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「ほら、脱げよ」

「え、ちょっと……明日も朝から仕事だし、泊まらないぞっ」

「ここに来たらやる事は一つしかないって言ってたのは誰だ? 先生の着替えも歯ブラシも置いてあるから、泊まれない事はないよな?」

あっという間にワイシャツを脱がされ、スラックスのベルトも外される。相変わらず脱がすのが早いな、と抵抗していると、首筋を舐められた。

「んんっ」

足の力が抜けそうになり、何とか持ち直す。

「ずっと物欲しそうな顔をしてるくせに、帰るとか素直じゃない事を言うからだ」

亮介は櫂斗のスラックスと下着を脱がすと、櫂斗の身体を反転させ、お尻の狭間を撫でた。櫂斗はそれだけで期待でいっぱいになり、鼻に抜けた声を上げてしまう。

すると、亮介は後ろでガサガサと何かを探っている。

「え? なに? 嫌だっ」

「見てもいないのに嫌だとか言うなよ」

そう言われて何かが後ろにあてがわれた。おもちゃらしい事は分かったけれど、何故そんな所にしまってあるんだ、と櫂斗は慌てる。

「先生、こういうの好きだろ?」

後ろからぬるり、とローションをまとって何かが入ってきた。圧迫感と期待に、櫂斗の熱は上がっていく。

「ほら、入った……靴下脱げよ」

亮介の言う通り、靴下を脱ごうと前かがみになった時、中に入ったおもちゃが振動した。櫂斗は声を上げて背中を反らすと、振動は止まる。後ろに入れられたのは、ディルド型のバイブだったらしい。

「先生? 靴下脱がないと、風呂入れないだろ?」

「あ……っ、だったら止めるか、抜くかしろよっ」

どうやらスイッチは亮介が持っているらしい。防水だからそのまま風呂に入れるぞと言われ、そういう問題じゃない、と櫂斗は後ろに手を伸ばした。

「取るなよ。ほら、靴下」

スイッチをオンにしたまま、亮介は櫂斗の靴下を脱ぐのを手伝ってくれる。意地悪なんだか優しいんだか分からない行動だ。

「んっ、んあっ……やっ、止めてっ」

中でバイブが蠢いている。それが櫂斗のいい所を刺激する度、身体がビクンビクンと跳ねた。

「先生、風呂入るぞー」

亮介は自分の服を脱ぐと、櫂斗の手を取る。櫂斗は歩くどころではないので、よろよろしながらついて行くしかない。

「う、……ああっ」

亮介は一人で悶える櫂斗を浴室に連れて行き、シャワーでお湯を櫂斗にかける。洗ってやる、と上機嫌に言って泡のボディソープで櫂斗の股間を擦り上げてきた。

「気持ちいいだろ? 先生」

櫂斗は思わず前かがみになって壁に手を付いた。時折背中を反らして快感に耐えると、櫂斗は素直に頷く。

(でも、オレはコレがいい……)

櫂斗は手を伸ばして亮介の股間に触れようとした。しかし彼は触らせてくれない。

「何勝手に触ろうとしてんだよ」

さっきまで楽しそうな声だったのに、亮介の声は打って変わって冷たい声に変わった。そして指で櫂斗の分身を、しかも敏感な先端を指で弾く。

「いた……っ、ああっ」

「先生もしかして、俺に入れて欲しいのか? そういえば最初も気持ち良さそうにしてたな」

櫂斗の肩が震えた。亮介も、身体を繋げたのは最初だけだと覚えているのだ。

「欲しいのか?」

櫂斗は喘ぎながら何度も頷く。言わなきゃ分からない、と言われて、壁に頬を押し付けながら叫んだ。

「欲しいっ、ああ、入れてください、お願いします!」

「そんな淫乱先生に誰が入れるかよ」

息が止まるかと思うほどの冷たい声がしたかと思ったら、ゾクゾクが止まらなくて一気に絶頂へと駆け上がる。

「……っ! あああああ!」

櫂斗は絶叫してイッた後、その場に崩れ落ちる。バイブも止めたらしく、櫂斗は余韻に身体を震わせた。そして、今しがた言われた言葉を脳内で反芻する。

(そうか……オレが淫乱だから、入れてもらえないのか……オレは……)

亮介の事が好きなのに、完全に嫌われている。

そう思って、櫂斗は自分の気持ちを自覚した。先程からの恋する乙女みたいな発想は、亮介の事が好きだったからなんだ、と。それと同時に、失恋していることにも気付いてしまった。

(あ、ヤバ……)

思ったより、ダメージが大きい。視界が滲んで、堪えようと思ったけれど、誤魔化しようもなく涙が溢れてしまう。

「先生?」

へたりこんで動かない櫂斗を訝しがった亮介が、かがんで顔を覗き込んできた。櫂斗は顔を見られないように逸らすと、亮介は櫂斗の顔を無理やり自分の方へ向かせる。

「何で泣いてる?」

「別に……」

櫂斗は亮介の腕を払った。しかし、亮介は気にした風でもなく、バイブ抜いてやるから、と後ろに手を伸ばす。櫂斗はそれに大人しく従うと、無言でシャワーを浴びた。その間、櫂斗は亮介の股間をチラ見したけれど、彼のソレは全く変化は無く、それもまた櫂斗を落ち込ませる事になった。

浴室から出て着替えると、櫂斗は荷物をまとめる。

「おい、帰るなって言ったはずだぞ」

「もう無理だ。帰る」

とても一緒にいられる精神状態じゃない、と櫂斗は思ってショルダーバッグを掛けた。

「先生、今日は自分から来たんだろ?」

「気分が変わった。あと、遊びももう止める」

櫂斗がそう言うと、次の瞬間、壁に押し付けられる。痛みに顔をしかめると、亮介の強い視線とぶつかった。

「止めるかどうかは、先生に決定権無いだろ」

亮介の低い声。少し怯みながらも、櫂斗は彼の目を見ることなく言う。

「バラしたきゃバラせよ。オレはもう、アンタに会いたくない、じゃあな」

そう言って亮介の静止を振り切り、逃げるように家を出た。そしてマンションから出たとたん、また涙が溢れて止まらなくなる。

好きだと気付いた瞬間に失恋したこの恋。まともに恋愛はできないだろうと諦めていたはずなのに、いざ失恋するとこうもダメージが大きいのか、と櫂斗は思う。

暑くうだるような空気は、櫂斗の気分を更に落としたのだった。
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