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第1章

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ダキテーヌ家の地下牢。閉じ込められたパトリックの前に姿を見せたのは……

「パトリック、頭は冷えましたか?」

「は、母上、私は間違っていません! きっとあいつらがベレンを誑かしてどこかに捕まえているに決まってます!」

「そうね。私もそう思うわ。お前もそう思うならなぜ取り返そうとしないの? こんな地下で遊んでないで、行動しなさい。マーティン家が怪しいと思うならマーティン家を探りなさい。」

「し、しかし私はこのように地下から出られない身で……」

「出たいなら出してあげます。どうやって探すのかは任せますが、我が家の恥を晒すことのないように。分かりましたね?」

「分かりました。きっとベレンを取り戻してみせます!」

こうしてパトリックは再び地上に出ることが出来た。
母親は一体何を考えているのか?



自由になったパトリック、家から剣と金を持ち出し外へと出ていった。しかしクタナツ育ちでない上に馬車でしか移動をしたことがないパトリックは早くも行き場を見失ってしまった。
そこに運良く騎士が市中の見回りをしていたため尋ねてみることにした。

「そこの騎士、近う寄れ。マーティンとやらの家を知っているか?」

嫌そうな表情を浮かべた騎士が二名、近付き返答する。

「マーティンですか? それだけでは分からないと思いますよ。」

「貴様! 身内だからと庇いだてしておるな!?
我が妹ベレンガリアを誘拐し、監禁しておるマーティン家だ! 貴様らの同僚ではないのか!」

「ゆ、誘拐ですか! それは一大事! ぜひ詰所にて詳しく話をお聞かせ願いたい!」

「ふむ、いいだろう。貴様らの迅速な対応、好ましいぞ。代官殿によく言っておいてやろう。」

そして一行は騎士団詰所へと向かう。
道中、騎士二人は密かに会話を交わす。

「おい、どう思う? どう考えてもマーティンさんが誘拐なんかするはずがないぞ。」
「ああ、一応マーティンさんにも伝えておこう。俺は先に行く。ゆっくり来てくれ。」



「ところで、私は第三騎士団の二等騎士、エリック・ド・オータンと申す者。貴方様のことをお聞きしてよろしいか?」

「うむ、私はパトリック・ド・ダキテーヌ。ダキテーヌ家の二男である。この際だ、ぜひ騎士団でも我が妹の捜索をしてくれ。」

「なんと、ダキテーヌ家の方でしたか。して、妹御が誘拐されたのはいつ頃で?」

「うむ、あれは一年と半年前だな。急に冒険者になると言って飛び出したのだ。マーティン家の者に唆されたに違いない。可哀想なベレン……」

「そ、そうですか……それはご心配ですね……」

エリックにはもう状況が分かってしまった。
確かにダキテーヌ家の娘が家出をしたという話は聞いた覚えがある。通常子供が家出をした場合、騎士団に捜索依頼などの届けが出される。そして保護し親元へ届けられる。
しかし今回の件は当時上司から説明があった。ダキテーヌ家の娘が家出をしたが、それは勘当なので日没後に見つけない限り放置してよい、と。

日没後に身元不明の子供を見つけた場合、孤児院に連れて行くのが通例だからだ。
しかし今回は冒険者として登録が済んでいる。つまり身元はギルドが保証しているわけだ。よって日没後に見つかっても連れて行かれない可能性のほうが高い。

エリックはうんざりした気持ちを抑え適当に相槌を打ちながら詰所へ向かうのだった。
それはそれは長い道のりだった。

「パトリック・ド・ダキテーヌ様をお連れしました!」

「ようこそいらっしゃいましたな。私は騎士団憲兵隊隊長、ボリス・ミリター。詳しくお話しを聞かせていただけますかな?」

そしてここからパトリックの病的な妄想が展開される。それはもう聞くに耐えないレベルの幼稚な妄想だった。

「では関係者からも話を聞きたく存じますので、しばしお待ちを。」

騎士達はすでに関係者を集めに走っている。そんな状況にもかかわらず、パトリックは自分に飲み物も出さないのか! と文句を言う始末。

そして着々と集まる関係者。

まずは父親。

「お前はなぜここにいる!? どうして地下から出て来れた!?」

「母上が出してくれたのです。私が正しいと。外に出てベレンを探してよいと。」

「それがなぜ騎士団を巻き込んでいる!?」

「騎士団には協力を要請しました。同僚ならばマーティンの不正を看過できないはずです。」

「お前と言う奴は! あの時命拾いしたのが分からんのか! あの日マーティン卿は剣を抜きかけたお前を切り捨てることもできたんだぞ!」

「私は負けません! あやつなど所詮は下級貴族ではないですか!」

騎士団の詰所にまで来てする話ではない。特にアランを所詮下級貴族と言い捨てるパトリックに騎士達は内心面白くない。

そこにボリスの声が飛ぶ。

「そこまで! そこまでにしていただきましょう。役者が揃ったようですからな。」

そこには、アラン、オディロン、ベレンガリアの三名が早くも帰りたそうな顔をして立っていた。
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