4 / 11
4
しおりを挟む
しかし、それも一誠を目の前にしてしまうと簡単に揺らいでしまう。一誠は朔夜の気持ちなどお構いなしに近寄り、友達として接してくるのだ。それが嬉しくもあり、辛くもあった。
そしてそう思う度に思うのだ。この気持ちを打ち明けてしまいたいと。
でも、告白してしまえば一誠との関係は終わりだ。それに、学祭まで大きくできごとを変える言動はできないし、とため息をつく。
「朔夜、はいこれ」
三十日の月曜日。色々考えていたら感情が爆発しそうだったので、学祭準備から抜け出し、目立たないところで休憩していた。一人になりたかったのに、という感情を隠さずに声の主を見上げると、微笑した槙人がいる。その手には朔夜が好きなグミの袋が握られていて、何で? とまた槙人を見た。
「……オレ、土曜日寝坊しただろ?」
「うん。これは休憩中に食べようと思ってた分」
記憶通りのセリフを言いながら、槙人は隣に座った。不思議なのは、当時は放っておけとしか思わなかったのに、今は心配してくれているのが少しありがたいと思ったのだ。
(喧嘩別れするって分かってから、槙人の気遣いに気付くとかサイテーだなオレ……)
実際、彼がよく笑うひとだと気付いたのも時間を遡ってからだし、『あの時』ちゃんと冷静に話せば、喧嘩もせずに済んだのかもしれない。
(……そうか)
朔夜は顔を上げた。槙人と喧嘩をした原因は、自分が彼をちゃんと見ていなかったからだ。彼がどんな風に考え、何を思ってあんなことを言ったのか、考えることもしなかった。
(自分が傷付けられたと騒ぐばっかで……かっこ悪いな)
これが、一度痛い目に遭ったから分かるのだと気付けば、情けなさすぎて槙人を真っ直ぐに見られない。
「サンキュー……」
グミを受け取って、朔夜はあらゆる想いを込めてそう呟いた。すると槙人はやはり、柔らかい笑みを浮かべるのだ。そして、何も言わないまま隣にいる。
「……なぁ」
朔夜は今後に影響なさそうな質問を考え、聞いてみた。
「槙人の好きなお菓子って何?」
「何急に?」
「いいから」
スーパーで安売りしている時に買うから、と言うと、安売りの時かぁ、と彼は笑った。実際、朔夜は本当に槙人にプレゼントするつもりでいる。朔夜の自尊心を傷付けることなく、さり気なくフォローしてくれていたことへの感謝として。
「……これ」
すると槙人は朔夜の方を指す。え、と思って見ると彼の指はグミの袋を指していた。
「俺も好き」
「……じゃあ食うか」
朔夜はそう言って袋を開けると、横から声を掛けられる。見ると、時折見かける、違うゼミの女の子がいた。槙人と二人で話がしたいと言っていて、そういえばこの子から槙人は告白されるんだった、と朔夜は立ち上がる。『当時』の自分は槙人がどう返事をするのか興味があって、こっそり聞き耳を立てることにしたのだ。そして思い詰めていた朔夜は、これをきっかけに一誠に告白しようと考えた。
緊張した女の子の声とは裏腹に、槙人はずっと穏やかだ。「ごめんね、付き合えない」と断ったのを聞いて、せっかく告白されたのにもったいない、と槙人に言った覚えがある。言いたくても言えないひとがいるのに、勇気を出してくれた女の子がかわいそうだ、とも。けれど、今の朔夜には別の言葉が浮かんだのだ。じゃあ、今は誰とも付き合う気はないのか? と。『当時』槙人は苦笑するだけだったけれど。
同じ時間を辿っているようで、微妙にズレている、と朔夜は感じる。それは朔夜の心の中の変化で、見えるものの感じ方が違っているのだ。
これはやり直せているのか? もしそうなら一誠に告白せずにいられるかもしれない。そんな淡い期待を抱いて、朔夜は学祭準備に戻った。
そしてそう思う度に思うのだ。この気持ちを打ち明けてしまいたいと。
でも、告白してしまえば一誠との関係は終わりだ。それに、学祭まで大きくできごとを変える言動はできないし、とため息をつく。
「朔夜、はいこれ」
三十日の月曜日。色々考えていたら感情が爆発しそうだったので、学祭準備から抜け出し、目立たないところで休憩していた。一人になりたかったのに、という感情を隠さずに声の主を見上げると、微笑した槙人がいる。その手には朔夜が好きなグミの袋が握られていて、何で? とまた槙人を見た。
「……オレ、土曜日寝坊しただろ?」
「うん。これは休憩中に食べようと思ってた分」
記憶通りのセリフを言いながら、槙人は隣に座った。不思議なのは、当時は放っておけとしか思わなかったのに、今は心配してくれているのが少しありがたいと思ったのだ。
(喧嘩別れするって分かってから、槙人の気遣いに気付くとかサイテーだなオレ……)
実際、彼がよく笑うひとだと気付いたのも時間を遡ってからだし、『あの時』ちゃんと冷静に話せば、喧嘩もせずに済んだのかもしれない。
(……そうか)
朔夜は顔を上げた。槙人と喧嘩をした原因は、自分が彼をちゃんと見ていなかったからだ。彼がどんな風に考え、何を思ってあんなことを言ったのか、考えることもしなかった。
(自分が傷付けられたと騒ぐばっかで……かっこ悪いな)
これが、一度痛い目に遭ったから分かるのだと気付けば、情けなさすぎて槙人を真っ直ぐに見られない。
「サンキュー……」
グミを受け取って、朔夜はあらゆる想いを込めてそう呟いた。すると槙人はやはり、柔らかい笑みを浮かべるのだ。そして、何も言わないまま隣にいる。
「……なぁ」
朔夜は今後に影響なさそうな質問を考え、聞いてみた。
「槙人の好きなお菓子って何?」
「何急に?」
「いいから」
スーパーで安売りしている時に買うから、と言うと、安売りの時かぁ、と彼は笑った。実際、朔夜は本当に槙人にプレゼントするつもりでいる。朔夜の自尊心を傷付けることなく、さり気なくフォローしてくれていたことへの感謝として。
「……これ」
すると槙人は朔夜の方を指す。え、と思って見ると彼の指はグミの袋を指していた。
「俺も好き」
「……じゃあ食うか」
朔夜はそう言って袋を開けると、横から声を掛けられる。見ると、時折見かける、違うゼミの女の子がいた。槙人と二人で話がしたいと言っていて、そういえばこの子から槙人は告白されるんだった、と朔夜は立ち上がる。『当時』の自分は槙人がどう返事をするのか興味があって、こっそり聞き耳を立てることにしたのだ。そして思い詰めていた朔夜は、これをきっかけに一誠に告白しようと考えた。
緊張した女の子の声とは裏腹に、槙人はずっと穏やかだ。「ごめんね、付き合えない」と断ったのを聞いて、せっかく告白されたのにもったいない、と槙人に言った覚えがある。言いたくても言えないひとがいるのに、勇気を出してくれた女の子がかわいそうだ、とも。けれど、今の朔夜には別の言葉が浮かんだのだ。じゃあ、今は誰とも付き合う気はないのか? と。『当時』槙人は苦笑するだけだったけれど。
同じ時間を辿っているようで、微妙にズレている、と朔夜は感じる。それは朔夜の心の中の変化で、見えるものの感じ方が違っているのだ。
これはやり直せているのか? もしそうなら一誠に告白せずにいられるかもしれない。そんな淡い期待を抱いて、朔夜は学祭準備に戻った。
48
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説


十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。


白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。

始まりの、バレンタイン
茉莉花 香乃
BL
幼馴染の智子に、バレンタインのチョコを渡す時一緒に来てと頼まれた。その相手は俺の好きな人だった。目の前で自分の好きな相手に告白するなんて……
他サイトにも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる