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第1章

114 十月十一日、明け方

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一方フェルナンドとマリーだが、やはりカースの魔法に気付いていた。

「あれだ! 私は先に行く! マリーは行き違いにならないよう、小まめに魔法を撃ち上げながら来てくれ!」

「承知しました。カース坊ちゃんをお願いします。」

『身体強化』
そう言ってフェルナンドは野生動物のような速度で走り出した。

マリーも同様に『風操』
強風で背中を押し走り出した。

フェルナンドは光の魔法が使えない。
しかし夜目は利く。一流の身体能力は時に魔法にも匹敵する。

走り出して十分と少し、遠くで音がした。普段聞き慣れない妙な音だ。

夜の魔境で聞こえる類の音ではない。きっとカースだと確信し急いで向かう。
それでも正確な場所は分からない。

「カース君! どこだ! 声をだせ!」

返事はない。カースは声を出せる状況ではない。それでもフェルナンドは叫び続ける。

「カース君! どこだ!」






ゴブリン三匹に囲まれたカース、絶体絶命。
普段なら魔法を使わず素手でもゴブリン一匹など楽勝、三匹でもまず勝てるだろう。しかし今のカースは魔力切れで意識は朦朧、背中を強く打ち呼吸もままならない。三半規管も機能していないことだろう。
着地の衝撃で木刀を失った。魔力切れで魔力庫から何かを取り出すこともできない。
それでも立ち上がり、ゴブリンに目を向ける。

元来ゴブリンは狡猾で臆病だ。
相手が弱いと分かれば嵩にかかって襲って来るだろう。そのぐらいはカースでも知っている。だから半ば本能的に立っているのだ。

一歩も歩けない。
しかしゴブリンを牽制するかのように構える。この世界では珍しい、空手の『後屈立ち』だった。カースに空手の経験などない。前世の記憶と痛む片足を庇ったら偶然そうなっただけだ。

それでも臆病なゴブリンには効果的だったようでゴギャゴギャ騒ぐだけで襲ってこない。

この間に少しでも呼吸を整えようとゴブリンを睨む。

しかし近づくのはマズイと考えたのか、ゴブリン達は石を投げてきた。
一歩も動けないカースに避けられるはずもなく、二発は外れたが一発が腹部に当たってしまった。
カースはあっさりと倒れゴブリン達は喜び勇んで襲いかかって来る。止めも刺さずいきなり食べようとするではないか。
悪臭を放つゴブリン達が手足に噛み付いてくる。抵抗もできないカースはされるがまま、痛みすら感じず意識を保つこともできそうにない。
しかし一匹のゴブリンがカースの手を食べるのを諦め、柔らかそうな首を齧ろうと近寄った瞬間、驚くべきことが起こった。

なんとカースがゴブリンの首に噛み付いたのだ。食い詰めてゴブリンの肉を食べたバカ者はまれにいるが、生きているゴブリンに噛み付いた愚か者はいない。

あっさりと喉笛を噛み切られたゴブリンは絶命し、カースの口元は汚い血に塗れる。どんな病原菌がいるか分からない不潔なゴブリン。半ば意識がないからこそできた芸当なのだろう。

絶対的優位を脅かされた他のゴブリンは奇声をあげて逃げようとしたが、次の瞬間首が胴から離れあっさりと絶命した。

フェルナンドが到着したのだ。

「カース君! しっかりしろ! 大丈夫か!」

カースは目を見開いて驚いた。
そして次の瞬間、安心したかのように意識を失った。
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