なぁ白川、好き避けしないでこっち見て笑って。

大竹あやめ

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「……あれ?」

 数時間後、ほぼ通常通りに落ち着いた店内に入ってきたのは、直樹と白川だった。

「お疲れ。……思った以上に疲れてるな」

 レジにいる洋を見るなり苦笑いしたのは直樹だ。洋も、まあね、と苦笑しつつ、直樹の後ろにいた白川に視線を送る。
 すると途端に身体を硬直させた白川。洋は正直笑顔は引き攣っているだろうし、疲労も隠せていない。けれど、来てくれてサンキュー、と言うと、彼は小さな返事をしながら、視線を逸らした。

「今から帰る準備するよ。待ってて」
「うん」

 時計を見ると、ちょうど退勤時間を過ぎたところだった。店長に挨拶をし、明日もよろしくねぇ、と言われ、顔を引き攣らせながら返事をする。
 退勤処理を終え、着替えて店内に戻ると、直樹たちはいなかった。外にいるのか、と思い店を出ると、案の定直樹と白川を見つける。

「そう。かわいいんだけどね、気が強くて……」

 なんの話をしているかわからないけれど、白川は笑顔だ。あんな顔、初めて見るな、と嬉しくなって声をかける。

「お待たせ。これからどうする?」

 洋の声に振り向いた二人だが、白川はサッと表情を強ばらせた。そしてすぐに視線を逸らす。
 あれ? と思う。今まで直樹とは、笑って普通に話していたのに、と。

「あー……俺んち来るか?」

 この違和感はなんだろう、と思う。けれど洋は、それに気付かないふりをした。すると直樹が手に持った袋を掲げる。その中にはお菓子と食べ物、ジュースが入っているようだ。

「そうなると思って、ほら」
「さっすが直樹~、じゃあ行こうぜー」

 敢えて明るく言うと、直樹が付いてくる。振り返って白川を見ると、彼は立ったまま動かないでいた。

「どした? 白川」
「あっ、えっ、……俺も、いいの?」
「なんでよ? この状況で白川は来るなとか言わないし」
「そ、そっか……」

 言いながら、洋はどうしてそんなことを聞くのだろうと思う。以前にも同じようなことがあったな、と思って、そのまま聞いてみた。

「え、その……疲れてるだろうし、気心知れた仲で話したほうがいいんじゃないかと……」
「ふーん?」

 白川の答えに洋は立ち止まって振り向くと、ずい、と彼に近寄った。そして人差し指で白川をビシッと指し、そのまま胸を突く。

「あのな。俺は白川と仲良くなりたい。でも、迷惑なら迷惑とはっきり言ってくれ」
「ぅわあっ、は、はい……っ」

 倒れるのではと思うほど、白川は背中を仰け反らせた。それが気に食わなくて、洋は目の前の長身の男を睨めつけた。

「迷惑か?」
「い、いや……!」

 なぜか降参ポーズの白川。直樹が「その辺にしときな」と言うので、なんでだよ、と洋は直樹も睨む。

「そもそも、俺が洋に会いに行こうって誘ったの。嫌ならその時点で断られてるよ」

 ため息をつきながら呆れている様子の直樹。確かにそう誘われたなら、ここに来た時点で洋と会う気はあるということになる。ではなぜ、白川はこんなにもビクビクしているのか。

「じゃあなんでそんなに挙動不審なんだよ? 直樹と話してたときは普通だっただろ」
「そっ! それは……っ!」

 洋はさきほど覚えた違和感を、ストレートに聞いてみた。すると白川は明らかに動揺したようで、視線を泳がせながら黙ってしまう。
 そういえば、この挙動もよくするな、と思ったのだ。すると白川は消え入りそうな声で呟く。

「き、緊張、しちゃって……」
「つまり、やっぱり押しが強くて白川のお姉さんみたいだってこと」

 横から会話に入ってきた直樹。疲れてるんだろ行くよ、と歩き始める彼に、洋は納得いかないながらも付いていく。

「……俺、白川に何かを強要したことないぞ?」
「したことなくても、有無を言わさない圧はあるよね」

 う、と洋は呻く。付いてきた白川が「そんなことないよっ」と慌てているけれど、思い当たる節がある洋は黙る。
 確かに、白川みたいな人には、洋は押しが強そうに見えるのだろう。

「そりゃあ、多少の自覚はあるよ? でも、白川もさ、ちょっとずつ慣れて欲しいっていうか……」
「う、うん! 俺、がんばる!」

 白川はグッと拳を握った。頑張らないと一緒にいられないのか、とも思ったけれど、それは言わないことにする。誰だって苦手なことの一つや二つ、あるだろうからだ。

(多分白川は、人と距離を詰めるのが苦手なんだろーな)

 グイグイいく洋とは正反対だ。だからこそ興味があるし、仲良くなれたら新しい発見がありそう、なんて思う。

「……」

 それなら、色々聞いてみたい。

「なあ白川って、全然怒らなさそうだよな。怒ることってあるの?」

 洋はそう聞くと、直樹が呆れたような視線を向けてくる。今言ったばかりなのに、とでも言いそうな視線を無視し、白川を見上げた。

「そ、そりゃあ、もちろん……」
「え? どんなことで?」

 話している限り、白川は穏やかそうだ。そんな彼が怒るなんて、よっぽどのことがあったのだろう。
 やっぱり落ち着かなく視線を泳がせる白川は、小さな声で「姉が」と呟く。

「美容師で、……勝手に髪をピンクに染められそうになった」
「お、おう……それは……」

 洋は白川が言っていた、姉の評価を思い出す。まさに言葉の通りだったとは思わず、女兄弟って怖いな、と呟いた。

「いや、普段は俺の髪を手入れしてくれるし、……それは、ありがたいんだけど……」

 それでも、なんだかんだで仲は良いらしい。洋は白川を見上げると、茶色に染めた髪はウェーブがかかっているものの、ツヤツヤさらさらしていた。

「……それ、くせっ毛?」
「え? ああ、うん……下手すると広がるからって理由で手入れしてもらってる。あと、練習台もかねて……」

 そう言って、白川はその髪を手で押さえた。艶のある髪がたわみ、髪の間に入った指の関節のゴツゴツした感じに、なぜかドキリとする。

(なんだろ?)

 洋はその正体に気付かないまま、そこに手を伸ばした。
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