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29 頭の中はそればっか
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「桃澤課長、生きてます?」
いきなり呼びかけられて、祐輔はハッとその人物を見た。そこには感情が読めない佐々木がいて、承認お願いします、と紙を渡してくる。
「あ、すみません……ボーッとしてたみたいで」
笑って誤魔化し承認印を押すと、佐々木は「仕事さえしてくれればいいです」と去っていった。
あれから、祐輔の頭の中はセックスのことばかりになってしまった。十代の頃すらこんなに欲がなかったぞと思うほどの強い欲求に、戸惑っている。
(だめだ、こんなことを考えていては。バレたら……)
そう考えて意識を切り替えるものの、ムラムラは収まらない。
一体自分の身体に、何が起きたというのだろう? 今この瞬間にも蓮香に触れられたら、祐輔はすぐに達してしまう自信がある。
(頭の中はソレばっか……俺もひとのこと言えないな)
蓮香に対して思った言葉が、ブーメランになって返ってきて、祐輔は苦笑した。
枯れるまで繋がっていたい。そんな強い感情が自分の中にもあったとは。性欲を含むこの感情は、今までの恋愛で湧いてくることはなかった。それは多分、蓮香が祐輔の性癖を知っていることが大きいのでは、と思う。
(相性がよくて、俺の性癖を知ってる……これって最強じゃないか?)
そう思ったら、ひと目蓮香が見たくなった。初めは変態に、強引に迫ってきた彼だったけれど、今ではそれがありがたいと思う。蓮香が男という点は、それに比べれば些細なことだと思えたのだ。
自分も単純だな、と苦笑して席を立つ。手が空いているし、蓮香は鶴田を警戒していたけれど、昨日ハッキリと断ったから大丈夫だよな、と営業部に顔を出した。
「蓮香さん」
蓮香はデスクで真剣にパソコンのモニターを眺めていた。鶴田はおらず、他の社員と外出しているのかな、と思う。
蓮香は祐輔に気付かず、反応がない。
「蓮香さん」
ぽん、と彼の肩を叩くと、蓮香は驚いたようにこちらを見上げた。その顔がホッとしたように緩む。
「桃澤課長、どうしました?」
「困っていることはないですか? 少し手が空いたので」
思えば異動してから、まともに営業企画課のフォローができなかったのだ。忙しさを理由にしてはいけないな、とそう尋ねてみると、蓮香は優しく微笑んだ。
「今のところは大丈夫ですよ。鶴田さんも、笹川さんとの関係を修復しつつありますし」
「えっ?」
意外な言葉に、祐輔は耳を疑う。あんなに仲が悪そうだったのに、と思っていると、蓮香は今も二人で外出してます、と笑う。
「何があったんです?」
祐輔はそう言うと、蓮香はそっと耳打ちするように口に手を当てた。
「祐輔さんが鶴田さんを振ってくれたおかげで、笹川さんが彼女を宥めるのに必死なんです」
「おま……その呼び方は会社ではするなって……」
祐輔が慌てて蓮香を咎めると、彼は満足そうに笑う。それが少し子供っぽく見えて、祐輔の胸がきゅっとなった。かわいい、と心の中で思いつつ、どことなく彼が嬉しそうなのは、ライバルが減ったからかなと思う。そして同時に、自惚れすぎか、と恥ずかしくなった。
「まぁ、それでも笹川さんが偉そうなのは変わらないですけど」
聞けば、またお前好みの店に連れて行ってやるから、いい加減泣き止めとか言っているらしい。鶴田は本当にウザイ! と反発していたようだが、笹川は、鶴田が振られたならチャンスは自分にあると思っているらしい、あれこれと物で釣ろうとしているようだ。
「お前、鶴田さんに余計なこと言ってないよな?」
会社では絶対にしない口調で蓮香と話すのはリスクがある。けれど確認せずにはいられない。このまま笹川と鶴田の仲が、よくならずとも険悪にならなければ、仕事は円滑に進むので是非とも仲直りして欲しいけれど。それに、女性が苦手な蓮香が鶴田から離れることができる。
「別に何も。ホームページに載ってた祐輔さんの挨拶に憧れて入社したとだけ」
祐輔はホッと息をつく。その程度ならそれが恋愛感情だとは思われないだろうし、そこから二人が付き合っているという答えに、行き着くのは難しいだろう。
「桃澤課長、課長は心配しなくて大丈夫ですよ。俺と鶴田さんがしっかり引き継いでいますから」
ニッコリ笑う蓮香に祐輔は思わず頭を撫でそうになって、咳払いをして誤魔化した。危ない、親密な関係を匂わせるようなことは控えないと。
「ええ。頼りにしてますよ」
そう言って、祐輔は営業企画課を後にした。
いきなり呼びかけられて、祐輔はハッとその人物を見た。そこには感情が読めない佐々木がいて、承認お願いします、と紙を渡してくる。
「あ、すみません……ボーッとしてたみたいで」
笑って誤魔化し承認印を押すと、佐々木は「仕事さえしてくれればいいです」と去っていった。
あれから、祐輔の頭の中はセックスのことばかりになってしまった。十代の頃すらこんなに欲がなかったぞと思うほどの強い欲求に、戸惑っている。
(だめだ、こんなことを考えていては。バレたら……)
そう考えて意識を切り替えるものの、ムラムラは収まらない。
一体自分の身体に、何が起きたというのだろう? 今この瞬間にも蓮香に触れられたら、祐輔はすぐに達してしまう自信がある。
(頭の中はソレばっか……俺もひとのこと言えないな)
蓮香に対して思った言葉が、ブーメランになって返ってきて、祐輔は苦笑した。
枯れるまで繋がっていたい。そんな強い感情が自分の中にもあったとは。性欲を含むこの感情は、今までの恋愛で湧いてくることはなかった。それは多分、蓮香が祐輔の性癖を知っていることが大きいのでは、と思う。
(相性がよくて、俺の性癖を知ってる……これって最強じゃないか?)
そう思ったら、ひと目蓮香が見たくなった。初めは変態に、強引に迫ってきた彼だったけれど、今ではそれがありがたいと思う。蓮香が男という点は、それに比べれば些細なことだと思えたのだ。
自分も単純だな、と苦笑して席を立つ。手が空いているし、蓮香は鶴田を警戒していたけれど、昨日ハッキリと断ったから大丈夫だよな、と営業部に顔を出した。
「蓮香さん」
蓮香はデスクで真剣にパソコンのモニターを眺めていた。鶴田はおらず、他の社員と外出しているのかな、と思う。
蓮香は祐輔に気付かず、反応がない。
「蓮香さん」
ぽん、と彼の肩を叩くと、蓮香は驚いたようにこちらを見上げた。その顔がホッとしたように緩む。
「桃澤課長、どうしました?」
「困っていることはないですか? 少し手が空いたので」
思えば異動してから、まともに営業企画課のフォローができなかったのだ。忙しさを理由にしてはいけないな、とそう尋ねてみると、蓮香は優しく微笑んだ。
「今のところは大丈夫ですよ。鶴田さんも、笹川さんとの関係を修復しつつありますし」
「えっ?」
意外な言葉に、祐輔は耳を疑う。あんなに仲が悪そうだったのに、と思っていると、蓮香は今も二人で外出してます、と笑う。
「何があったんです?」
祐輔はそう言うと、蓮香はそっと耳打ちするように口に手を当てた。
「祐輔さんが鶴田さんを振ってくれたおかげで、笹川さんが彼女を宥めるのに必死なんです」
「おま……その呼び方は会社ではするなって……」
祐輔が慌てて蓮香を咎めると、彼は満足そうに笑う。それが少し子供っぽく見えて、祐輔の胸がきゅっとなった。かわいい、と心の中で思いつつ、どことなく彼が嬉しそうなのは、ライバルが減ったからかなと思う。そして同時に、自惚れすぎか、と恥ずかしくなった。
「まぁ、それでも笹川さんが偉そうなのは変わらないですけど」
聞けば、またお前好みの店に連れて行ってやるから、いい加減泣き止めとか言っているらしい。鶴田は本当にウザイ! と反発していたようだが、笹川は、鶴田が振られたならチャンスは自分にあると思っているらしい、あれこれと物で釣ろうとしているようだ。
「お前、鶴田さんに余計なこと言ってないよな?」
会社では絶対にしない口調で蓮香と話すのはリスクがある。けれど確認せずにはいられない。このまま笹川と鶴田の仲が、よくならずとも険悪にならなければ、仕事は円滑に進むので是非とも仲直りして欲しいけれど。それに、女性が苦手な蓮香が鶴田から離れることができる。
「別に何も。ホームページに載ってた祐輔さんの挨拶に憧れて入社したとだけ」
祐輔はホッと息をつく。その程度ならそれが恋愛感情だとは思われないだろうし、そこから二人が付き合っているという答えに、行き着くのは難しいだろう。
「桃澤課長、課長は心配しなくて大丈夫ですよ。俺と鶴田さんがしっかり引き継いでいますから」
ニッコリ笑う蓮香に祐輔は思わず頭を撫でそうになって、咳払いをして誤魔化した。危ない、親密な関係を匂わせるようなことは控えないと。
「ええ。頼りにしてますよ」
そう言って、祐輔は営業企画課を後にした。
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