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「内田さん、あの……本当にもう仕事に戻らないといけないので」
二人で何を話す訳でもなく、無言で歩いていた黒兎は、耐えられなくなって声を上げた。
コンビニから少し遠回りして、自宅マンションから離れた所で足を止めると、内田は分かりやすくイライラしたように言う。
「俺は諦めないって言っただろ? 黒兎が頷くまで引かないから」
黒兎は息を詰めた。心臓が大きく脈打って苦しい。この状態の人間は、一体どうしたら分かってくれるのだろう、と震える息を吐く。
「本当に。話す機会はまた作りますから」
「そう言って、逃げる気だろ」
黒兎は顔を顰めてため息をついた。だめだ、引いてくれそうにない。かと言って自宅マンションは知られたくないし、今二人で立ち止まっているのも危険な気がしてきた。
黒兎は首を振る。
「内田さん、あなた今、何をしてるか分かってますか?」
「黒兎が素直にならないから悪い」
内田の言葉を聞いて、黒兎は本当に頭が痛くなってきた。お願いですから、と黒兎は内田を見上げる。
「俺はあの時お断りしたはずです。確かに片想いの人がいますけど、あなたではありません」
すると急に視界がひっくり返り、背中に衝撃が走った。胸ぐらを掴まれ壁に押し付けられたと分かって、いつかと同じようなシチュエーションに、一気に恐怖が襲ってくる。
「じゃあその気も無いのに仲良くしてたってのか?」
「……っ、だからそれは仕事上の話で……っ」
その瞬間、左頬に強い衝撃があり、小さく悲鳴を上げて腕で顔を庇う。叩かれたと思うより早く足が竦み、止めて、とか細い声で懇願すると、なぜか彼を更にヒートアップさせてしまったようだ。
「俺が勘違いしてるって言うのか!?」
その通りだ、と黒兎は思う。けれど声に出せず、情けなくも涙が出てきた。恐怖と痛みで身体が思うように動かず、それが情けなくて更に泣けてしまう。
内田は改めて黒兎の胸ぐらを掴み直した。
「俺が! こんなにも想ってるのに! 何で分からない!?」
ひとつひとつ、言葉を区切って言う内田。黒兎は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
それは、黒兎こそ言いたい言葉だ。
雅樹への憧れから、恋愛感情に変わって十四年、雅樹と付き合いたいと思った事は山ほどある。でもその度に諦めてきたのだ。彼は自分に関係ない人脈は作らない。彼の視界にすら入れないのだから、期待するのは止めて見ているだけにしよう、と。何度も何度も、そう思い返してきたのに。
「お願いだから、止めてくださ……っ」
黒兎は叫んだ。叫んだけれど最後まで言えずに、頭が強く揺れて地面に倒れ込む。反射的に腕で庇うけれど、髪の毛を引っ張られ掠れた悲鳴を上げた。
「何でだよ!? どうしてだ黒兎!?」
次々と続く鈍い痛みに、この調子じゃ例え付き合ったとしても上手くいかない、と思う。付き合う気などさらさらないけれども。そうどこかで冷静に考える自分がいた。
(あ、やばい……)
徐々に視界と思考が薄れてきて、身体に力が入らなくなってきた。このままだと死んでしまうかもしれない。
(ああ……そうか……)
もはや内田の声が微かにしか聞こえなくなった黒兎は、そっと目を閉じた。
いいのだ、これで。叶わない夢を見続けるより、さっさと終わらせた方がいい。何を今まで無駄な時間を過ごしていたのだろう? 雅樹の隣にいられないのなら、早くこうしておけば良かったのだ。
右頬に、コンクリートの感触がする。口の中が鉄の味がして顔を顰めようとして、できなかった。
内田はどうしたのだろう? そう思うけれど身体のどこも動かせない。けれど続いていた身体への衝撃が止んでいるので、まあいいか、と黒兎は意識を手放した。
もうどうでもいい。生きていても意味がないのだから。
二人で何を話す訳でもなく、無言で歩いていた黒兎は、耐えられなくなって声を上げた。
コンビニから少し遠回りして、自宅マンションから離れた所で足を止めると、内田は分かりやすくイライラしたように言う。
「俺は諦めないって言っただろ? 黒兎が頷くまで引かないから」
黒兎は息を詰めた。心臓が大きく脈打って苦しい。この状態の人間は、一体どうしたら分かってくれるのだろう、と震える息を吐く。
「本当に。話す機会はまた作りますから」
「そう言って、逃げる気だろ」
黒兎は顔を顰めてため息をついた。だめだ、引いてくれそうにない。かと言って自宅マンションは知られたくないし、今二人で立ち止まっているのも危険な気がしてきた。
黒兎は首を振る。
「内田さん、あなた今、何をしてるか分かってますか?」
「黒兎が素直にならないから悪い」
内田の言葉を聞いて、黒兎は本当に頭が痛くなってきた。お願いですから、と黒兎は内田を見上げる。
「俺はあの時お断りしたはずです。確かに片想いの人がいますけど、あなたではありません」
すると急に視界がひっくり返り、背中に衝撃が走った。胸ぐらを掴まれ壁に押し付けられたと分かって、いつかと同じようなシチュエーションに、一気に恐怖が襲ってくる。
「じゃあその気も無いのに仲良くしてたってのか?」
「……っ、だからそれは仕事上の話で……っ」
その瞬間、左頬に強い衝撃があり、小さく悲鳴を上げて腕で顔を庇う。叩かれたと思うより早く足が竦み、止めて、とか細い声で懇願すると、なぜか彼を更にヒートアップさせてしまったようだ。
「俺が勘違いしてるって言うのか!?」
その通りだ、と黒兎は思う。けれど声に出せず、情けなくも涙が出てきた。恐怖と痛みで身体が思うように動かず、それが情けなくて更に泣けてしまう。
内田は改めて黒兎の胸ぐらを掴み直した。
「俺が! こんなにも想ってるのに! 何で分からない!?」
ひとつひとつ、言葉を区切って言う内田。黒兎は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
それは、黒兎こそ言いたい言葉だ。
雅樹への憧れから、恋愛感情に変わって十四年、雅樹と付き合いたいと思った事は山ほどある。でもその度に諦めてきたのだ。彼は自分に関係ない人脈は作らない。彼の視界にすら入れないのだから、期待するのは止めて見ているだけにしよう、と。何度も何度も、そう思い返してきたのに。
「お願いだから、止めてくださ……っ」
黒兎は叫んだ。叫んだけれど最後まで言えずに、頭が強く揺れて地面に倒れ込む。反射的に腕で庇うけれど、髪の毛を引っ張られ掠れた悲鳴を上げた。
「何でだよ!? どうしてだ黒兎!?」
次々と続く鈍い痛みに、この調子じゃ例え付き合ったとしても上手くいかない、と思う。付き合う気などさらさらないけれども。そうどこかで冷静に考える自分がいた。
(あ、やばい……)
徐々に視界と思考が薄れてきて、身体に力が入らなくなってきた。このままだと死んでしまうかもしれない。
(ああ……そうか……)
もはや内田の声が微かにしか聞こえなくなった黒兎は、そっと目を閉じた。
いいのだ、これで。叶わない夢を見続けるより、さっさと終わらせた方がいい。何を今まで無駄な時間を過ごしていたのだろう? 雅樹の隣にいられないのなら、早くこうしておけば良かったのだ。
右頬に、コンクリートの感触がする。口の中が鉄の味がして顔を顰めようとして、できなかった。
内田はどうしたのだろう? そう思うけれど身体のどこも動かせない。けれど続いていた身体への衝撃が止んでいるので、まあいいか、と黒兎は意識を手放した。
もうどうでもいい。生きていても意味がないのだから。
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