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10 魔力耐性と王子

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「そう申されましてもショウ様、もう少し頑張ってみませんか?」

 あれから数日後のある日の午後。いつものように教師を呼んで勉強に励んでいたショウ様だったが、しばらくするうちに「もう嫌だ」と仰り、教師を帰してしまった。これではいつまで経っても勉強が進みませんよ、と申し上げても、嫌だの一点張り。……どうしたものか。

 先日、自称オコト様お付きの研究員と名乗る男に、催淫効果のある薬を塗られ、ショウ様の熱を(仕方なく)治めた。二、三日は少し気まずそうにしていたショウ様だったけれど、ここの所ショウ様も元通りに落ち着いてきたと思っていたのに。

 いや、勉強が嫌だと駄々をこねるのは、いつも通りに戻った証拠だな、と私はため息をつく。

 すると突然部屋のドアが開き、ある女性が紐を引っ張りながら入って来た。高貴な魔族の証である漆黒の長いウェーブがかかった髪に、これはまたまじまじと見るのもはばかれるほど面積が小さい服──服と言うか面積は紐に近い──を着て、その身体は出るところが出てとても艶めかしい。大きな赤い瞳に長いまつ毛、柔らかそうな肌にしっとり濡れた唇は軽く口角が上げられている……ショウ様のお母上、オコト様だ。

 オコト様は一礼をする私を無視し、クンッと紐を引っ張る。その先に繋がれていたのは、首輪と手錠をされたトルン……もとい変態ドM眼鏡野郎で、ああ、もっと強く、とはぁはぁしながらつんのめって歩いて来た。

「ショウ。お前、世話係の言うことを聞かないって、どういうこと?」

 ショウ様を上から(それはそれは高いピンヒールを履いていた)見下ろすオコト様は、誰もがひれ伏したくなるほど迫力があり、動く度に揺れるオコト様の豊満な胸を、私は心を無にして眺める。オコト様……寒くはないのだろうか?

 ショウ様はさすが魔族の王子で、そんなオコト様の迫力にも動じない。椅子の上に膝を抱えて座って「嫌なものは嫌だし」と顔を逸らしてしまわれた。

「膝を抱えて座るなと、何度言えば分かるの!?」
「いたっ!」
「あああっ、オコト様! 体罰なら吾輩に……っ!」

 ピシャリとショウ様の頭を叩いたオコト様。余計な声も聞こえた気がしたけれど、私もオコト様もスルーだ。

「起きている間の魔力を、引き出す薬を作ったわ。これを飲んで、少しはインキュバスとして人を魅了しなさい」

 例のアレを、とオコト様はトルンに命じる。トルンは白衣のポケットから、錠剤を取り出した。……ちょっと待て、その錠剤、形的に座薬のような……。

「はぁはぁ、さあショウ様……吾輩がゆっくりこれを挿れて差し上げましょう……!」

 手錠で繋がれたままの手で錠剤を持ち、鼻息荒くショウ様に近付く変態ドM眼鏡野郎。私はショウ様の危険を察知し、止めようとした時だった。オコト様が変態ドM眼鏡野郎に繋がれた紐を、思い切り引っ張ったのだ。

「ぐえっ!」

 カエルが潰れるような声を上げた変態ドM眼鏡野郎は、後ろにひっくり返り、床に仰向けに倒れた。そしてその股間を、オコト様がピンヒールで踏みつける。

「お前は……言いつけを守れといつも言ってるでしょう?」
「あっ、あっ! オコト様! もっと! もっと踏んで……! そして絶景ですううう!」

 そう叫ぶ変態ドM眼鏡野郎は、どうやらオコト様の小さな布で隠された足の間を眺めているようだ。……この節操なしめ。

「リュートとか言ったわね。薬を受け取りなさい」
「はあ……」

 しかしまたなぜ座薬にしたのか。本当にこいつら……もといオコト様と変態ドM眼鏡野郎は、ショウ様のことを考えているのだろうか?

 素直に薬を渡した変態ドM眼鏡野郎は、ああ、リュートのその蔑んだ目が堪らないよ! と叫んでいたが無視した。

「さすが、代々世話係の家系だけあって、魔力耐性は高いようね」

 ずっと素でいる私にオコト様は感心されているようだ、これは少し嬉しい。オコト様の言う通り、世話係をするにあたって魔力耐性は必要不可欠だ。しかしそれも、限界はあるけれど。

 オコト様は嫣然えんぜんと微笑んでいるが、私には効いていないのは、オコト様の足の下で股間を膨らませている変態ドM眼鏡野郎を見れば一目瞭然だ。ショウ様は魔力が夢の中限定とはいえ、高いので言わずもがな。

「ではリュート、その薬の効果を後ほど報告すること。……行くわよ」
「えっ、あっ? もう終わりですかっ?」

 ズルズルと変態ドM眼鏡野郎を引きずっていくオコト様は、「肉便器にされたいの!?」と叫ばれている。変態ドM眼鏡野郎は「アレも最高でした……!」と言って部屋から出て行った。……聞きたくなかったな。

 そんな二人のプレイはさておき、私の手には座薬が一つ。さて、どうしたものか。

「リュート」
「はい」

 ショウ様は椅子から立ち上がると、不意に私の足元が揺れた。

「……っ」

 その覚えがありすぎる感覚に、どうしてこのタイミングなんですか、と呟く。強烈な眠気に目眩がし、床に膝をついたけれど、次の瞬間にはもう、意識を失っていた。
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