あした、きみと喧嘩する日

大竹あやめ

文字の大きさ
上 下
6 / 11

しおりを挟む
 しかし、それから幾度となく槙人と視線が合うようになる。大抵、朔夜が視線を感じてそちらを見ると、槙人がこちらを見ているのだ。そして視線が合うと、彼は笑って視線を逸らすか、話しかけてくる。
 こんなに視線が合うことってあるだろうか、と朔夜は思う。そして、ずっとこっちを見て欲しいと思っていた一誠との視線は合わず、槙人の言う通り、友達以上の感情はないのだと思い知らされた。
 そこでハッとする。もしかして、槙人はずっと、自分と同じ立場だったのでは、と。でも、さすがに、自分に都合のいい思い込みかもしれないし、確かめることは、今は多分できないだろう。今後のできごとに、きっと大きく影響することだからだ。
 そうこうしているうちに、とうとう槙人と喧嘩別れする日になってしまった。学祭の準備も大詰めで、朔夜はあれこれと忙しく動く。けれど気が気じゃなく、せっかく仕入れてきたジュースの箱を、落としてしまった。

「大丈夫!?」

 駆け寄ってきたのは槙人だ。足の上に落ちてないかと心配していたので、これも記憶通りだ、とこんな時なのにそう思う。

「朔夜、これの片付けは一旦みんなに任せよう」

 槙人は、周りに破損したジュースの箱の片付けを頼むと、朔夜を人けのない場所に連れて行き、座らせた。
 とうとうこの時まで来てしまった。この場面が記憶と同じなら、もう何をしても無駄なんじゃないか。槙人が思ったよりも自分を見てくれていたことに気付いただけで、このまま友情が終わるのだろうか。そう思ったら視界が滲む。

「朔夜……足、怪我してない?」
「槙人……ごめん」
「いいから。……最近思い詰めてる感じがしたから、心配してた」

 そう言われてドキリとする。『以前』はそう言われて、思わず「もう告白しちゃおうかな」と言ったのだ。それが喧嘩のきっかけだった。
 でも、『今』の朔夜の心の中は、別の感情で占められていた。本当に、ちゃんと自分を見ていてくれたことへの嬉しさと、今までそれに気付かなかったことへの、申し訳なさだ。

「ほんと、ごめん……! ずっと心配してくれてたのに……!」

 どうして気付かなかったのだろう。槙人はこんなにも自分を見てくれていたのに。

「朔夜?」
「一誠がオレを見てないって気付いた途端、なぜかお前の視線に気付くようになったんだ。気にしてくれてたのに、オレお前に酷いことを言って……!」

 朔夜は思わず時を遡る前のことを喋ってしまう。けれど槙人は何も言わず、抱きしめてくれた。それが嬉しくて、目頭が熱くなる。

「落ち着いて?」

 いつも通りの優しい声と、彼から早鐘のように打つ心臓の音を聞いたら涙が溢れてきた。
 どうして槙人は緊張しているのだろう? こんなこと、友達同士でするだろうか? そんな考えがぐるぐる巡る。
少なくとも自分は何か特別な感情がない限り、こんな風に慰めたりしない。そしてそれは、真面目な槙人もきっとそうだろう。
 槙人は、自分に特別な感情を持ってくれている? だから『あの時』激昂した? だとしたらとても……嬉しい。

「……ごめん」

 朔夜を抱きしめたまま、槙人は謝った。どうして? と彼を見ると、苦笑した顔がある。

「弱ってるところにつけ込むみたいで気が引けるけど……俺が朔夜を見てたこと、気付いてくれて嬉しいよ。ずっと朔夜が好きだったから」
「……っ」

 予想通りだ、と朔夜は思った。槙人はずっと、一誠を見ている自分を見てくれていたのだ。それがどんなにつらいことだったのか、今なら分かる。
 そしてその瞬間、朔夜の胸に落ちた温かい感情に戸惑った。何て名前を付けたらいいのか分からないけれど、それは恋に限りなく近い、このひとを大事にしたいという気持ち。

「お、オレこそ……すぐ乗り換える軽い奴だって思われたくない。……特に槙人には……」
「思わないよそんなの」

 気持ちが落ち着くまで、時間が必要なのは分かるよ、と頬を撫でられた。でも、と彼はまた苦笑する。

「……どうしよう、朔夜をすごく慰めたい」

 そう言われて、朔夜の心臓は飛び跳ねる。彼の顔を見ると、いつもの優しい顔なのに雄の目をしていて、こんな一面もあるのかとドキドキした。
 朔夜は頷く。

「……うん。オレも槙人に慰められたい……っ」

 そう言った瞬間、立ち上がった槙人に腕を引かれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

僕は君になりたかった

15
BL
僕はあの人が好きな君に、なりたかった。 一応完結済み。 根暗な子がもだもだしてるだけです。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

白金の花嫁は将軍の希望の花

葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。 ※個人ブログにも投稿済みです。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

林檎を並べても、

ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。 二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。 ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。 彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。

始まりの、バレンタイン

茉莉花 香乃
BL
幼馴染の智子に、バレンタインのチョコを渡す時一緒に来てと頼まれた。その相手は俺の好きな人だった。目の前で自分の好きな相手に告白するなんて…… 他サイトにも公開しています

処理中です...