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ダットンとアロン

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「けど昨日会ったんだよな」

「それで失恋って早すぎじゃね?」

「いや、俺にはわかる……。なにかあったんだな……?」

 耕介さん、なんでそんなに食いついてくんの。確かに何かあったんだけど。

 でもこれ、どこまで話してていいんだろう。

「秋月くん、このメンツなら、ある程度話してもいいよ」

 衝立の外から中武さんの声。盗み聞きしてんのかよ!

「とりあえず離しやすいとこからっしょ。どんな娘なのよ?」

「えっと、一言で言うとかっこいい子でした」

 と、語りだしたら止まらなくなってしまった。

 いわゆるミュージカルの男役みたいな雰囲気。男っぽい喋り方で、でも笑うと可愛くて、瞳の色が綺麗で、褒めるとすぐに照れて、クールな感じなのに表情がコロコロ変わって、美味しいものや可愛いものを見るとふにゃふにゃになって、でも、絶望的な状況でも折れずに立ち向かう強い人。

 そんな感じで、思いついたことを全部口に出してしまう。

「語ったな」

「俺、修学旅行の夜思い出した。中学ん時の」

「わかる……」

 やばい、恥ずかしくなってきた。なんでこんな語っちゃったんだ、俺。

「うう、俺、修学旅行行ってないんで、その例えがわかんないですよ」

「はあ!?」

 また全員の声がハモる。衝立の外の人まで一緒に。

「宗助くん、行かなかったよね」

「色々あったからなあ」

「いや、え~? まじかよぉ。小中高?」

「はい、全部」

 小6の時は栄養管理ができないからって医者に止められたんだよね。あの時は、夜に一人で泣いたなぁ。

 中学の時は、教師に部活を辞めさせられて人間不信になってたし、高校はもう意地になってたから行かなかった。

「そうか、いや、修学旅行行ってないはインパクトあるな」

「宗助……、夏にでも全員でどっか行くか……」

「あ! 行きます!」

 すごい気使われてる。けど、全員で遊びには行きたい。絶対楽しい。

「じゃあ、それはそれで。宗助くん。続き。話して」

 真の圧力に皆が黙る。ほんとなんなの真。

「えっと、それでまぁ、2人でダンジョンに入って、ボスが本当にものすごく強くて2人で命がけで戦って倒したんですけど」

「吊り橋効果じゃね?」

「吊り橋効果だな」

「吊り橋効果だ……」

「宗助くん。吊り橋効果って知ってる?」

「知ってるよ!」

 なんなんだこいつら!

「それで、それからどうしたんだ?」

「一緒にご飯食べに行って、ショッピングモールでデートしました」

「普通だな……」

「んで、それからどぉしたのよ?」

「え、ムーに帰りました」

「は?」

 やめてよもー、全員でハモらないでー

「中学生かよお!」

「仕方ないでしょ! 俺の人間関係そのくらいで崩壊してるんですよ!」

 自分で言ってて悲しいけど!

「連絡先とか聞かなかったのか」

「ムーに基地局ないですよ」

「そういえばそうだな」

 使えるんだったら聞いてましたよ。

「予想以上に淡かったな……」

「ほっといてください」

「けどそれって失恋かぁ? なんか違うくね?」

 なんだと!?

「え~、でもわかるなぁ。わたしもあるもん。夏休みに田舎に来てた男の子と仲良くなって、とか」

「櫻子さん」

 なんで普通に話にはいってきてるんですか?

「桜子ちゃん、それいくつの時っすか?」

「小5だったかな」

「小学生レベルだってさ。秋月くん」

 うるさいよ! あんたも交ざってくるなよ!

「ぷふっ」

「笑うな、まことぉ!」

 悪かったな小学生レベルで! 真なんて見た目が小学生なのに!

 ん? あれ、でもなんか雰囲気変わったな。ダンジョン探索で自信がついたからかな。



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