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「信じられねぇ……!」
翌日、納涼祭りの会場。人々でごった返す中、洋は白川を探していた。
途中までは一緒にいたのだ。そして、食べ物を買おうとしたら、見事にお目当てが分かれた。時間的にも別れて並んで買って、後で合流するほうがいいとなり、集合場所に戻ったのだが。
その場所に着いたと同時にスマホが鳴り、見てみると白川からのメッセージ。そこには「穴場見つけた」という言葉にマップが添付されていた。
ただでさえ人が多くて歩きにくいのに、さらにこの中を一人で歩かせるか、と洋はムカつき、文句を垂れながら地面を踏みしめる。
向かった先は、会場近くの丘だ。道路を伝って登り、頂上に着くと開けた場所がある。けれどそこは人がいっぱいで、どこが穴場だ、と白川を探した。
「洋」
そうしていると、白川がこちらにやって来る。昨晩、散々名前呼びをお互いに練習したので、やっと普通に呼んでくれるようになった、と洋は笑った。
白川は洋の元へ来ると、こっち、とそのまま丘の斜面を下りて行く。洋は慌てた。
「お、おい、そんな藪の中……」
「すぐ近くだから」
やけに積極的に進むな、と思って付いていくと、本当にすぐ近くに、空が見える場所があったのだ。二人はそこにしゃがむけれど、すぐあることに気が付く。
「……ここ、飲み物置けないな」
「そ、そう、……だね。ごめん……」
斜面が急なので、とても買ったものを置けそうになかったのだ。眉を下げる白川に気にするな、と膝の上に買ったものを置く。
「何、買ったの?」
「おにぎり」
そんなのあったんだ、と白川は笑った。彼は焼きそばとたこ焼きを買っていて、ド定番だな、と洋も笑う。
早速開けて食べ始めると、花火が上がった。色とりどりの光に、白川の白い肌が照らされる。
「綺麗だな……」
「うん……」
しばらく無言で花火に見入り、歓声が遠くで聞こえることに気付く。藪の中なので当然人はいなくて、本当に穴場だな、と洋は笑った。
「どうしたの?」
独り言が聞こえたらしい白川が、不安そうにこちらを見ていた。洋はもう一度、「穴場だな」と言うけれど、花火の音にかき消されて聞こえないらしい。
洋は少し考えて、彼の耳に唇を寄せた。そして今の自分の気持ちを伝えると、白川は驚き、そして少し視線を泳がせてから、小さく頷く。
洋は微笑んだ。今までの彼の態度からすると、大成長だ。気持ちに寄り添おうとしてくれることが嬉しくて、少し照れくさくて、喉の奥で笑う。
ドキドキするけれど、嫌な緊張じゃない。甘く胸が締めつけられるこの感覚は、間違いなく白川のことが好きだからだ、と思える。
すると、花火がこれでもかというほど打ち上がる。肌から感じる重低音が心地よくて、白川を見つめた。
「好きだよ、恵士」
呟いた声は掠れている。聞こえただろうか、と思っていたら、白川の唇も動いた。
俺も、とそんな動きをしたように見えた。ひときわ明るくなった空に、白川の瞳が真っ直ぐこちらを見ていることに気付いて、洋は喜ぶ。
彼の顔が近付いた。
「来年も、一緒に来ような」
そう言って、洋は次にくる感触に期待しながら、目を閉じた。
【完】
(おまけに続きます!)
翌日、納涼祭りの会場。人々でごった返す中、洋は白川を探していた。
途中までは一緒にいたのだ。そして、食べ物を買おうとしたら、見事にお目当てが分かれた。時間的にも別れて並んで買って、後で合流するほうがいいとなり、集合場所に戻ったのだが。
その場所に着いたと同時にスマホが鳴り、見てみると白川からのメッセージ。そこには「穴場見つけた」という言葉にマップが添付されていた。
ただでさえ人が多くて歩きにくいのに、さらにこの中を一人で歩かせるか、と洋はムカつき、文句を垂れながら地面を踏みしめる。
向かった先は、会場近くの丘だ。道路を伝って登り、頂上に着くと開けた場所がある。けれどそこは人がいっぱいで、どこが穴場だ、と白川を探した。
「洋」
そうしていると、白川がこちらにやって来る。昨晩、散々名前呼びをお互いに練習したので、やっと普通に呼んでくれるようになった、と洋は笑った。
白川は洋の元へ来ると、こっち、とそのまま丘の斜面を下りて行く。洋は慌てた。
「お、おい、そんな藪の中……」
「すぐ近くだから」
やけに積極的に進むな、と思って付いていくと、本当にすぐ近くに、空が見える場所があったのだ。二人はそこにしゃがむけれど、すぐあることに気が付く。
「……ここ、飲み物置けないな」
「そ、そう、……だね。ごめん……」
斜面が急なので、とても買ったものを置けそうになかったのだ。眉を下げる白川に気にするな、と膝の上に買ったものを置く。
「何、買ったの?」
「おにぎり」
そんなのあったんだ、と白川は笑った。彼は焼きそばとたこ焼きを買っていて、ド定番だな、と洋も笑う。
早速開けて食べ始めると、花火が上がった。色とりどりの光に、白川の白い肌が照らされる。
「綺麗だな……」
「うん……」
しばらく無言で花火に見入り、歓声が遠くで聞こえることに気付く。藪の中なので当然人はいなくて、本当に穴場だな、と洋は笑った。
「どうしたの?」
独り言が聞こえたらしい白川が、不安そうにこちらを見ていた。洋はもう一度、「穴場だな」と言うけれど、花火の音にかき消されて聞こえないらしい。
洋は少し考えて、彼の耳に唇を寄せた。そして今の自分の気持ちを伝えると、白川は驚き、そして少し視線を泳がせてから、小さく頷く。
洋は微笑んだ。今までの彼の態度からすると、大成長だ。気持ちに寄り添おうとしてくれることが嬉しくて、少し照れくさくて、喉の奥で笑う。
ドキドキするけれど、嫌な緊張じゃない。甘く胸が締めつけられるこの感覚は、間違いなく白川のことが好きだからだ、と思える。
すると、花火がこれでもかというほど打ち上がる。肌から感じる重低音が心地よくて、白川を見つめた。
「好きだよ、恵士」
呟いた声は掠れている。聞こえただろうか、と思っていたら、白川の唇も動いた。
俺も、とそんな動きをしたように見えた。ひときわ明るくなった空に、白川の瞳が真っ直ぐこちらを見ていることに気付いて、洋は喜ぶ。
彼の顔が近付いた。
「来年も、一緒に来ような」
そう言って、洋は次にくる感触に期待しながら、目を閉じた。
【完】
(おまけに続きます!)
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