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全力で愛してくれ7

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ほんの少しだけ期待して家に帰ったけれど、部屋は暗いままだった。

リビングのソファーにバッグを置くと、櫂斗は思い当たる所に電話をかけてみようと、考えを巡らせた。

文房具などが入っている引き出しに、亮介の名刺が入っている、まずは会社にかけてみた。事務員さんらしき人が出てくれたけれど、亮介との関係性を言えなくて不審がられてしまう。さらに社長なら知っているかもと思って、あきの名前も出すけれど、ますます怪しまれて通話を切られてしまった。

「……あと、亮介が行きそうな所……」

櫂斗は唇を噛む。櫂斗が嫌がるからと、亮介の交友関係の場に、あまり行かなかったのがここにきて仇になっていた。

「……肇と怜也……」

櫂斗が知っている唯一の亮介の友達だ。しかし、連絡先まで知らない。

「怜也の名刺っ」

櫂斗は怜也から連絡先を貰ったのを思い出し、それを探し出す。営業だと言っていたから、多分連絡がつきやすい携帯電話の番号も載っているだろう、と見てみたら当たりだった。

櫂斗はすぐにその番号にかけてみる。すると、営業用の挨拶で怜也は出てくれた。

「あの、怜也さん……堀内……堀内櫂斗です」

『え? 櫂斗って……亮介のとこの?』

急にどうした? と怜也は心配して聞いてくれた。すると、急に涙が込み上げてきて、櫂斗は涙声になってしまう。

「すみません……亮介と、ケンカして……」

彼の行方が分からない、と櫂斗は泣きながら言った。怜也は亮介との仲を知っているから、櫂斗は緊張の糸が切れてしまったようだ。ズルズルとその場に座り込んだ。

『そっか。櫂斗、今から言う番号メモできる?』

櫂斗は慌ててメモとペンを用意する。伝えられたのは、怜也のプライベートな番号だった。その番号からかけ直すから、一旦切るな、と言われ、櫂斗はすぐにかかってきた電話に出る。

『それで俺のところにかけてきたのか。名刺渡しておいて正解だったわー』

グッジョブ俺、と自画自賛している怜也に、櫂斗は泣きながら笑った。

『それで? 肇の所にはいなかったのか?』

「それが、肇の連絡先を知らなくて……」

『そうかー。肇は……今から店のピークだもんな……俺から連絡して、櫂斗に連絡するように言っておこうか?』

仕事してるからすぐの連絡は期待できないけど、と怜也は言うが、そこまでしてもらえるなら充分だ。お願いしますと言って、通話を切った。

グズ、と櫂斗は鼻水をすする。とりあえず着替えよう、亮介探しはその後だ、と部屋着に着替えた。おかげで少し冷静になれて、落ち着こう、とお茶を取り出した時だった。

スマホが着信を知らせる。知らない番号だ。

「もしもし?」

『櫂斗? 肇だ。お前大丈夫か?』

怜也から、櫂斗が泣きながら亮介を探していると聞いたらしい、心配して仕事中にも関わらず、かけてきてくれたのだ。怜也といい、二人は本当に良い人だな、と櫂斗は思う。

「オレは大丈夫……でも、亮介が心配で……」

『そうだよな。悪ぃ、仕事さえ無ければすぐそっちへ行ってやれるんだけど』

「え、いや、大丈夫っ。亮介から連絡があったら教えて欲しいってだけだから」

『……とにかく、切り上げられたら一旦家に帰ってそっちへ行く』

どうしてか肇は櫂斗の所へ行きたいようだ。何故かはすぐに分かった。

『変な気、起こすんじゃないぞ』

「……っ」

肇はそう言って、通話を切った。櫂斗は大きく脈打つ心臓を宥めようと、大きく息を吐く。

肇は知っているのだ、櫂斗が以前自殺未遂をした事を。だから余計に心配している。怜也の態度とは違ったのは、怜也は知らされていないからだ。

誰が話したのか? 亮介以外にいない。

よりによって肇に話すとは、亮介も嫌な奴だ、元好きな人に、今の恋人の話をするのかと、イラッとした。

「やっぱりちゃんと話さないと……」

櫂斗はそう呟く。

それから三時間後、櫂斗は肇から連絡をもらった。亮介は肇の自宅を訪れ、しばらくいさせてくれと頼んできたらしい。

『酔ってるからめんどくさい事になってる。早く迎えに来てくれ』

そう肇に言われて、櫂斗は電車で教えられた住所に向かった。やはり肇の自宅を訪れる事自体、櫂斗への嫌がらせにしか思えず、性悪だな、と舌打ちをする。

「けど、無事で良かった」

涙がじわりと目に浮かぶ。それを零すまいと上を向いて耐えると、肇の自宅へと走った。

肇の自宅は駅近くの、立派なマンションだった。あまりこだわりが無さそうだった肇が、こんな良い家に住んでいるなんて意外だ。

インターホンを押すと、すぐに肇が出てくれる。相変わらず童顔で、中性的で可愛い彼は、櫂斗をすぐに中へと招き入れてくれた。

「あの、ごめんなさい……お世話になって……」

「いや、それより……お前飯食ってないだろ」

食っていけ、と言われダイニングに通される。そこもモデルルームかと思うほどのコーディネートで、失礼ながら肇には似合わないと思ってしまう。

部屋は全体を通してモノトーン調で、グリーンがアクセントに置いてあった。

部屋を見渡している事に気付いた肇は、テーブルに食事を運びながら言う。

「言っとくけど、オレの趣味じゃねぇよ」

同居人の趣味だ、とナポリタンをテーブルに置いた。なるほど、と納得しかけて、それはいつか聞いた、肇の彼氏の話では? と思う。

「あ、の……亮介は?」

「今は同居人……みなとが相手してる。酔っ払いの相手は慣れてるから」

とりあえず食べてから、と言われ、櫂斗は椅子に座ると手を合わせて食べ始める。ケチャップの味が沁みて、また涙が浮かんだ。

「本当はここに来た事は話すなって言われたけど、こっちだって同居人もいるし、早く出ていけって言ったら座ったまま動かなくて」

理由を聞いてもダンマリで埒が明かないから来てもらった、と肇は嬉しそうに話す。

「……何で笑ってるんだよ」

「や、愛されてんなって。仕事ですら落ち込む事あんまり無いだろアイツ」

それが恋人とケンカしただけでヤケ酒とか笑える、と肇はクスクス笑った。確かに、普段の亮介は割と一定のテンションを保っている。無茶な仕事を振られても、むしろ燃えてやってやると息巻いてた程なのに。

そう思ったらカーッと顔が熱くなった。そして、早く亮介に会いたくてナポリタンを一気に食べる。

「肇ー、お水お代わりちょうだい」

そこへ、別の部屋から長身の男がコップを持ってやってきた。黒髪を右分けにして自然にセットし、綺麗なアーモンド型の目は黒目がちで、鼻と唇の形も整っていて、そこら辺のアイドルより女子が騒ぎそうな、優男だ。

(肇の、同居人……)

櫂斗は湊のイケメンっぷりに、少し惚けてしまう。

「あ、はじめまして。肇の同居人です」

「ほ、ほ、堀内、櫂斗です、はじめまして……あの、亮介がご迷惑かけてすみません……っ」

ニッコリ笑って挨拶をされ、櫂斗は何故かドギマギして返した。

(ってか、肇の彼氏? まじイケメン……なにこれモデルかよ)

ごちそうさまでした、と手を合わせながらチラリと湊を見ると、シャツの上からでも分かるほど、筋肉が付いていていい体格をしている事に気付く。こんな時なのに、湊から目が離せなくなるなんて、と櫂斗は両手で顔を覆った。

(優しそうだし、顔よし身体よしで……)

「羨ましい……」

「何か言ったか?」

思わず思った事が口から出てしまい、櫂斗は慌てて何でもない、と言った。肇は湊からコップを受け取ると、水道水をそれに注ぐ。

「え、水道水だったの?」

「亮介にはこれで充分だろ」

そう言った肇は湊にコップを渡すと、冷蔵庫から二リットルのペットボトルに入った水を取り出し、開けてそのまま飲んでいた。

「はい、これ持って行ってあげて」

湊はテーブルにコップを置くと、ニッコリ微笑む。櫂斗はそれを受け取ると、案内されたリビングに向かった。
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