上 下
21 / 24

21※

しおりを挟む
 ちゅく、ちゅ、と濡れた音がする。その他には二人の少し弾んだ息遣いの音。冬の冷たい空気は僅かな音の振動も遠くへ響かせ、それが冬哉を熱くさせた。

 冬哉は秀の耳に触れる。熱くなったそこは冬哉だけが興奮している訳ではないと分かり、胸がキュンと苦しくなった。それと同時に下半身もズクンと反応して、冬哉は唇を離す。

「誕生日プレゼント、まだもらってない」

「……っ、言うと思った……」

 やはりこれが目的だったか、と冬哉はカーッと顔が熱くなった。言い出したのは自分だし、でも怖いし、と迷っていると、秀は頭を撫でる。

「……メシ、先に食べるか?」

 秀が気を遣ってくれたのが分かる。冬哉は短く息を吐くと、秀の膝の上に乗った。

「……優しくしてくれる?」

 唇を擦り合わせて甘い声を出すと、秀は目を伏せて、うん、と返事をした。そのまま口付けすると、冬哉はある事を思い付いて、秀の長い前髪を両手で掻き上げる。切れ長の目がこちらを見ているけれど、瞳の中の光はいつも通りだった。そして、やっぱり秀はカッコイイな、とおでこにキスをする。

 前髪が、というか髪が長いせいでどうももっさりした印象を受ける彼は、こんなにイケメンなのにどうしてモテなかったのだろう? と髪を梳きながら元に戻した。

「秀くん、髪切らないでね?」

 秀のかっこよさは、自分だけ知っていれば良い。そう思ってまた唇にキスをする。

「冬哉」

「何? ちょ、……んっ」

 いきなりトップスの中に手を入れられ、肌の上を滑らせるようにして服を脱がされた。ひんやりとした空気が肌に触れ、思わず両腕を抱える。しかし、秀はその腕を退かそうとした。

「見せて」

 秀の力は決して強くはなかったけれど、冬哉は何故か抗えずに腕を解く。冬哉は恥ずかしさで俯くと、秀の長い指がそっと唇に触れ、僅かに開いた隙間から親指が中に入ってくる。そして他の四本の指で顎を持ち上げられ、秀の視線とぶつかった。

「……ぁ」

 ゾクリと背中が微かに震える。秀は満足したのか、顎から手を離し、指先で首筋、鎖骨の間と撫でていった。まるで肌の滑らかさを確かめるようなそれに、冬哉はそっと息を吐く。

「秀くん……手つきがやらしいよ……」

 照れ隠しに冬哉がそう言うと、そうか、とだけ返ってくる。そしてその指は胸の上――冬哉の感じる所を掠めた。ハッキリとした快感が腰の辺りに広がり、ひくん、と肩が震える。すると秀は反対側ももう片方の手で擦り、摘み、捏ねてきた。与えられる刺激に素直に反応した冬哉は、それだけで下半身が破裂しそうになってしまう。

「し、秀くん……っ」

 ビクビクと背中を反らせて彼の名前を呼ぶと、秀は冬哉のパンツに手を掛けた。

「……慣らさないと」

「……っ、うん……」

 冬哉は一度秀の膝から降りる。しかしそこで秀はまだ服を脱いでいないことに気付き、口を尖らせた。

「秀くんも脱いでよ」

 僕ばっかりは嫌だ、と言うと、秀は全ての服を脱ぎ去った。昨日は恥ずかしがっていたのに、もう免疫を付けたのか、と冬哉は驚く。そしてやはり、圧倒的な存在感を放つ彼の股間に目が行ってしまう。すると秀はカバンから何かのチューブ容器と、何かが入った箱を出した。それらを何の目的で、何にどうやって使うのか、考えたくなくて、慌てて視線を逸らす。

(何でローションとコンドームまで持って来てるの!?)

「冬哉」

 静かに呼ばれて、冬哉は恥ずかしがりながらもパンツを下着ごと脱いだ。そして再び秀の膝の上に戻ってくると抱きしめられる。

 温かな体温が直に感じられて、冬哉は安心するのか緊張するのか分からなくなった。秀は宥めるように冬哉の背中を撫でると、チューブ容器からたっぷり中身を取り出し、それを少しずつ冬哉の後ろに塗っていく。

「ん……」

 冬哉はそこに触れられる事に慣れていないので、思わず身体に力が入る。すると秀は、力抜いて、といつもの表情で言うのだ。

「……秀くん、本当に初めて?」

 絶対慣れてるよね、と言われた通り力を抜くと、蕾を揉むようにして触れていた指の先が入ってくる。

「動物も、同性愛行動を取る種類が沢山ある。もちろん虫にも」

 何故繁殖に関係ない行為をするのか、諸説あるけど、と解説を始めたので、冬哉は首を振ってそれを止めた。

「それどころじゃないから!」

 何で今それを言うのか、と思っていると、秀は冬哉の半開きで息を乱す唇に吸い付く。

「……俺は冬哉を抱きたい。愛したい」

「……っ!」

 冬哉の背中がぴくりと反応した。それは秀の言葉によるものなのか、いつの間にか奥まで入った指が、ある箇所に触れたからかは分からない。しかし何故か身体が熱くなっていき、冬哉の腰はうねる。

「んん……っ、な、何これっ?」

「……前立腺。気持ちいい?」

「わっ、分かんないよぉ……!」

 冬哉は顔を顰めて与えられる刺激に耐えていると、秀がいつもの表情でこちらを見ている事に気付いた。見ないでぇ、と顔を腕で隠すと、そっとその腕を退かされる。

「見せて」

 相変わらず言葉は少ないけれど、ハッキリと気持ちを言葉にする秀。どうしてこういう時だけ、と冬哉は恥ずかしさで涙が浮かび、フルフルと首を振って秀くんの意地悪、と肩を叩く。しかしそれも力が入らず撫でただけで終わり、覚えのある感覚に戸惑って声を上げた。

「あっ、秀くんっ、だめ……っ、……いっちゃうっ」

 勝手に動く腰を止めようと力を入れると、全身に力が入る。同時に脳天を突くような強い快感に襲われて、大きく背中を逸らした。

「ーーッ!」

 声も出ない程の出来事に乱れた息を整えていると、ようやく秀は後ろへの刺激を止めて指を抜き、空いた片手で冬哉の頭を撫でる。

「……気持ちいい?」

 見ると冬哉は射精していなかった。まだ硬くそそり立ったままで、一体何があったんだ、と秀の肩口に額を当てる。彼の問いに力なく頷くと、入れていい? と聞かれた。冬哉はそれにも頷く。

「そ、そんな大きいの……入るかなぁ?」

 改めて秀の股間を見た冬哉は、凶器のようなそこを受け入れられるか心配だった。しかしやると言ったのは自分だ、ごくりと唾を飲み込むと、急に視界がひっくり返る。

「……っ、秀くんっ?」

「……ごめん」

 押し倒されたと気付き彼の名を呼んだ。秀はそう呟くと、あの凶暴なものの切っ先を冬哉の後ろにあてがう。そして息つく暇もなくそれを押し込んだ。

「ーーあ……っ! 秀くん、待って……っ!」

 圧迫感に冬哉は思わず息を詰める。痛くはないけれど、苦しさにボロボロと涙が零れ落ちると、秀はその目尻をふわりと拭った。そして少し、また少しと熱い凶器を押し込まれ、声を上げて呼吸をするしか術はない。

「冬哉……温かい……ごめん……」

 秀は秀で限界だったらしく、乱れた息の中うわ言のように呟く。そして奥に入れたまま揺さぶられ、冬哉の身体は捻って逃げようとした。先程前立腺と言われた所に秀の切っ先が当たり、擦れる度に冬哉は声を上げて、秀を締め付ける。そしてまた、覚えのある感覚があって、冬哉はガクガクと全身を震わせた。

「……っ、冬哉……っ」

 秀も息を詰める。表情はやはりあまり変わらないものの、普段の秀からは想像できないほどの色気に、冬哉はまたゾクゾクした。

「秀くん……」

 名前を呼ぶと、秀は動きを止めて軽く口付ける。そのまま二人は無言で抱きしめ合い、冬哉は幸せを噛み締めた。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる

佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます 「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」 なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。 彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。 私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。 それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。 そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。 ただ。 婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。 切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。 彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。 「どうか、私と結婚してください」 「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」 私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。 彼のことはよく知っている。 彼もまた、私のことをよく知っている。 でも彼は『それ』が私だとは知らない。 まったくの別人に見えているはずなのだから。 なのに、何故私にプロポーズを? しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。 どういうこと? ============ 番外編は思いついたら追加していく予定です。 <レジーナ公式サイト番外編> 「番外編 相変わらずな日常」 レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。 いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。   ※転載・複写はお断りいたします。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

愛する者の腕に抱かれ、獣は甘い声を上げる

すいかちゃん
BL
獣の血を受け継ぐ一族。人間のままでいるためには・・・。 第一章 「優しい兄達の腕に抱かれ、弟は初めての発情期を迎える」 一族の中でも獣の血が濃く残ってしまった颯真。一族から疎まれる存在でしかなかった弟を、兄の亜蘭と玖蘭は密かに連れ出し育てる。3人だけで暮らすなか、颯真は初めての発情期を迎える。亜蘭と玖蘭は、颯真が獣にならないようにその身体を抱き締め支配する。 2人のイケメン兄達が、とにかく弟を可愛がるという話です。 第二章「孤独に育った獣は、愛する男の腕に抱かれ甘く啼く」 獣の血が濃い護は、幼い頃から家族から離されて暮らしていた。世話係りをしていた柳沢が引退する事となり、代わりに彼の孫である誠司がやってくる。真面目で優しい誠司に、護は次第に心を開いていく。やがて、2人は恋人同士となったが・・・。 第三章「獣と化した幼馴染みに、青年は変わらぬ愛を注ぎ続ける」 幼馴染み同士の凛と夏陽。成長しても、ずっと一緒だった。凛に片思いしている事に気が付き、夏陽は思い切って告白。凛も同じ気持ちだと言ってくれた。 だが、成人式の数日前。夏陽は、凛から別れを告げられる。そして、凛の兄である靖から彼の中に獣の血が流れている事を知らされる。発情期を迎えた凛の元に向かえば、靖がいきなり夏陽を羽交い締めにする。 獣が攻めとなる話です。また、時代もかなり現代に近くなっています。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

処理中です...