【完結】天使の愛は鬼を喰らう〜後日談1〜

大竹あやめ

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第八話

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 結局、その日の夕食をホテルで食べた後に喜屋武は戻ってきた。暗くて探せないし、番がいなくて寂しいからと緋嶺のベッドに潜り込んで来て、沖縄旅行一日目は終わった。

 鷹使は喜屋武がいるからかずっと不機嫌で、かと言って、本当に困っていそうな喜屋武を放っておく訳にもいかず、さっさと番探しに協力することにする。

「呼び名が無いと不便だろ? 何か名前くれよ」

 移動中の車の中──なぜか喜屋武も一緒に乗り込んできた──で、彼は後部座席から身を乗り出して聞いてくる。昨日はそんなことより、とか言ってなかったか、と緋嶺は思うけれど、ここで反論すればややこしくなるのは間違いないので黙っておいた。

 鷹使は、とりあえず適当に車を走らせて、番がいそうな所で止まる、と言っていた。
 緋嶺はうーん、と唸って考える。

「じゃ、さとうきびこ……略してきびこな」

「酷いネーミングセンスだな」

「うっせ」

 鷹使のツッコミに緋嶺は口を尖らせると、車はある施設の駐車場に入っていく。看板を見てみるとそこには、沖縄美ら海水族館と書かれていた。

「……ん? おい、こんなところにきびこはいねーよっ! 早く車を出せハゲ!」

 案の定騒ぎ出した喜屋武は、どうやら番の名前をきびこで了承したらしい。ハゲと言われた鷹使は短く息を吐いて、車を駐車させる。

「誰がハゲだ。……緋嶺、行くぞ」

「え? あ、おい!」

 喜屋武の言葉を無視して車を降りる鷹使を、緋嶺は慌てて追いかける。喜屋武も文句を言いながら付いてきて、案の定わあわあと騒ぎ出した。

「緋嶺! お前裏切るのか!?」

「いや、そんなんじゃないけどっ。……鷹使っ」

 喜屋武に詰め寄られてたじろいだ緋嶺は、鷹使に助けて、と視線を送る。鷹使はため息をつくと、喜屋武に尋ねた。

「番という割には、どこにいるかも分からないとは。身体的特徴はお前とそっくりで間違いないな?」

「……お前には言ってない」

「じゃあ俺は知らん。お前、俺の伴侶が緋嶺だと知っててそういう物言いをするなら、緋嶺に協力するなと言うこともできるんだぞ」

 鷹使の言葉に、喜屋武はグッと息を詰めた。緋嶺にはその言葉の意味はよく分からなかったけれど、見た目と同じく幼い言動をする喜屋武を、大人しくさせることができるなら良いか、と軽く考える。

「大方、お前のその幼い言動に、番も嫌気がさしたのだろう」

「ち、違うし!」

「じゃあ力を貸せと偉そうに言う前に、事情を話して殊勝に頼んだらどうだ?」

 どうやら喜屋武には事情があって、鷹使はそれに薄々勘づいているようだ。緋嶺にはさっぱり検討がつかなかったけれど、ここは彼に任せておこう、と成り行きを見守る。

 すると喜屋武は怯えた小型犬よろしくプルプルと震え出した。グッと両手を握り、顔が耳まで赤くなる。恥ずかしいのではなく、泣きそうなのだと気付いたのは、やはり目にこぼれんばかりの涙を溜めていたからだ。

「護ってた家が……壊されたんだ。だから力が弱まって……」

 喜屋武いわく、早々に次の護る場所なり家を探そう、ときびこから提案されたそうだ。けれど喜屋武は家の主のことが忘れられなくて、あまり動きたくない、と言った。さっさと次を探そうとするきびこは薄情だ、と喧嘩になり、彼女はヤケになって飛び出して行ってしまったという。 

「しかも、人間が飼ってたヤンバルクイナのキョンキョンまで連れ出して……心配してるのに……」

「そっか……それは心配になるな」

 緋嶺が同情して呟くと、鷹使はじゃあ行くか、と水族館の方へと歩き始める。

「は? 鷹使、人の話聞いてたか?」

「ああ。気配を辿っているからな。丁度真っ直ぐ館内へ入っているぞ」

 それに、と鷹使は付け足した。

「最も手っ取り早い方法があるにはあるが、強制力が強すぎるから、番が生きて帰ってくるかは運だ」

「そんなっ!」

 サッと青ざめた喜屋武に、緋嶺は大丈夫だよ、と宥める。

「緋嶺~……」

 緋嶺の言葉に喜屋武は抱きついてくる。鷹使はムッとした顔をしたようだけれど、不安を煽ったのは彼なので無視した。

「緋嶺、今すぐ番を呼べ。聞こえる範囲にいるなら、指輪の力でこちらに飛ばされるはずだ」

 胸、というかお腹の辺りに顔を擦り付けてくる喜屋武の頭を撫でながら、緋嶺は強制力が強い方法ってそれのことか、と気付く。

「やだよ。きびこは生きていないと意味がないし」

 そう言うと、鷹使はやっぱりな、とでも言うように肩を竦めた。

 緋嶺の身体の中には、混血児の証である特別な指輪が隠されている。緋嶺にしか使えない、しかも今も完全にコントロールしきれていない代物だ。それには、全ての人ならざるものを従える力がある。

「じゃあ大人しく気配を追うしかないだろう。行くぞ」

 鷹使はそう言って、緋嶺たちを置いて歩き出した。
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