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「なぁ白川。俺、お前といると、お前が憧れてるって言った自分になれない」
「……」
白川はまだだんまりだ。顔と視線を逸らし、気まずそうに下を見ている。
この際、全部ぶつけて玉砕したほうがいいのかな、なんて思った。このままもやもやしていたら、明るくて話しやすい自分とはかけ離れていくし、そんな状態が続けば愛想をつかされるのは時間の問題だ。
洋は、震える息を吐き出す。
「なぁ、白川が何を考えてるのかわからない。教えてくれよ、話してくれよ、俺はもっと白川のこと知りたい」
お前の恋だって――苦しいけれど――応援したい。洋はそう言うと、彼の反応を待った。
しかし白川は何か言いたげに口を開くものの、すぐに閉じる。何かあるのは確実なのに、ここまで促してもまだ話さないのか、とムカついた。
「……えと、……ごめん」
そう言われた瞬間、洋は机を叩いて立ち上がる。叩いた手が痛いけれど、そんなことはどうでも良かった。
「ごめんじゃなくて本当のことを言えよ! 人の気持ち掻き乱しておいて! こっちはどれだけ……!」
すると白川はそろそろと洋を見上げる。眉を下げてこちらを見る彼は、捨てられた子犬のような目をしていて、こんな時なのに胸が締め付けられた。けれど、洋はもう止まれない。
「俺ばっか気にしてるみたいでバカみてぇ! ……何か言えよ!」
洋がここまで言っても、白川は狼狽えたように視線を巡らせるだけだ。その様子にさらにムカついて、洋は白川のそばに行き胸ぐらを掴む。
「……っ」
強制的に洋を見上げさせられた白川は、まだ動揺しているようだった。こちらはすべて捨てるつもりでぶつかっているのに、同じように返してくれない彼に悔しくて涙が滲む。
所詮、洋の想いは一方通行だったということだ。こちらがどれだけ本音を明かしても、話してくれないなら仲良くする意味がない。
――だったらいっそ、友情なんてないほうがマシだ。
洋は顔を近付けると、唇で白川の頬に触れた。そのあと掴んだ胸ぐらを乱暴に突き放し、勢いで研究室を飛び出す。次々に溢れる涙で視界が悪く、それを腕で雑に拭いながら走った。
自分でも、どうしてあんな行動に出たのかわからない。けれど、どう言葉にしていいのかわからず、結果的に好意が伝わったかもしれないと思ったら、あれで良かったのかもと思う。
後々のことなんて考えていなかった。戻ってきた哲也と直樹はなんて言うだろう? その前に白川はあんなことをされて驚いただろうし、気まずくなるのは確実だ。そんなことを考えながら屋外に出てキャンパス内を走り続ける。
「……っ、はあっ!」
しばらく思い切り走り、疲れて膝に手を当てて立ち止まると、自分がずぶ濡れなことに気が付いた。おまけに荷物もスマホも持っていないことを思い出し、とりあえず雨宿りできる所まで歩く。
雨が当たらない所に来ると、ホッとした。今更ながら靴の中もびしょびしょで、張り付いた髪と服と靴下が気持ち悪い。このまま屋内に入るのは躊躇われるので、その場にしゃがんだ。
「……どーすっかなぁ……」
全力で走って気持ちはスッキリしたものの、自分がやったことは取り返しがつかない。今後白川にどう接したらいいのか、とか、濡れネズミな上に荷物がないのでどうやって帰ろうか、とか考える。
「あ、いたいた。良かった、見つけた」
すると構内から、スマホで通話しながら直樹が走って出てきた。直樹は洋の様子にすぐに気付き、電話の相手に待って、と言っている。
「あー……場所はまた連絡する。哲也は白川をよろしく」
洋は直樹を見上げると、どっと安心感に包まれた。彼は通話を切り、洋を見下ろして苦笑すると、「なんて顔してんの」と隣にしゃがむ。
「おれ、……どんなかお……?」
「中学のあの時みたいな顔してる。今は泣いてないけど……いや、泣いたね?」
雨で髪も顔も濡れているのに、直樹にはなんでもお見通しのようだ。洋は笑おうとして、失敗した。ぐす、と鼻をすすると直樹は心配そうにこちらを見てくる。
「白川とちゃんと話しなよ」
「話したよ。お前の気持ち聞かせてくれって言ってもダメだった」
すると直樹はため息をついた。あのさ、と直樹は洋の顔を覗いてくる。
「白川は強く言うと引いちゃうの、知ってるでしょ?」
「……なんだよ、なんでも知ってるふうに……」
もちろん、洋も白川がそういう性格なのはわかっていた。なのに勢いに任せて大声を出し、無理やり言葉を引き出そうとしたのだ。それが悪手だったのは、今だったら理解できる。
「知ってるよ。俺は白川に相談受けてたからね。……おっと、これは内緒だったのに話しちゃったなー」
言葉の後半は、わざとらしく棒読みになる直樹。どういうことだと彼を見ると、直樹は土砂降りの雨を遠い目で見つめた。
「相談って……俺も友達なのに? なんで直樹? 白川は俺に憧れてるんじゃないのかよ?」
「……たぶん、口が堅そうって思われたんじゃないかな」
まあ、今話しちゃってるけどね、と直樹は真顔で言う。
「……相談ってなに?」
「白川の好きな人について。……というか、俺が気付いて聞いちゃった」
洋はひゅっと息をのむ。あれだけ洋に打ち明けることを拒否していたのに、どうして直樹には相談までしているのか。
そんなに自分が信用できなかったのだろうか。
「……なんだよそれ。……なんだよそれっ! なんで……!?」
「落ち着いて、洋」
白川には、ずっと自分を見て笑って欲しいと思っていた。なのにそれは叶わず、直樹がそれを叶えられているのはなぜなのか。
「……」
白川はまだだんまりだ。顔と視線を逸らし、気まずそうに下を見ている。
この際、全部ぶつけて玉砕したほうがいいのかな、なんて思った。このままもやもやしていたら、明るくて話しやすい自分とはかけ離れていくし、そんな状態が続けば愛想をつかされるのは時間の問題だ。
洋は、震える息を吐き出す。
「なぁ、白川が何を考えてるのかわからない。教えてくれよ、話してくれよ、俺はもっと白川のこと知りたい」
お前の恋だって――苦しいけれど――応援したい。洋はそう言うと、彼の反応を待った。
しかし白川は何か言いたげに口を開くものの、すぐに閉じる。何かあるのは確実なのに、ここまで促してもまだ話さないのか、とムカついた。
「……えと、……ごめん」
そう言われた瞬間、洋は机を叩いて立ち上がる。叩いた手が痛いけれど、そんなことはどうでも良かった。
「ごめんじゃなくて本当のことを言えよ! 人の気持ち掻き乱しておいて! こっちはどれだけ……!」
すると白川はそろそろと洋を見上げる。眉を下げてこちらを見る彼は、捨てられた子犬のような目をしていて、こんな時なのに胸が締め付けられた。けれど、洋はもう止まれない。
「俺ばっか気にしてるみたいでバカみてぇ! ……何か言えよ!」
洋がここまで言っても、白川は狼狽えたように視線を巡らせるだけだ。その様子にさらにムカついて、洋は白川のそばに行き胸ぐらを掴む。
「……っ」
強制的に洋を見上げさせられた白川は、まだ動揺しているようだった。こちらはすべて捨てるつもりでぶつかっているのに、同じように返してくれない彼に悔しくて涙が滲む。
所詮、洋の想いは一方通行だったということだ。こちらがどれだけ本音を明かしても、話してくれないなら仲良くする意味がない。
――だったらいっそ、友情なんてないほうがマシだ。
洋は顔を近付けると、唇で白川の頬に触れた。そのあと掴んだ胸ぐらを乱暴に突き放し、勢いで研究室を飛び出す。次々に溢れる涙で視界が悪く、それを腕で雑に拭いながら走った。
自分でも、どうしてあんな行動に出たのかわからない。けれど、どう言葉にしていいのかわからず、結果的に好意が伝わったかもしれないと思ったら、あれで良かったのかもと思う。
後々のことなんて考えていなかった。戻ってきた哲也と直樹はなんて言うだろう? その前に白川はあんなことをされて驚いただろうし、気まずくなるのは確実だ。そんなことを考えながら屋外に出てキャンパス内を走り続ける。
「……っ、はあっ!」
しばらく思い切り走り、疲れて膝に手を当てて立ち止まると、自分がずぶ濡れなことに気が付いた。おまけに荷物もスマホも持っていないことを思い出し、とりあえず雨宿りできる所まで歩く。
雨が当たらない所に来ると、ホッとした。今更ながら靴の中もびしょびしょで、張り付いた髪と服と靴下が気持ち悪い。このまま屋内に入るのは躊躇われるので、その場にしゃがんだ。
「……どーすっかなぁ……」
全力で走って気持ちはスッキリしたものの、自分がやったことは取り返しがつかない。今後白川にどう接したらいいのか、とか、濡れネズミな上に荷物がないのでどうやって帰ろうか、とか考える。
「あ、いたいた。良かった、見つけた」
すると構内から、スマホで通話しながら直樹が走って出てきた。直樹は洋の様子にすぐに気付き、電話の相手に待って、と言っている。
「あー……場所はまた連絡する。哲也は白川をよろしく」
洋は直樹を見上げると、どっと安心感に包まれた。彼は通話を切り、洋を見下ろして苦笑すると、「なんて顔してんの」と隣にしゃがむ。
「おれ、……どんなかお……?」
「中学のあの時みたいな顔してる。今は泣いてないけど……いや、泣いたね?」
雨で髪も顔も濡れているのに、直樹にはなんでもお見通しのようだ。洋は笑おうとして、失敗した。ぐす、と鼻をすすると直樹は心配そうにこちらを見てくる。
「白川とちゃんと話しなよ」
「話したよ。お前の気持ち聞かせてくれって言ってもダメだった」
すると直樹はため息をついた。あのさ、と直樹は洋の顔を覗いてくる。
「白川は強く言うと引いちゃうの、知ってるでしょ?」
「……なんだよ、なんでも知ってるふうに……」
もちろん、洋も白川がそういう性格なのはわかっていた。なのに勢いに任せて大声を出し、無理やり言葉を引き出そうとしたのだ。それが悪手だったのは、今だったら理解できる。
「知ってるよ。俺は白川に相談受けてたからね。……おっと、これは内緒だったのに話しちゃったなー」
言葉の後半は、わざとらしく棒読みになる直樹。どういうことだと彼を見ると、直樹は土砂降りの雨を遠い目で見つめた。
「相談って……俺も友達なのに? なんで直樹? 白川は俺に憧れてるんじゃないのかよ?」
「……たぶん、口が堅そうって思われたんじゃないかな」
まあ、今話しちゃってるけどね、と直樹は真顔で言う。
「……相談ってなに?」
「白川の好きな人について。……というか、俺が気付いて聞いちゃった」
洋はひゅっと息をのむ。あれだけ洋に打ち明けることを拒否していたのに、どうして直樹には相談までしているのか。
そんなに自分が信用できなかったのだろうか。
「……なんだよそれ。……なんだよそれっ! なんで……!?」
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白川には、ずっと自分を見て笑って欲しいと思っていた。なのにそれは叶わず、直樹がそれを叶えられているのはなぜなのか。
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