なぁ白川、好き避けしないでこっち見て笑って。

大竹あやめ

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「じゃあさ、今週末みんなで花見しねぇ?」

 洋がそう提案すると、直樹が、じゃあ、の意味がわからないしワイワイしたいだけでしょ、とつっこんでくる。すでに散り始めてるからなぁ、と言いながら、スマホでスケジュールを確認し始めたのは哲也だ。なんだかんだ言って、付き合ってくれる二人は良い奴、と洋は笑う。

「白川は? 予定ある?」
「えっ、いや、ないけど……」

 じゃ決まり、と洋は自分のスマホに予定を書き込んだ。あと誰を呼ぼうかな、と呟くと、隣で慌てている白川がいる。

「えと、……俺もいいの?」
「なんで? この状況で白川は来るななんて言わないだろ普通」

 洋は笑うと、白川はサッと視線を外した。先程から白川は落ち着かない様子だけれど、どうしたのだろう?

「……もしかして、話しかけたりするの、迷惑だった?」
「……っ、いや!」

 本当に一人が好きで、放っておいて欲しいと思っていたら悪い。そう思って洋は聞いたけれど、白川は再びこちらを向いて力強くそう言った。しかし次には大声を出したことが恥ずかしかったのか、また視線を外して身体を小さくしている。
 はたから見たらモデルか芸能人かと思うほどかっこいいのに、今はなんだか小動物みたいだ。そのギャップが面白くて、洋は満面の笑みで彼を見た。

「週末、みんなで楽しもーな?」
「う、…………うん……」

 まともにこちらを見ない彼が面白くて、ついついからかってしまう。それを見ていた直樹が、なるほどね、と呟いた。

「何がなるほどだよ?」
「……押しが強い人には逆らえないって、今まさに再現してるな、と」
「誰が押しが強いだ?」

 聞き捨てならない、と洋はジト目で直樹を見ると、そんなことないよ、と白川が慌てている。しかし、からかった自覚はあるので、洋はため息をついて両手を顔の横に挙げた。

「ごめん、ちょっと白川の反応が楽しくて……」
「うん知ってた。反省しな」
「……直樹に言われるとなんも言えねぇ……」

 さすが長い付き合いがある直樹だ。洋が白川の人馴れなさをからかっていたことを、見抜いていたらしい。

「メンバーは? 女の子呼ぶ?」
「そりゃあ呼ぶでしょ。哲也、呼んで欲しい子いるのか?」

 慣れれば賑やかしになる哲也だが、実は彼、人見知りで小心者だ。そんな彼の発言の意図を汲み取って、洋は聞いてみる。

「ぜ、ぜんちゃんとか……」
「は? お前、つい最近までゆうこちゃんが良いとか言ってなかったっけ?」

 しかし、熱しやすく冷めやすいのか、彼の恋は長続きしない。また好きな子変わったのかよと突っ込むと、良いなって思ったんだからしょうがないだろ、と哲也は口を尖らせた。

「まあいいや。誘っておく」
「はー! ありがとうございます洋様!」

 両手を合わせ、深々と頭を下げる哲也に、現金な奴めと洋は思う。けれどこれで彼が喜んでくれるなら、自分が動くのも苦ではない。

「……洋は? 良いなと思う子はいないの? 先日振られたわけだけど」
「直樹引っ張るよねーそのネタ」

 人をからかって遊ぶきらいのある直樹は、人のことを言える立場か、と思う。けれどそれも彼なりの冗談だとわかっているので、洋は流した。

「どんな子が好きなんだっけ?」

 直樹が、いまさらそんなことを聞いてくるのが珍しかった。なんでわざわざ聞くのだろうと思っていると、隣から視線を感じてそちらを見る。
 すると、バチッと音がするほど白川と目が合った。彼は慌てたように視線を外したけれど、なるほど、と洋は思う。洋のことを、白川に伝えるきっかけを直樹はくれたのだ。

「俺は気が合う子なら。仲良くなってから好きになることが多いかな」
「な、仲良く……」

 そわそわと視線が落ち着かない様子の白川。意中の子と話すのに、この様子じゃ先が思いやられると思って、彼の背中を軽く叩いた。

「ぅわあ!」

 すると彼は大きく身体をビクつかせ、背中を仰け反らせる。そんなに驚かなくても、とびっくりした洋は、悪い、と謝る。

「い、いや! こっちこそごめん! ちょっと用事思い出したから行くね!」

 そう言ってガタガタと慌ただしく席を立ち、去っていく白川を、洋は呆然と見送った。どうしたんだろう、と直樹たちを見ると、哲也は不思議そうな顔をしていて、直樹は声を抑えて笑っている。

「……何笑ってんだよ直樹」
「……っ、いや、あれだけ奥手で好きな子と付き合えるのかなって」

 どうやら直樹も同じことを考えていたらしい。そうだな、と同意しつつ、やっぱり洋が協力できることがあるなら協力したい。
 そのために、白川のことをもう少し知りたいと思ったのだ。

(……うん、俺は人のことを知るのが楽しい)

 会話も好きだけれど、自分の知らない世界を知ることが好き。この人はどういう考えで、どんな世界で生きているのだろう、と興味が湧いてくるのだ。

「俺、白川には幸せになってもらいたいなー」
「……頑張れ」

 純粋に良い奴みたいだから応援したい、というのが洋の本音なのに、直樹はなぜか笑っている。なぜ笑う、と彼を見ると、洋が純粋で面白い、と言われた。

「いや、純粋で良い奴だな、ならわかるけど。なんで面白いになるんだよ?」
「他人に悪意はないって疑わないところ」

 洋は口を尖らせる。お前の良いところだし好きだけどね、と直樹は言うけれど、なんとなくバカにされているようで気に食わない。
 けれど、いつでも冷静で、人をよく見ている直樹に言われるのは、悪い気がしないから厄介だ。嬉しいやら怒りたいやらで黙る洋を、哲也も笑う。

「お前の素直なところ、俺も好き」
「……っ、やめろやめろーっ」

 からかわれていると知りながらも、友達が笑っているならいいか、と思ってしまう自分はお人好しなのかもしれない。大袈裟に両手を振ると、二人は声を出して笑った。
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