なぁ白川、好き避けしないでこっち見て笑って。

大竹あやめ

文字の大きさ
上 下
22 / 34

22

しおりを挟む
「なぁ白川。俺、お前といると、お前が憧れてるって言った自分になれない」
「……」

 白川はまだだんまりだ。顔と視線を逸らし、気まずそうに下を見ている。
 この際、全部ぶつけて玉砕したほうがいいのかな、なんて思った。このままもやもやしていたら、明るくて話しやすい自分とはかけ離れていくし、そんな状態が続けば愛想をつかされるのは時間の問題だ。
 洋は、震える息を吐き出す。

「なぁ、白川が何を考えてるのかわからない。教えてくれよ、話してくれよ、俺はもっと白川のこと知りたい」

 お前の恋だって――苦しいけれど――応援したい。洋はそう言うと、彼の反応を待った。
 しかし白川は何か言いたげに口を開くものの、すぐに閉じる。何かあるのは確実なのに、ここまで促してもまだ話さないのか、とムカついた。

「……えと、……ごめん」

 そう言われた瞬間、洋は机を叩いて立ち上がる。叩いた手が痛いけれど、そんなことはどうでも良かった。

「ごめんじゃなくて本当のことを言えよ! 人の気持ち掻き乱しておいて! こっちはどれだけ……!」

 すると白川はそろそろと洋を見上げる。眉を下げてこちらを見る彼は、捨てられた子犬のような目をしていて、こんな時なのに胸が締め付けられた。けれど、洋はもう止まれない。

「俺ばっか気にしてるみたいでバカみてぇ! ……何か言えよ!」

 洋がここまで言っても、白川は狼狽えたように視線を巡らせるだけだ。その様子にさらにムカついて、洋は白川のそばに行き胸ぐらを掴む。

「……っ」

 強制的に洋を見上げさせられた白川は、まだ動揺しているようだった。こちらはすべて捨てるつもりでぶつかっているのに、同じように返してくれない彼に悔しくて涙が滲む。
 所詮、洋の想いは一方通行だったということだ。こちらがどれだけ本音を明かしても、話してくれないなら仲良くする意味がない。
 ――だったらいっそ、友情なんてないほうがマシだ。
 洋は顔を近付けると、唇で白川の頬に触れた。そのあと掴んだ胸ぐらを乱暴に突き放し、勢いで研究室を飛び出す。次々に溢れる涙で視界が悪く、それを腕で雑に拭いながら走った。
 自分でも、どうしてあんな行動に出たのかわからない。けれど、どう言葉にしていいのかわからず、結果的に好意が伝わったかもしれないと思ったら、あれで良かったのかもと思う。
 後々のことなんて考えていなかった。戻ってきた哲也と直樹はなんて言うだろう? その前に白川はあんなことをされて驚いただろうし、気まずくなるのは確実だ。そんなことを考えながら屋外に出てキャンパス内を走り続ける。

「……っ、はあっ!」

 しばらく思い切り走り、疲れて膝に手を当てて立ち止まると、自分がずぶ濡れなことに気が付いた。おまけに荷物もスマホも持っていないことを思い出し、とりあえず雨宿りできる所まで歩く。
 雨が当たらない所に来ると、ホッとした。今更ながら靴の中もびしょびしょで、張り付いた髪と服と靴下が気持ち悪い。このまま屋内に入るのは躊躇われるので、その場にしゃがんだ。

「……どーすっかなぁ……」

 全力で走って気持ちはスッキリしたものの、自分がやったことは取り返しがつかない。今後白川にどう接したらいいのか、とか、濡れネズミな上に荷物がないのでどうやって帰ろうか、とか考える。

「あ、いたいた。良かった、見つけた」

 すると構内から、スマホで通話しながら直樹が走って出てきた。直樹は洋の様子にすぐに気付き、電話の相手に待って、と言っている。

「あー……場所はまた連絡する。哲也は白川をよろしく」

 洋は直樹を見上げると、どっと安心感に包まれた。彼は通話を切り、洋を見下ろして苦笑すると、「なんて顔してんの」と隣にしゃがむ。

「おれ、……どんなかお……?」
「中学のあの時みたいな顔してる。今は泣いてないけど……いや、泣いたね?」

 雨で髪も顔も濡れているのに、直樹にはなんでもお見通しのようだ。洋は笑おうとして、失敗した。ぐす、と鼻をすすると直樹は心配そうにこちらを見てくる。

「白川とちゃんと話しなよ」
「話したよ。お前の気持ち聞かせてくれって言ってもダメだった」

 すると直樹はため息をついた。あのさ、と直樹は洋の顔を覗いてくる。

「白川は強く言うと引いちゃうの、知ってるでしょ?」
「……なんだよ、なんでも知ってるふうに……」

 もちろん、洋も白川がそういう性格なのはわかっていた。なのに勢いに任せて大声を出し、無理やり言葉を引き出そうとしたのだ。それが悪手だったのは、今だったら理解できる。

「知ってるよ。俺は白川に相談受けてたからね。……おっと、これは内緒だったのに話しちゃったなー」

 言葉の後半は、わざとらしく棒読みになる直樹。どういうことだと彼を見ると、直樹は土砂降りの雨を遠い目で見つめた。

「相談って……俺も友達なのに? なんで直樹? 白川は俺に憧れてるんじゃないのかよ?」
「……たぶん、口が堅そうって思われたんじゃないかな」

 まあ、今話しちゃってるけどね、と直樹は真顔で言う。

「……相談ってなに?」
「白川の好きな人について。……というか、俺が気付いて聞いちゃった」

 洋はひゅっと息をのむ。あれだけ洋に打ち明けることを拒否していたのに、どうして直樹には相談までしているのか。
 そんなに自分が信用できなかったのだろうか。

「……なんだよそれ。……なんだよそれっ! なんで……!?」
「落ち着いて、洋」

 白川には、ずっと自分を見て笑って欲しいと思っていた。なのにそれは叶わず、直樹がそれを叶えられているのはなぜなのか。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

【完結】王宮勤めの騎士でしたが、オメガになったので退職させていただきます

大河
BL
第三王子直属の近衛騎士団に所属していたセリル・グランツは、とある戦いで毒を受け、その影響で第二性がベータからオメガに変質してしまった。 オメガは騎士団に所属してはならないという法に基づき、騎士団を辞めることを決意するセリル。上司である第三王子・レオンハルトにそのことを告げて騎士団を去るが、特に引き留められるようなことはなかった。 地方貴族である実家に戻ったセリルは、オメガになったことで見合い話を受けざるを得ない立場に。見合いに全く乗り気でないセリルの元に、意外な人物から婚約の申し入れが届く。それはかつての上司、レオンハルトからの婚約の申し入れだった──

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...