12 / 46
12 隙がないから ★
しおりを挟む
案の定、祐輔が家に帰るのを玄関前で待っていた蓮香は、祐輔が家に入るなり壁に押し付けてきて、無理矢理唇を奪ってきた。
「ちょ……っ、はす……んん……っ」
昨日の今日でまたこれかよ、と抵抗するものの、少し肉厚な蓮香の唇は、遠慮なく祐輔の唇を吸い上げてくる。時折噛み付くように食まれて声を上げると、それを黙らせるかのように、舌が入ってきた。
口内で蓮香の舌が暴れ、まるで彼の怒りを受け入れろと言わんばかりに主張する。敏感な歯茎や上顎をなぞられ、唾液が溢れて苦しくなってきた。
「ふ……っ」
ぢゅっ、と蓮香が祐輔の唾液を吸って飲み込む。目の前の男の目は閉じられているけれど、その視線は、想いは、いつだって祐輔に向いていることを改めて感じさせられた。
「……っ」
ヌルヌルと舌が唇の上を這う。そのまま頬を舐められ、唇が耳まで来たと思ったその時。
「あ……っ!」
びくん、と身体が跳ねた。つい昨日開拓されたばかりの後ろの蕾を、蓮香がスラックスの上からグリグリと指で押してきたのだ。まだ違和感が残るそこに、祐輔の尻は逃げようとくねる。
「お、おま……っ、今朝のあれは何だっ? 女性と話すだけで嫉妬してたら、仕事なんてできないじゃないかっ」
蓮香は我慢できないとでも言うように、祐輔の腕を引っ張って部屋の中へ入る。慌てて今朝のことを咎めると、蓮香はベッドに祐輔を投げ飛ばした。
「ちょっ! 人の話を……!」
どうやら蓮香は聞く耳を持たないようだ。再びかぶりつくようなキスをされ、同時に蓮香の腰を押し付けられて、呆気なく快楽の波に攫われる。
祐輔が抵抗を止めたのを察したのか、蓮香のキスは勢いが弱まり、確実に性感を高めるようなものに変わった。舌を絡めればそれを優しく咥えて吸われ、同時に耳を撫でられる。
ひく、と肩を震わせると、目の前の男は眉を下げてこちらを見ていた。その表情から読めるのは──不安だ。
「……なんて表情してるんだよ」
祐輔は蓮香の頭を引き寄せて、自分の肩口に押し付ける。素直に抱きついてきた彼は、大きな子供のようだ。
「祐輔さんの指示じゃなかったら、鶴田さんなんて放っておくのに……」
「おま、……そんなにか? いくらなんでもそれは人としてどうなんだ?」
祐輔が女性と話して欲しくないだけで、ここまで嫉妬するとは、と呆れる。しかし蓮香は顔を上げて、まさか気付いてないんですか、と言った。
「気付くって、何を」
「鶴田さんは、祐輔さんのことが好きなんですよ」
「……」
一瞬、何を言われたのか分からなくて、祐輔は呼吸すら止まる。その間に、蓮香は祐輔のシャツのボタンをぷちぷちと外していった。
「……いや、そんなまさか……」
「そう思いますか? だったらなぜ、会社で笹川さんに怒った俺に対してではなく、祐輔さんの方を宥め、身体に触れたんだと思います?」
そう言いながら、蓮香の顔は再び祐輔の身体に沈んでいく。鎖骨に歯を立てられ息を詰めると、二人の間の熱が一気に上がった気がした。
確かに、蓮香の言うことが本当なら、鶴田はあの場面で身体には触れないだろう。言葉だけで伝えたらいい話だ。
「祐輔さんは、会社では優しいし、物腰柔らかいし、仕事できるしで、モテない要素探す方が難しいです」
「そ、そりゃあ……こんな、乳首でイケる性癖だって知られないように、隙がないように演じてるから……」
「ええ、隙がないんです。だから今朝、鶴田さんはちょっと攻めてみた……」
さすが、動じない祐輔さんより俺の方がキレそうでしたけどね、と言われ、同時に祐輔の胸の先に吸い付いてくる蓮香。途端にじん、と腰の辺りが熱くなり、身体の中でその熱がうねる。
「あ、蓮香……っ」
「明日土曜で休みですよね。なら思う存分ヤッていいですよね」
「なんでそうなるっ? お前の部屋の片付けは? あっ、ん……っ」
やはり蓮香は一度こうなると、後に引けない性格らしい。もう片方の胸も指で摘まれ、祐輔は出てしまう声を抑えるように、手で口を塞いだ。
しかし蓮香の手は止まらない。
「動画でずっと見てました。やっと触れたのに、この機会を逃がしたくありません」
「んっ、ちょっと待てっ。……蓮香!」
祐輔は堪らず蓮香の髪を掴み、胸から彼の顔を離した。
「お前、付き合ってくれって言ったよな? それでいて、何今のうちに触っておきたいみたいな言い方するんだ?」
矛盾しているだろう、と祐輔は言う。こちらはきちんと蓮香と向き合う覚悟をしたのに、彼は違うのか、と疑問が浮かぶ。
好きだと言いながら無理やりことを進めて……それでは嫌われても仕方がないのに。言動が矛盾しつつも、彼から一貫して伝わるのは、不安だ。
そしてやはり、こちらから踏み込もうとすると蓮香は誤魔化す。しかも泣きそうな顔をしながら。
「ん……」
優しく唇を啄まれ、祐輔は彼の頭を撫でた。
「……分かった。長期的な付き合いを俺は覚悟したけど、お前は違うんだな?」
「……っ、違います!」
嫌だ、祐輔さんごめんなさい、と蓮香は泣いてしまった。大の大人が半分服を剥いた男に抱きついて泣く姿は、滑稽で情けない。
けれど、祐輔はやはり蓮香を完全に見切れないのだ。間違いなく、彼は厄介なものを抱えているのに、そこを知りたいと思ってさえいる。
(筧部長も意味深なこと言ってたしなぁ……)
蓮香が支社にいる時に、何かあったのだろうか?
「祐輔さん、本当に好きなんです。だから……っ」
「分かった分かった。俺の秘密を知ってるのは蓮香だけだ。そんな特別な存在、お前しかいないよ」
上っ面の言葉を並べたら、一時的には安心させられるかもしれない。祐輔はそう思って、蓮香の口元のホクロにキスをした。
「ほら来い。気が済むまで付き合ってやるから」
「……っ、祐輔さん!」
がばっと音がしそうな程に、蓮香は再び顔を近付けて、噛み付くようなキスをしてくる。祐輔はそれを一つ一つ、宥めるように返した。
その代わりお前の秘密もいつか教えてくれ、と心の中で呟き、昨日明け渡したばかりの秘密の場所を、再び蓮香に踏み込ませたのだった。
「ちょ……っ、はす……んん……っ」
昨日の今日でまたこれかよ、と抵抗するものの、少し肉厚な蓮香の唇は、遠慮なく祐輔の唇を吸い上げてくる。時折噛み付くように食まれて声を上げると、それを黙らせるかのように、舌が入ってきた。
口内で蓮香の舌が暴れ、まるで彼の怒りを受け入れろと言わんばかりに主張する。敏感な歯茎や上顎をなぞられ、唾液が溢れて苦しくなってきた。
「ふ……っ」
ぢゅっ、と蓮香が祐輔の唾液を吸って飲み込む。目の前の男の目は閉じられているけれど、その視線は、想いは、いつだって祐輔に向いていることを改めて感じさせられた。
「……っ」
ヌルヌルと舌が唇の上を這う。そのまま頬を舐められ、唇が耳まで来たと思ったその時。
「あ……っ!」
びくん、と身体が跳ねた。つい昨日開拓されたばかりの後ろの蕾を、蓮香がスラックスの上からグリグリと指で押してきたのだ。まだ違和感が残るそこに、祐輔の尻は逃げようとくねる。
「お、おま……っ、今朝のあれは何だっ? 女性と話すだけで嫉妬してたら、仕事なんてできないじゃないかっ」
蓮香は我慢できないとでも言うように、祐輔の腕を引っ張って部屋の中へ入る。慌てて今朝のことを咎めると、蓮香はベッドに祐輔を投げ飛ばした。
「ちょっ! 人の話を……!」
どうやら蓮香は聞く耳を持たないようだ。再びかぶりつくようなキスをされ、同時に蓮香の腰を押し付けられて、呆気なく快楽の波に攫われる。
祐輔が抵抗を止めたのを察したのか、蓮香のキスは勢いが弱まり、確実に性感を高めるようなものに変わった。舌を絡めればそれを優しく咥えて吸われ、同時に耳を撫でられる。
ひく、と肩を震わせると、目の前の男は眉を下げてこちらを見ていた。その表情から読めるのは──不安だ。
「……なんて表情してるんだよ」
祐輔は蓮香の頭を引き寄せて、自分の肩口に押し付ける。素直に抱きついてきた彼は、大きな子供のようだ。
「祐輔さんの指示じゃなかったら、鶴田さんなんて放っておくのに……」
「おま、……そんなにか? いくらなんでもそれは人としてどうなんだ?」
祐輔が女性と話して欲しくないだけで、ここまで嫉妬するとは、と呆れる。しかし蓮香は顔を上げて、まさか気付いてないんですか、と言った。
「気付くって、何を」
「鶴田さんは、祐輔さんのことが好きなんですよ」
「……」
一瞬、何を言われたのか分からなくて、祐輔は呼吸すら止まる。その間に、蓮香は祐輔のシャツのボタンをぷちぷちと外していった。
「……いや、そんなまさか……」
「そう思いますか? だったらなぜ、会社で笹川さんに怒った俺に対してではなく、祐輔さんの方を宥め、身体に触れたんだと思います?」
そう言いながら、蓮香の顔は再び祐輔の身体に沈んでいく。鎖骨に歯を立てられ息を詰めると、二人の間の熱が一気に上がった気がした。
確かに、蓮香の言うことが本当なら、鶴田はあの場面で身体には触れないだろう。言葉だけで伝えたらいい話だ。
「祐輔さんは、会社では優しいし、物腰柔らかいし、仕事できるしで、モテない要素探す方が難しいです」
「そ、そりゃあ……こんな、乳首でイケる性癖だって知られないように、隙がないように演じてるから……」
「ええ、隙がないんです。だから今朝、鶴田さんはちょっと攻めてみた……」
さすが、動じない祐輔さんより俺の方がキレそうでしたけどね、と言われ、同時に祐輔の胸の先に吸い付いてくる蓮香。途端にじん、と腰の辺りが熱くなり、身体の中でその熱がうねる。
「あ、蓮香……っ」
「明日土曜で休みですよね。なら思う存分ヤッていいですよね」
「なんでそうなるっ? お前の部屋の片付けは? あっ、ん……っ」
やはり蓮香は一度こうなると、後に引けない性格らしい。もう片方の胸も指で摘まれ、祐輔は出てしまう声を抑えるように、手で口を塞いだ。
しかし蓮香の手は止まらない。
「動画でずっと見てました。やっと触れたのに、この機会を逃がしたくありません」
「んっ、ちょっと待てっ。……蓮香!」
祐輔は堪らず蓮香の髪を掴み、胸から彼の顔を離した。
「お前、付き合ってくれって言ったよな? それでいて、何今のうちに触っておきたいみたいな言い方するんだ?」
矛盾しているだろう、と祐輔は言う。こちらはきちんと蓮香と向き合う覚悟をしたのに、彼は違うのか、と疑問が浮かぶ。
好きだと言いながら無理やりことを進めて……それでは嫌われても仕方がないのに。言動が矛盾しつつも、彼から一貫して伝わるのは、不安だ。
そしてやはり、こちらから踏み込もうとすると蓮香は誤魔化す。しかも泣きそうな顔をしながら。
「ん……」
優しく唇を啄まれ、祐輔は彼の頭を撫でた。
「……分かった。長期的な付き合いを俺は覚悟したけど、お前は違うんだな?」
「……っ、違います!」
嫌だ、祐輔さんごめんなさい、と蓮香は泣いてしまった。大の大人が半分服を剥いた男に抱きついて泣く姿は、滑稽で情けない。
けれど、祐輔はやはり蓮香を完全に見切れないのだ。間違いなく、彼は厄介なものを抱えているのに、そこを知りたいと思ってさえいる。
(筧部長も意味深なこと言ってたしなぁ……)
蓮香が支社にいる時に、何かあったのだろうか?
「祐輔さん、本当に好きなんです。だから……っ」
「分かった分かった。俺の秘密を知ってるのは蓮香だけだ。そんな特別な存在、お前しかいないよ」
上っ面の言葉を並べたら、一時的には安心させられるかもしれない。祐輔はそう思って、蓮香の口元のホクロにキスをした。
「ほら来い。気が済むまで付き合ってやるから」
「……っ、祐輔さん!」
がばっと音がしそうな程に、蓮香は再び顔を近付けて、噛み付くようなキスをしてくる。祐輔はそれを一つ一つ、宥めるように返した。
その代わりお前の秘密もいつか教えてくれ、と心の中で呟き、昨日明け渡したばかりの秘密の場所を、再び蓮香に踏み込ませたのだった。
20
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。


目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。


エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる