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しかし、それから幾度となく槙人と視線が合うようになる。大抵、朔夜が視線を感じてそちらを見ると、槙人がこちらを見ているのだ。そして視線が合うと、彼は笑って視線を逸らすか、話しかけてくる。
こんなに視線が合うことってあるだろうか、と朔夜は思う。そして、ずっとこっちを見て欲しいと思っていた一誠との視線は合わず、槙人の言う通り、友達以上の感情はないのだと思い知らされた。
そこでハッとする。もしかして、槙人はずっと、自分と同じ立場だったのでは、と。でも、さすがに、自分に都合のいい思い込みかもしれないし、確かめることは、今は多分できないだろう。今後のできごとに、きっと大きく影響することだからだ。
そうこうしているうちに、とうとう槙人と喧嘩別れする日になってしまった。学祭の準備も大詰めで、朔夜はあれこれと忙しく動く。けれど気が気じゃなく、せっかく仕入れてきたジュースの箱を、落としてしまった。
「大丈夫!?」
駆け寄ってきたのは槙人だ。足の上に落ちてないかと心配していたので、これも記憶通りだ、とこんな時なのにそう思う。
「朔夜、これの片付けは一旦みんなに任せよう」
槙人は、周りに破損したジュースの箱の片付けを頼むと、朔夜を人けのない場所に連れて行き、座らせた。
とうとうこの時まで来てしまった。この場面が記憶と同じなら、もう何をしても無駄なんじゃないか。槙人が思ったよりも自分を見てくれていたことに気付いただけで、このまま友情が終わるのだろうか。そう思ったら視界が滲む。
「朔夜……足、怪我してない?」
「槙人……ごめん」
「いいから。……最近思い詰めてる感じがしたから、心配してた」
そう言われてドキリとする。『以前』はそう言われて、思わず「もう告白しちゃおうかな」と言ったのだ。それが喧嘩のきっかけだった。
でも、『今』の朔夜の心の中は、別の感情で占められていた。本当に、ちゃんと自分を見ていてくれたことへの嬉しさと、今までそれに気付かなかったことへの、申し訳なさだ。
「ほんと、ごめん……! ずっと心配してくれてたのに……!」
どうして気付かなかったのだろう。槙人はこんなにも自分を見てくれていたのに。
「朔夜?」
「一誠がオレを見てないって気付いた途端、なぜかお前の視線に気付くようになったんだ。気にしてくれてたのに、オレお前に酷いことを言って……!」
朔夜は思わず時を遡る前のことを喋ってしまう。けれど槙人は何も言わず、抱きしめてくれた。それが嬉しくて、目頭が熱くなる。
「落ち着いて?」
いつも通りの優しい声と、彼から早鐘のように打つ心臓の音を聞いたら涙が溢れてきた。
どうして槙人は緊張しているのだろう? こんなこと、友達同士でするだろうか? そんな考えがぐるぐる巡る。
少なくとも自分は何か特別な感情がない限り、こんな風に慰めたりしない。そしてそれは、真面目な槙人もきっとそうだろう。
槙人は、自分に特別な感情を持ってくれている? だから『あの時』激昂した? だとしたらとても……嬉しい。
「……ごめん」
朔夜を抱きしめたまま、槙人は謝った。どうして? と彼を見ると、苦笑した顔がある。
「弱ってるところにつけ込むみたいで気が引けるけど……俺が朔夜を見てたこと、気付いてくれて嬉しいよ。ずっと朔夜が好きだったから」
「……っ」
予想通りだ、と朔夜は思った。槙人はずっと、一誠を見ている自分を見てくれていたのだ。それがどんなにつらいことだったのか、今なら分かる。
そしてその瞬間、朔夜の胸に落ちた温かい感情に戸惑った。何て名前を付けたらいいのか分からないけれど、それは恋に限りなく近い、このひとを大事にしたいという気持ち。
「お、オレこそ……すぐ乗り換える軽い奴だって思われたくない。……特に槙人には……」
「思わないよそんなの」
気持ちが落ち着くまで、時間が必要なのは分かるよ、と頬を撫でられた。でも、と彼はまた苦笑する。
「……どうしよう、朔夜をすごく慰めたい」
そう言われて、朔夜の心臓は飛び跳ねる。彼の顔を見ると、いつもの優しい顔なのに雄の目をしていて、こんな一面もあるのかとドキドキした。
朔夜は頷く。
「……うん。オレも槙人に慰められたい……っ」
そう言った瞬間、立ち上がった槙人に腕を引かれた。
こんなに視線が合うことってあるだろうか、と朔夜は思う。そして、ずっとこっちを見て欲しいと思っていた一誠との視線は合わず、槙人の言う通り、友達以上の感情はないのだと思い知らされた。
そこでハッとする。もしかして、槙人はずっと、自分と同じ立場だったのでは、と。でも、さすがに、自分に都合のいい思い込みかもしれないし、確かめることは、今は多分できないだろう。今後のできごとに、きっと大きく影響することだからだ。
そうこうしているうちに、とうとう槙人と喧嘩別れする日になってしまった。学祭の準備も大詰めで、朔夜はあれこれと忙しく動く。けれど気が気じゃなく、せっかく仕入れてきたジュースの箱を、落としてしまった。
「大丈夫!?」
駆け寄ってきたのは槙人だ。足の上に落ちてないかと心配していたので、これも記憶通りだ、とこんな時なのにそう思う。
「朔夜、これの片付けは一旦みんなに任せよう」
槙人は、周りに破損したジュースの箱の片付けを頼むと、朔夜を人けのない場所に連れて行き、座らせた。
とうとうこの時まで来てしまった。この場面が記憶と同じなら、もう何をしても無駄なんじゃないか。槙人が思ったよりも自分を見てくれていたことに気付いただけで、このまま友情が終わるのだろうか。そう思ったら視界が滲む。
「朔夜……足、怪我してない?」
「槙人……ごめん」
「いいから。……最近思い詰めてる感じがしたから、心配してた」
そう言われてドキリとする。『以前』はそう言われて、思わず「もう告白しちゃおうかな」と言ったのだ。それが喧嘩のきっかけだった。
でも、『今』の朔夜の心の中は、別の感情で占められていた。本当に、ちゃんと自分を見ていてくれたことへの嬉しさと、今までそれに気付かなかったことへの、申し訳なさだ。
「ほんと、ごめん……! ずっと心配してくれてたのに……!」
どうして気付かなかったのだろう。槙人はこんなにも自分を見てくれていたのに。
「朔夜?」
「一誠がオレを見てないって気付いた途端、なぜかお前の視線に気付くようになったんだ。気にしてくれてたのに、オレお前に酷いことを言って……!」
朔夜は思わず時を遡る前のことを喋ってしまう。けれど槙人は何も言わず、抱きしめてくれた。それが嬉しくて、目頭が熱くなる。
「落ち着いて?」
いつも通りの優しい声と、彼から早鐘のように打つ心臓の音を聞いたら涙が溢れてきた。
どうして槙人は緊張しているのだろう? こんなこと、友達同士でするだろうか? そんな考えがぐるぐる巡る。
少なくとも自分は何か特別な感情がない限り、こんな風に慰めたりしない。そしてそれは、真面目な槙人もきっとそうだろう。
槙人は、自分に特別な感情を持ってくれている? だから『あの時』激昂した? だとしたらとても……嬉しい。
「……ごめん」
朔夜を抱きしめたまま、槙人は謝った。どうして? と彼を見ると、苦笑した顔がある。
「弱ってるところにつけ込むみたいで気が引けるけど……俺が朔夜を見てたこと、気付いてくれて嬉しいよ。ずっと朔夜が好きだったから」
「……っ」
予想通りだ、と朔夜は思った。槙人はずっと、一誠を見ている自分を見てくれていたのだ。それがどんなにつらいことだったのか、今なら分かる。
そしてその瞬間、朔夜の胸に落ちた温かい感情に戸惑った。何て名前を付けたらいいのか分からないけれど、それは恋に限りなく近い、このひとを大事にしたいという気持ち。
「お、オレこそ……すぐ乗り換える軽い奴だって思われたくない。……特に槙人には……」
「思わないよそんなの」
気持ちが落ち着くまで、時間が必要なのは分かるよ、と頬を撫でられた。でも、と彼はまた苦笑する。
「……どうしよう、朔夜をすごく慰めたい」
そう言われて、朔夜の心臓は飛び跳ねる。彼の顔を見ると、いつもの優しい顔なのに雄の目をしていて、こんな一面もあるのかとドキドキした。
朔夜は頷く。
「……うん。オレも槙人に慰められたい……っ」
そう言った瞬間、立ち上がった槙人に腕を引かれた。
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