なぁ白川、好き避けしないでこっち見て笑って。

大竹あやめ

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「本当に? 無理してない?」
「だいじょうぶ……」

 洋の様子がおかしいことに気付いたのだろう、恵士は指を止めてしまった。本当に無理ならもうしないから、と指を抜こうとするので洋は慌てて「違う」と止める。

(なんだこれ……もっとちゃんと……)

 ちゃんとした刺激が欲しい、と思って洋は自分の思考の恥ずかしさに内心悶えた。洋? と恵士に呼ばれて顔を見せずに返事をする。

「つ、続けて。大丈夫だから……」
「……本当に無理なら言ってね?」
「ん……」

 多分恵士は、極力丁寧にしているつもりなのだろう。下手をしたら怪我をする行為だから、慎重になるのもわかる。
 再び動き出した指に、洋は拳を握ってその刺激に耐えた。しかしある所を彼の指が通る度、小さく身体を震わせてしまうのだ。焦れったい。そう思って抱きつく腕に力を込める。

「洋? やっぱ痛い?」
「ち、違う……。なんか変なだけ」

 察しろよと思うけれど、洋も恵士も初体験だ。スマートにいくほうがおかしいと諦める。
 また動き出した指に息を詰め、洋はゆっくり呼吸することを意識した。けれどその息が、次第に甘くなっていくのを自覚して恥ずかしくなる。

「け、けーじ……」
「ん?」
「……その、なんとゆーか……」

 まさかこの中に、気持ちよくなるポイントがあるなんて思いもしなかった。けれど素直に触って欲しいと言えず、口ごもる。

「……キスしていい?」

 恵士の問いに洋は小さく返事をすると、顔見せて、と言われたので少し身体を起こす。彼の顔を見ると、思ったより余裕がなさそうな表情をしていて胸が締め付けられた。
 唇が合わさると同時に指も動き出す。しかも今度は洋が感じるところを刺激され、腰が小さく跳ねた。

「ぅ、んっ、……んぅ……っ」
「……もしかして気持ちいいの? ピクピクしてかわいい……」

 キスどころではなくなって唇を離すと、恵士が間近で顔を覗いてくる。恥ずかしいから見ないで欲しいと顔を逸らすと、首筋に唇を這わされ思わず変な声を上げてしまった。

「……ふふ」

 洋は笑った恵士を無言で睨む。しかしそれも後ろへの刺激ですぐにできなくなり、悔しいけれど彼にしがみつくしかない。
 おかしい、と洋は思う。恵士は普段あれだけ消極的でオドオドしているのに、どうしてここでイニシアチブを取れるのか。

「……っ!?」

 すると、中のある部分を押されて大袈裟なほど腰が跳ねた。しかも連続でそこを刺激され、洋は悶える。

「ちょ、……っ、んん……!」
「うわぁ……洋、かわいー……」

 上擦った声で呟く恵士に洋はゾクゾクしてしまった。入ったら気持ちよさそう、と囁かれ顔も後ろも熱くなる。いまさらながら、彼は本当に自分に欲情する性指向なのだと思い知らされた。

「……ね、……入れていい?」
「ぇえ? あっ、……ほ、んとに……入るのかよっ?」

 中の指を動かしながら恵士は息を弾ませる。洋はゾクゾクに耐えながら彼の欲望を見ると、今にも爆発しそうなほど硬くそそり立っていた。

「うん、たぶん……。入れたい……」
「ぅあ……っ!」

 唐突に指を抜かれ、洋は声を上げる。刺激がなくなってひと息つくけれど、後ろがなくなった指を求めるようにひくついたのがいたたまれず、恵士から顔を逸らした。

「洋……」

 頬に口付けされ、そのまま押し倒される。どうしてこういう時は積極的なんだと洋は恵士の顔を見ると、苦しそうに眉を顰める恋人の顔があった。

「な、……なんて顔してんだよ……」

 そんな顔をされたら、こちらが無理をさせているようだ、と洋は手を伸ばす。頬に触れると、恵士はその手を握った。
 こんなに、表情と身体で自分が欲しいと言われたのは初めてだ。同性であるからこそ、恵士が今にも理性を飛ばしそうなのがわかる。
 しかし洋の質問に恵士は答えなかった。その代わり握った洋の手を口元に持っていき、指にキスをしてからその先端を口に含む。赤い舌が敏感な指の間を這う感触に、洋は息を詰めた。

「洋……」

 切なげに名前を呼ばれて、洋の胸が締め付けられる。

「……ねぇ、……お願い……」

 縋るような声に、洋は一体何をお願いされているのか、と思ってしまった。すぐに先程の質問の返事をしていないことに気付き、全身が熱くなる。

「……うん……」

 洋は小さく頷き恵士に抱きついた。一つ頬にキスをされ、恵士は洋の足の間に入ってくる。
 本当にできるのか、という不安と指で得られた快感がまたくるのか、という期待でドキドキした。後ろに恵士の肉棒が触れ、その熱さに胸が締め付けられる。

「う……」

 恵士が押し入ってきた。圧倒的な質量に洋は息を詰める。

「洋、息吐いて……」

 どうしてだろう、そんなに痛くはなかった。ただただ苦しくて、大きく呼吸するしかない。何か掴まるものが欲しくて、恵士の腕を掴む。

「痛い?」
「ん……っ」

 上擦った声で聞かれて、洋はわずかに首を振る。恵士は身をかがめて、洋の頭を撫でてくれた。

「苦しいね、ごめんね……っ」
「……っ、ぅあ……!」

 洋は更に腰を押し進められ声を上げる。苦しくて声を抑えられず、恵士の身体に爪を立ててしまいそうで嫌だった。
 そう思ったら、ボロボロと涙が溢れてくる。それを見た恵士がギクリと肩を震わせ、止まった。

「ご、ごめんっ。やっぱり嫌だった!? 抜こうか!」

 慌てて腰を引こうとした彼に洋は「違うっ」と引き止める。今の気持ちをどう言葉にしていいのかわからず、恵士の肩を引き寄せようとした。

「なに? 大丈夫?」
「いいから……もっとこっち来て……」

 洋は顔を寄せてきた恵士の首に腕を回す。合わさった胸と頬が温かくて、安心して力が抜けた。

「洋……」

 大好き、と小さな声が聞こえて、洋は大きく息を吐く。すると身体が恵士を包むように動くのがわかった。そしたら呼吸も少し楽になり、本当に恵士を受け入れられたんだと嬉しくなる。
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