なぁ白川、好き避けしないでこっち見て笑って。

大竹あやめ

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 週末の土曜日は晴れていい天気だった。残念ながら桜は半分ほど散ってしまっているけれど、こういうのは雰囲気だ、と洋は盛り上げる。

「っていうか、白川くんと篠崎くん、仲が良いなんて知らなかったー」
「俺も名前だけは知ってたんだけど、話してみたら良い奴でさー」

 花見のために、洋は女の子を四人集めた。もちろん哲也の意中の子、ぜんちゃんも一緒だ。洋が声をかけたら二つ返事でオーケーしてくれて、今は哲也となぜか直樹、ぜんちゃんと三人で楽しそうに会話している。どうやら哲也は二人きりで会話する勇気がないらしい。

(ヘタレめ……)

 そう思いはするものの、直樹がいるなら下手なことは言わないか、と安心する。頑張れよ、と心の中でエールを送り、視線を戻した。

「ってか、えみちゃん新歓以来? 大学で見かけるけど声をかけるタイミングがなくて」
「ねー! すごい久しぶりー!」

 ぜんちゃんと仲が良い子の中に、洋が仲良くしてみたいと思った子がいたのだ。入学してすぐの新入生歓迎会に来ていて、話して楽しかったのを思い出した。

「そーいや白川くんも来てたよね、新歓」
「え、そうなの?」

 意外な言葉に洋は白川を見ると、彼は微笑んでいる。

「うん。実は君たちが話してるのを遠くから見てた」
「やだー、見てないで話しかけてよー」

 えみは笑っているけれど、洋は意外に思っていた。この様子だと、洋の存在は入学当初から知られていたようだ。

(じゃあ、仲良くなるチャンスはもっと前からあったわけか……)

 なぜか損した気分になり、隣の白川を見上げる。彼は目を細めて女の子たちを見ていて、この中に好みの子がいるのかな、と考えるとワクワクした。

「あ、そのピアスかわいいね」

 白川が、えみの耳を覗き込む。髪の毛で半分隠れているにも関わらず、そういうところに気付いて褒められるのは、ちゃんと人を見ている証拠だ。案の定えみは笑って、自分へのご褒美に買ったの、と喜んでいる。

 「みんな春らしい服で爽やかだね。オシャレしてきてくれたんだ?」

 嬉しいな、と白川は笑顔でそう言う。自分はなかなか言えないことを、サラッと言えてしまう彼を、洋は素直にすごいと思った。

「そ、そりゃあ、男の子と遊ぶんだから、……ねぇ!?」
「う、うん! びっくりした、白川くんキツそうな女の子とばかりいるから」
「こんなイケメン発言する人だと思わなかったよ~」

 褒められた女の子たちは一気に浮き立つ。視線が白川に集中したのを感じて、洋は遠い目をした。
 ああ、やっぱりイケメンにはかなわないのだな、と。

(まあでも、俺もそこまでがっついてないし)

 それなら、友人の恋を応援するのが洋の役目だ。となると、こっそり白川の好みの子を聞き出さなければ。

「あ、ドリンクなくなってきたから俺買ってくる。白川、手伝ってくれる?」

 洋は手っ取り早く連れ出す口実を見つけ、白川を呼ぶ。女の子たちも一緒に行こうか? と言ってくれるけれど、重くなるだろうから良いよ、と断った。

「待ってて。ついでに甘いものも買ってくるよ」
「わー篠崎くん気が利く~。ありがとー」

 行くぞ、と洋が促すと、白川は大人しく付いてきた。哲也は頑張っていて、まだ話に夢中だ。
 しばらく歩いて離れたところで、洋はニヤニヤしながら白川を見上げる。

「お前、女の子の前では人変わるのな?」
「へっ? い、いや! ……あれは、いつものことで……!」

 先程の爽やかイケメンぶりはどこに行ったのだろうと思うほど、白川はオドオドし始めた。女性の前ではキラキラしていたのに、と洋は笑う。

「いつものことって、いつもあんな歯の浮くようなこと言うのか?」
「じ、じゃないと怒られるから……!」

 歩きながらも身体を縮こまらせた白川。怒られる? と聞くと、彼は視線を泳がせながら呟く。

「姉ちゃんと妹たちに……。服装やアクセサリーを褒めないと、男じゃないって……」
「……ああ!」

 なるほど、と洋は手を打つ。そういえば、洋がよく見る場面も、女の子といるときが多かったな、と。

(だからモテるのか。今までの白川を見てる限り、女系家族なのかな? で、家族の中でも立場が弱そうだから……)

 押しに弱いのか、と合点がいく。となると、白川の本来の姿はこちらなのだろう。

「そんなに怖いの?」

 一人っ子の洋からすれば、優しい姉や、かわいく甘えてくる妹は妄想の中でしかいない。現実ではそうはいかない、と突きつけられたようで、なんだかワクワクしながら聞いてみる。

「そりゃあもう! 自分勝手、独り善がり、自己中心的、横暴!」
「お、おう……」

 なかなか酷い言われようだが、大人しいと思っていた白川がそこまで言うのはよっぽどなのだろう。彼の勢いに洋は身を引くと、ハッとした白川はまた大人しくなる。その変わりように洋は笑った。

「ごめん、あの中で好みの子がいるのかなって思ってたけど……どう?」
「う、……ぁ、いや……」

 洋は一応聞いてみたけれど、思った通り彼は視線を泳がせて口ごもってしまった。女の子の前では徹底的に紳士でいろと姉たちに言われてきて、それが染み付いてしまっている、と白川は言う。この様子では、どうやら好みの子はあの中にはいないらしい。

「でも、恋愛はしたいと思ってるんだよな?」
「う……」
「……え、まさか本当は違う?」

 もしかして、先日洋が圧をかけすぎて、白川に嘘をつかせてしまったのなら申し訳ない。直樹が意味ありげに押しが強いと言っていたのは、こういうことだったのか、と反省する。
 でも、直樹はどうしてそこまでわかったのだろう?

(まあいいや、あとで問いただす)

 それよりも、今は白川だ、と意識を戻した。

「い、いや! 恋愛、は、したいよっ? で、でもっ……」

 そう言いながら、白川の耳が赤いことに気付いた。自分の恋愛話をするだけでこれだけ照れるなんて、初心な奴だなと微笑ましくなる。

「でも?」

 続きの言葉が出ない白川に、強くなり過ぎないように促してみた。けれど白川は忙しなく視線を巡らせるだけで、言いそうにない。

「……こういう話も恥ずかしい?」
「う……」

 こくん、と頷く白川に、洋は少なからず驚いた。そして、照れまくっている白川が、なんだかかわいいと思えてくる。

「なんだよ~、俺たち友達だろ?」

 できる限り協力したいと思ってるから、と言うと、白川は呻いた。あれだけモテると思っていた彼のイメージが、ガラガラと崩れていくのが楽しい。そうか、白川は本当はこういう人だったのか、と。
 すると彼は、両手で顔を覆ってしまった。それなのに歩く足は止めないから、危ないぞ、と笑う。

「すっ、……好きな、人は、いるんだ……」
「わあ、マジか!」

 洋は彼の本音が聞けて喜んだ。それなら全面的に協力したい。けれどそうなると、今日の花見は完全に洋のお節介になるわけで。

「あ、じゃあ今日のは余計なお世話になるのか」
「いやっ、そんなことないよ!」

 弾かれたように、顔を覆っていた手を外してこちらを見てくる白川。そして先日と同じように、ハッとしたあとはモジモジしている。
 正直、男らしくないとか、なよなよしい、とは思わなかった。少なくも、良かれと思ってやった洋の行動を、否定しないでいてくれる。それは、彼が優しいからだと思ったのだ。

「そう? サンキュ。……で? 好きな子って誰なんだ?」

 こんな照れ屋で奥手な彼も、恋をしているんだと思うと応援したい。そう思って聞くと、白川は顔の前で大きく手を振った。

「いや! 全然! 俺の片想いだし! これ以上は望んじゃいけないというか……!」
「そう? 白川、俺から見てもかっこいいし、仲良くなれるんじゃね?」

 そう言いながら、洋はなるほど、と納得する。奥手な彼らしく、見ているだけで満足……というか、意中の人と話しただけで卒倒しそうだな、と笑った。

「……で? 誰?」

 この恥ずかしがり屋で初心で奥手な白川が、好きになった子はどういう子なのか気になる。そう思って彼を見ると、なぜか白川は惚けたようにこちらを見ていた。

「……白川?」
「え、あ! いや! そ、そのうち話すから今は……!」

 そう言ってまた顔を両手で隠してしまった彼は、好きな人の名前を呼ぶことも照れるらしい。洋もそれ以上追求するのを諦め、そのうちな、と背中を叩くと、白川は大袈裟に呻いた。
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