「まずいな……」

 鷹使が呟く。

「緋嶺が指輪を使えると知ったら、ますます風当たりが強くなる。その前に何とかしないと」


前途多難だな、と緋嶺はため息をついた。
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