【完結】野菜炒めと鴇色(ときいろ)の恋

大竹あやめ

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次の日、颯太郎が目を覚ますと、陣が何故か拗ねていた。

「……あれ、陣、帰らなかったのか?」

「……」

陣は問いには答えず、ただ黙って口を尖らせているだけだ。昨日はあのまま寝てしまったらしい、と思い出して、急に顔から火を噴きそうな程熱くなる。

そう言えば、素直なうちに色々聞いておけと、普段なら絶対言わない事を言ったりとか、キスとかされたような気がする。

「あ……、えと……っ」

「記憶はあるんだな」

不機嫌な声とともに陣がベッドに乗ってきた。颯太郎、どれだけ俺をもてあそぶの、と言われ、颯太郎は思わず逃げようと後ずさりする。

その様子を見た陣は、颯太郎、と真剣な顔で呼んだ。

「今日もバイト終わったらここに来る。んで、また飲もう」

「……は? 二日連続は……金が無いから無理っ」

「俺が奢る」

「いやいいよ……っ」

「むしろサワー缶一本であんなに素直になるなら安いもんだ」

陣はやる気の赤を纏わせていて、本気だ、と颯太郎は泣きそうになる。昨日勇気を出した結果が、こんな事になるなんて、と思った。けれど何故か後悔はない。

そして約束な、と念を押されて陣はアパートを出ていく。

はあ、と颯太郎はため息をついた。

素直になるのはまだシラフでは無理だ。それなら、酒の力を借りるのもたまには良いのかもしれない。けれどあの陣の様子では別日にしてもらうのは無理そうだし、とまた長いため息をつく。





約束通りバイトが終わってアパートにきた陣は、やっぱり酒を買ってきていた。しかし昨日と違うのは、缶の半分をコップに注いで、これ以上飲むな、と言ったことだ。

「寝るなよ?」

そう言われても、と思ったけれど、陣は構わず乾杯、と缶を掲げる。

こんなんで楽しめるかな、と思っていたけれど、缶の四分の一程を飲んだところで何もないのに笑えてきた。

「陣、必死すぎだろ」

陣はずっと赤とピンクを纏わせていて、颯太郎が笑うと鴇色がふわりと出てくる。こういう時に思うけれど、やはり正臣の、青みの強いマゼンタは特殊なのだと分かる。

「だって、どれだけ我慢してるか……颯太郎は知らないだろ」

陣はそう言いながら、顔を近付けてきた。颯太郎はこら、と彼の唇を人差し指で押さえる。

颯太郎から触れてきた事、しかも唇という場所に触れた事に陣は驚いて、その後破顔して顔を真っ赤にしたのが面白くて、颯太郎はクスクスと笑った。

「……何だこの、酔った時の小悪魔ぶりは……」

「何だそれ?」

特に何もしていないはずなのに、陣は一人で百面相をしている。そして彼にガシッと肩を掴まれ、俺以外の前で酒飲むなよ、と言われた。意味が分からず素直に頷くと、また顔が近づいてくる。

陣の長いまつ毛しか見えなくなった頃に、颯太郎は目を閉じた。

「まだハグの段階踏んでないぞ?」

笑いながらそう言うと、分かった、と横から腰をグッと抱かれる。その力強さと陣の触れた唇の柔らかさが、颯太郎の意識を遠くへ追いやった。

しんとした部屋の中で、二人の息遣いと濡れた音がする。最初は触れたり吸ったりしていたキスも、次第に深く情熱的になり、陣に下唇を舐められると颯太郎はゾクッと肩を震わせた。

その様子を見た陣は纏ったピンク色をより強くする。薄く目を開けた颯太郎は、陣も同じようにしてこちらの様子を見ていることに気付いた。

陣は少し離れて、また近付く。今度は耳に息を吹き込むように囁かれ、颯太郎は今度こそ誤魔化しようがないほど身体を震わせた。

陣はクスクスと笑う。

「……ベッド行こう?」

「……っ、ん……」

颯太郎はいつの間にか陣にしがみついていたらしい、彼の助けを借りて立ち上がると、ベッドに乗る。すると颯太郎は陣に押し倒され、びっくりして彼を見ると、陣は更にピンク色を濃く、大きくしていた。余裕が無さそうな彼の様子に、颯太郎の心臓は大きく脈打つ。

「あ、ごめんつい……」

「いや、大丈夫……」

陣は颯太郎の上で長く息を吐いて自分を落ち着かせると、ピンク色も同じように薄く小さくなっていった。陣の長い方の髪が揺れて綺麗だなと思っていると、名前を呼ばれる。

「ちょっと余裕が無いから、俺が全部するな? 今颯太郎に触られたら暴発しそう」

「そっか……」

颯太郎はそう言うと、陣の股間に手を伸ばそうとした。しかし、ダメだって! と陣にその手を掴まれてしまう。本当に余裕の無い彼の様子に、颯太郎は楽しくなってまた笑った。

「この……っ、ダメだって言ってるのに!」

「……っ、んん……っ」

そう言った陣に首筋を食まれ、颯太郎はくぐもった声を上げる。そのまま熱い舌で柔らかい肌をなぞられ、片手で口を押さえて顔を顰め、身体を震わせた。

すると陣は颯太郎のスウェットの中に手を潜り込ませる。その手は迷うことなく肌の上を滑って、胸の敏感な突起に辿り着き、そこを指で弾いた。

「んん……っ」

颯太郎は思わず背中を逸らそうとするけれど、ベッドに阻まれてできなかった。勝手にうねる腰を陣はスウェットの上から優しく撫で、そのまま上のスウェットをまくり上げられる。胸まで出した颯太郎の乳首は硬く尖っていて、恥ずかしさで顔を逸らした。

「颯太郎、キスしよ……」

顔を逸らしているのにそんな事を言われて、颯太郎は横目で陣を見る。すると陣の顔が近付いて来たので、彼の口付けを受け入れた。

すると陣の手が颯太郎の両胸の突起をまた指で弾く。ゾクゾクとして思わず口を離してしまうと、頭がボーッとしてきた。

「あ……、陣……、陣……」

上ずった声で名前を呼ぶと、陣はなーに? と嬉しそうに返事をしてくれる。颯太郎はそれには答えず、陣の肩に腕を回した。思考が霞み、目を閉じるとより敏感に刺激を拾って、颯太郎の腰は無意識にヒクヒクと動いていた。

「颯太郎……気持ちいい?」

「ん……っ」

いつの間にか陣は颯太郎の胸の先を、口に含んでいる。空いた片手は腰の辺りを撫でていて、さすがに慌てた。そこを撫でているという事は、颯太郎はもう後戻りできない程、身体が熱くなっていると分かるはずだ。

「ち、ちょっと待て……っ」

「ん? やっぱり酒が足りなかった?」

そうじゃない、と颯太郎は決定的な刺激を与えられず、もどかしさに喘いだ。今中心に触れられたら、程なくして爆発してしまいそうで、生理的な涙が目に浮かぶ。

すると陣の手が、股の間をするりとズボンの上から撫でた。一際大きく身体を震わせると、陣は嬉しそう笑う。

「ちゃんと気持ちよくなってる?」

「うん……っ」

颯太郎は枕を握った。もうダメだ、頭がボーッとしてイクことしか考えられない、と次々にやってくる快感に身を震わせ、あられもない声を上げる。

すると陣は愛撫を止めて起き上がった。そして自分の服を脱ぎ出す。薄く割れた腹筋と、硬く尖らせた紅梅色の乳首が見えて、颯太郎は思わず感嘆の声を上げた。

「見られると恥ずかしいな」

陣は笑ってジーパンのボタンを外す。颯太郎も脱いで、と言われて起き上がると、彼はベッドを降りて自分のカバンから何かを取り出した。

「……っ、準備良すぎだろ……」

出てきたのはコンドームとローションだ。だってこの為に今日は来たんだし、と陣はそれをベッドに放り投げると、ジーパンを脱いだ。そこで颯太郎がまだ服を脱がない事に気付くと、脱がせて欲しいのか? なんて言ってくる。

「……っ、そんな事はない……」

慌てて上下のスウェットを脱ぐと、陣がその様子をじっと見ていた。

「……見るなよ……」

「ふふ、お返し」

陣は少し落ち着いたのかピンク色も控えめだ、笑う余裕が出てきたようなので、颯太郎も微笑む。

「そーたろー」

「ぅわ……っ」

陣は颯太郎に飛び付くと、再びベッドに押し倒した。直接肌が触れ合い、その温かさと生々しさに、颯太郎の心臓はまた忙しく動き始める。しかし陣もただ楽しいだけじゃない事は、下半身の熱く、硬くなった箇所で分かった。

「んっ、ちょっと……っ、擦り付けるなって……っ」

「ん? 何を?」

陣は颯太郎の上で、その熱くなったものを颯太郎のと下着越しに擦り付けてくる。その硬さと動きの卑猥さに、颯太郎はビクビクと背中を逸らした。思わず声を出しそうになり、口を閉じようと思ったら間に合わず、自分でも恥ずかしくなるほどの甘い声が吐息と共に出てくる。

「……颯太郎、もしかして結構限界?」

「……っ!」

耳たぶを食みながらそう言われ、颯太郎はびくりと肩を震わせた。その反応に陣は気分を良くしたのか、可愛い、と首筋に顔をうずめてくる。

「陣……っ、何でお前、首ばっか……っ」

震える声でそう言うと、陣はそこを舐めながら、何でって、俺が好きだから、と言う。

「颯太郎の匂いがするし、それに……」

陣は颯太郎の右耳の付け根辺りに舌を這わせた。首を竦めて身をよじると、陣にまた腰骨の辺りを撫でられ颯太郎は限界に達してしまう。

「颯太郎、ここにホクロあるの。知ってた?」

「し、らな……っ」

再び陣に顔をうずめられ、サラサラとした髪やねっとりと熱い舌を意識したとたん、またゾクゾクが襲ってきて意識が飛んでしまう。

「……あ……っ!」

顔を顰めてガクガクと身体を震わせると、自分の激しい呼吸と心臓の音が聞こえてきた。目を開けて陣を見ると、彼もじっと颯太郎を見ている。その顔は少し驚いていた。

「うそ、もしかしてイッちゃった?」

そう言われて颯太郎は陣から視線を逸らした。下着の中が濡れた感触がするから、多分そうなのだろう。今まで感じたことのない羞恥心が颯太郎を襲い、両手で顔をおおった。自分がこんなにも堪え性が無いなんて思ってもみなくて、陣に思わず、恥ずかし過ぎるからもう無理、と言ってしまう。そして明るい照明の下でこんな事をしているのが耐えられなくなってきて、酒の効果が切れてきたらしい、と颯太郎は思った。

「大丈夫だよ颯太郎……」

そんな颯太郎を、陣はからかうことはせず、顔を隠した手の甲に口付ける。

「陣……無理だ。……せめて電気を消してくれ……」

颯太郎はそう言うと、陣が微笑む気配がした。

「……分かったよ」
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