ふりかえれば恋が生まれる(BLお題ボタンSS)

大竹あやめ

文字の大きさ
上 下
2 / 6

しおりを挟む
「お、おはよ……ナオ」

 むくりと起き上がったナオは俺を無視し、またさらに辺りを見回した。そして自分が下半身を剥かれていることに気付くと、光の速度で両手で股間を隠す。

「……っ、な、何だこれ……っ?」

 そしてナオは俺も下半身丸出しなのに気付くと、ある一点を見て動きが止まった。それが俺の元気な息子を見ていると気付いて、乾いた笑い声を上げながら手で隠す。
 するとナオは何か言いたげに口を開き、また閉じた。逸らした顔はジワジワと赤くなっていって、でもその目には涙が溜まっていくのが見える。

「あ、ごめんナオ。これには訳があって!」

 俺は内心驚いた。普段は気が強いナオが、何も言わずに泣きそうになるなんて思わなかったからだ。起きたらすぐに、罵詈雑言が飛んでくると思ってたから。

「どういうことか説明しろよ……」

 ナオの言葉に勢いはない。俺たちはいつの間にかここに来ていて、この部屋からは、メスイキしないと出られないらしい、と説明した。

「それらしい施設ではあるけど、ラブホとはちょっと違うし……」
「え、お前ラブホ行ったことあんのか!?」

 今気になるのはそこかよ、と思ったけど俺は頷く。友達数人と興味本位で入っただけだし、ナオも誘おうと周りは言ったけど、嫌な予感がして誘わなかったんだよな。今思えば正解だったと思う。

「それより、ここから出ないと」
「はぁ!? それでお前、俺のこと……!」
「ナオも出られないと困るだろ?」

 俺がそう言うと、ナオは言葉に詰まって視線を泳がせた。顔はほんのり赤いままで、小さく「信じらんねぇ」と呟いている。

「俺に任せとけ。痛くないようにはするから」
「は!? お前俺に突っ込む気か!?」

 大きな目がこちらを向いた。その目はもうごまかせない程濡れている。嫌なのは分かるが、このままじゃずっとここにいる羽目になるぞと言うと、そうじゃねぇ、と力無い言葉が返ってきた。
 ……何がそうじゃないんだろう。早くここを出た方がいいだろうに、ナオはそうじゃないのだろうか。

「多少は俺、経験してるから、少しは楽にできるはずだ。それとも、ナオも突っ込んだ経験ありなのか?」

 考えたくないけど、ナオのこの反応に俺はそう聞いてみる。どちらもタチなら、どちらがメスイキするか、すぐに話し合って決めないと。
 すると、ナオの目から大粒の涙が落ちた。どうして泣くのだろう? そんなに嫌だったのか?

「背に腹はかえられないだろ? 現状突破するには妥協案で行くしか……」
「そういうことじゃねぇっつってんだろ!」

 ナオは泣きながら突然叫び出す。ビックリして黙ると、袖で涙を拭ったナオは、妥協案とか言うなよ、と震えた声で言った。

「分かった、じゃあちゃんと話し合おう」

 俺がそう言うと、ナオはキッとこちらを睨む。どうやら俺はまた間違えたらしい。
 さっきから、ナオがどうして怒っているのか検討がつかない。そりゃあ、寝ている間に事を運ぼうとした俺が悪いんだけど。
 ふと、その事について謝っていないことに気付く。俺はカッと顔が熱くなってごめん! と謝った。

「確かにナオが寝ている間にする事じゃなかった! ホントごめん!」
「そうじゃねぇよ!!」
「……え?」

 俺はキョトンとしてナオを見る。視線を合わせないナオは膝を抱えてしまった。どういう事だろう? じゃあ何でナオは怒ってる?
 怒ってるのは確かだ。けどいつもなら睨んで怒鳴ってくるのに、今はその半分も勢いがない。いつもと違う反応に俺は戸惑い、オロオロするだけだ。

「……もういい。イクヤ、俺の質問に答えろ」
「え、……うん」

 何を間違えたのだろう? 考えてみても、思い当たるのは寝ているナオに触ったことだけだ。けど、そうじゃないって言われたしなぁ。

「お前は、ラブホを知ってるんだな?」
「うん」
「……で、男がメスイキする方法も知っていて、多少は経験あると」
「う、うん?」

 ナオは俺に質問していくうちに、どんどん声音が冷めていった。……怖い。すごく怖い。ナオの身体から、怒りオーラがすごく出ているのが見えるぞ。

「誰だよ……」
「え……?」
「誰とヤッたんだよ!?」

 そう言うとナオは、俺の肩を押してベッドに倒した。そのまま馬乗りされ、俺は唖然としてナオを見つめてしまう。
 大きな目からボロボロと涙が零れている。けど、ナオは声は上げまいと唇を噛み締めて耐えていた。思わず「そんな顔しないでくれ」と言ったら、誰のせいだと怒鳴られる。

「答えろ! 誰とヤッた!?」

 このままじゃ埒が明かない、と俺は正直に話すことにした。答えないとナオはもっと怒りそうだし。

「えっと……マッチングした相手……?」

 するとナオは顔をぐしゃぐしゃにして、今度こそ声を上げて泣いてしまった。かわいい顔が台無しだ、と思って頬を撫でると、乱暴に叩かれる。

「な、ナオ?」
「うるせぇ! 黙ってろ!」

 ナオがそう叫んだかと思ったら、ガチッと音がして歯が当たった。そのあとも、ぎこちない……というか、明らかに唇を押し付けるだけのキスをされる。え、なにこの柔らかさ。同じ人間の唇とは思えないんだけど。

「ふ……っ、う、……ううっ」

 パタパタパタ、と上から水滴が落ちてきた。ナオは唇を離し、俺の上で泣いている。何で? どうして?

「ナオ、どうして泣いてる? 俺とするのが嫌だったか?」
「ああそうだよ嫌だよ! どう足掻いたってお前の初めて奪えないじゃないか!」
「……は?」

 俺の上でぐすぐすと泣くナオは、子供のように両手で涙を拭いながら叫ぶ。ちょっと待て、俺の初めてを奪えないって、……俺の初めてを奪えないって事か?

 あまりの衝撃の大きさに、思考が変にループする。ナオは俺を嫌っていて、初めてを奪うつもりだった? 俺は、それほど嫌がらせをしたい相手だったと言うのか。

「何で童貞捨てたんだよ!?」
「何でって……性欲の発散?」

 マッチングで出会ったひととは、一夜限りの関係だ。それも数ヶ月前、ナオへの欲情が止まらず、どうにもできなくて相手を探した。相手は初めての俺を優しくリードしてくれたし、途中でナオの名前を呼んでも、広い心で包んでくれた。そして、「今日みたいに、ナオくんにしてあげられる日が来るといいね」と笑って去っていったのだ。とても感謝している。

 けど、これは俺を嫌っているナオには要らない情報だろう。だからそれは言わない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい

椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。 その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。 婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!! 婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。 攻めズ ノーマルなクール王子 ドMぶりっ子 ドS従者 × Sムーブに悩むツッコミぼっち受け 作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

かわいい息子がバリタチだった

湯豆腐
BL
主人公は、中田 秀雄(なかた ひでお)36歳サラリーマン。16歳の息子と2人暮らし。 残業で深夜に帰宅したとき、息子・真央(まお)が男と性行為をしている姿を目撃してしまう! 【注意】BL表現、性描写がかなりあります。

罰ゲームって楽しいね♪

あああ
BL
「好きだ…付き合ってくれ。」 おれ七海 直也(ななみ なおや)は 告白された。 クールでかっこいいと言われている 鈴木 海(すずき かい)に、告白、 さ、れ、た。さ、れ、た!のだ。 なのにブスッと不機嫌な顔をしておれの 告白の答えを待つ…。 おれは、わかっていた────これは 罰ゲームだ。 きっと罰ゲームで『男に告白しろ』 とでも言われたのだろう…。 いいよ、なら──楽しんでやろう!! てめぇの嫌そうなゴミを見ている顔が こっちは好みなんだよ!どーだ、キモイだろ! ひょんなことで海とつき合ったおれ…。 だが、それが…とんでもないことになる。 ────あぁ、罰ゲームって楽しいね♪ この作品はpixivにも記載されています。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

上司と俺のSM関係

雫@更新予定あり
BL
タイトルの通りです。

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

処理中です...