【完結】天使の愛は鬼を喰らう

大竹あやめ

文字の大きさ
上 下
23 / 44
契の指輪

23

しおりを挟む
 鷹使の説明によると、連絡があったのは警察からで、人間が眠ったまま目が覚めず、約一ヶ月その状態が続き、そのまま亡くなったそうだ。

 そしてさらに、同じように眠ったままの人間が県内にもう一人、いるという。

「眠ったままというのと、二十代男性というところが共通点だな」

 警察が調べて分かっただけで、まだまだいるかもしれない、というのが鷹使の見解だ。確かに、目覚めないというのも稀なケースだけれど、それが県内に二人、目覚めた憲二も入れて三人いたとなると何かの仕業に見えてくる。

 すると、鷹使のスマホがまた着信を知らせた。彼は無線通信で車のオーディオに繋ぐと、会話を始める。

「……はい。あなたから連絡がくるってことは、悪い知らせですか?」

『まぁ、そんなとこです。先程の被害者に続き、二人目、三人目の被害者が出ました』

 電話の声は、先日豪鬼が人間を襲った現場にいた、警察関係者だ。

「三人目? 眠ったままだった人がまだいたのか」

『はい。しかも二人目と三人目の死因は失血死です。一人目とは違う』

「確か一人目は心臓麻痺だったな。寝ているだけなのに失血死とは?」

 緋嶺は話を聞いて眉間に皺を寄せた。人間の血の臭いがした気がして、鼻を擦る。

 その警察関係者によると、失血死した二人は、何者かによって首を切られていたそうだ。しかも骨まで綺麗に切れていたので、人間がその辺の道具で切ったとは思えない、とのこと。

「……何か試してるのか?」

「……っ、ふざけんな!」

 緋嶺はガンッとダッシュボードを蹴った。鷹使に睨まれるけれど、試すって何をだよ! と怒りはおさまらない。

 鷹使は予定を変更して、三人目の死亡事件の現場へ向かう事にする。通話を切ると、彼はため息をついた。

「落ち着け」

「落ち着けるかよ! 人の命を何だと思ってるんだ」

「お前は鬼だろう」

 緋嶺はその言葉に鷹使を睨む。

「鬼が人の心配しちゃいけないか?」

 そうは言っていない、と鷹使は緋嶺の髪の毛をくしゃくしゃと撫でた。子供扱いするような仕草にイラッとして、緋嶺その手を振り払う。

「相手の狙いはお前だ。お前が冷静にならないでどうする」

 もっともなことを言われ、緋嶺はグッと息を詰めた。短く息を吐くと、分かったよ、と呟く。

「で? 現場に行って何するんだよ?」

「犯人が本当に悪魔か確認する」

 そんなの、見ただけで分かるのか、と緋嶺は問うと、手口や力の痕跡を見て判断する、と返ってきた。それだけで分かるなんてと驚いていると、天使は術や技の数は他の種族に比べて軍を抜いているからな、と当然のように言われた。

 鷹使を見ていると天使というのは見た目だけの話で、性格も力も他の種族とそう変わらないのでは? と思ってしまう。コハクもそこそこキツい性格のようだったし、人間が抱く天使のイメージは捨てた方がいいな、と緋嶺は思った。





 現場に着くなり、緋嶺は血なまぐささに腕で鼻を覆う。前回と同じで鷹使はまだ平気らしいけれど、緋嶺も前よりかは余裕があった。

「血の臭いに反応するのはやはり鬼だからか」

 緋嶺の様子を見て鷹使が呟く。

 着いたのはとある一軒家。住宅街によくある二階建ての家で、駐車場と小さな庭がある、どこにでもある家だ。しかし今は警察車両などが周りを取り囲んでおり、物々しい雰囲気が漂っている。

「ああ、天野さん。先程はどうも」

 声がして振り向くと、やはり先日も緋嶺たちを案内した人がいた。

「天野さんが来るって分かると、みんな貴方に任せましょうって言うんですよ」

 人間以外の仕業だと、私たちには解決できませんからね、と彼は苦笑する。そしてまた、資料が見たかったら連絡ください、と言い残して去っていった。

 緋嶺たちは早速被害者の部屋に入る。血の臭いが一層濃くなり、口を開けるのさえ嫌になる。

 現場は一目見ただけでも凄惨だと分かった。首を切られただけあっておびただしい量の血痕と血溜まりがあり、緋嶺は入り口辺りで足を止め、血を見ないように身体ごと視線を逸らす。

「緋嶺、人間以外の血の臭いはするか?」

「……いや、一人だけだ」

 鷹使の質問に緋嶺は答えると、俺も同じ見解だ、と部屋を出る。どうやら彼も限界だったらしく、酷い臭いだな、と呟いていた。そして長居は無用だ、と早々に現場を後にする。

「……で、犯人は悪魔で間違いないんだな?」

 車に乗り込み、緋嶺は鷹使に確認すると、彼は頷いた。

「わずかではあるが悪魔の力を感じた。明日、それを頼りに犯人を追ってみよう」

 緋嶺も頷くと車は発信する。しかしある事を思い出し、鷹使に尋ねた。

「明日は大野さんちに行く日じゃ……」

「そんな事言ってられない。電話で元気か聞けば良いだろう」

 確かにそうだけど、と緋嶺は内心がっかりした。あれから大野は緋嶺の事を気に入ってくれ、孫のように接してくれるようになったからだ。

 一抹の寂しさを感じながら、緋嶺は暗くなった景色を眺めた。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

ハルとアキ

花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』 双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。 しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!? 「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。 だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。 〝俺〟を愛してーー どうか気づいて。お願い、気づかないで」 ---------------------------------------- 【目次】 ・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉 ・各キャラクターの今後について ・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉 ・リクエスト編 ・番外編 ・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉 ・番外編 ---------------------------------------- *表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) * ※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。 ※心理描写を大切に書いてます。 ※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。 このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。 そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。 一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて… 那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。 ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩 《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

幸せな復讐

志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。 明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。 だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。 でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。 君に捨てられた僕の恋の行方は…… それぞれの新生活を意識して書きました。 よろしくお願いします。 fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

処理中です...