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ハンカチ

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「あ、ソウスケ、少し待って」
立ち上がったレンが腰の皮ポーチから白いハンカチと小瓶を取り出す。低位回復薬?
不思議に思っていると、おもむろにハンカチを回復薬で湿らせていく。それ一本が二万円なんだけど…。
「ソウスケ、顔を。少し屈んでくれ」
言われた通りに身体を屈めると、そっと俺の顔に手を添えてハンカチを当てる。
「えっ、あっ?」
「その顔でお母様の前に出れないだろう?」
動揺する俺にくすりと笑う。
そうか、だいぶ血が出てたっけ。でも顔が近いよ…。
「けど、ハンカチが汚れるから…」
「もう遅いよ。それに低位回復薬は血液の染みを良く落とすんだ」
そんな効果があるのそれ!?それよりムーの人ってそんな使い方してるの!?
驚く俺をよそに、レンは俺の顔についた血を丁寧に拭きとっていく。近い。頭ひとつ分くらいの距離。あまり良くないと思いつつも、その珍しい瞳の色に目がいってしまう。
「そんなに見つめられると恥ずかしいんだが…」
「あっ、ごめん!」
慌てて目を逸らす。言われてしまった…。
「わかってる。私の瞳が珍しいんだろう?」
「あー、うん。綺麗な色だなと思って」
「あっ…、君はまた…」
少し赤くなるレンの頬。すいません。わざとじゃないんです。
「でも、私の恩人達も綺麗だと褒めてくれたよ。」
懐かしむように微笑む。
うん。やっぱり笑ってる時が…。
「うん。少し赤いけれど見れるようになったかな。」
うわ、ちょっと現実逃避してた。
レンが真っ赤に染まってしまったハンカチを丁寧に畳んでいる。
「ありがとう。でも、ごめん。汚してしまって」
ほんとに申し訳ない。昔から汗を拭くようにタオル渡されたりしても、使わずに返しちゃうタイプなんだよね、俺。
「謝らないでほしい。君が流したこの血はとても尊いものなんだから」
「すっごい言い回しだな、それ」
思わず笑ってしまう。尊いはないだろ。
「む、じゃあ素直に言おう」
あ、ちょっとムッとしてる。
「私を守ろうとして流した血を、汚れたなんて思うわけがないだろう…」
「あ…、うん…」
「さ、早く戻ろう」
また一人でさっさと進んでしまった。でもほんとに俺、ああいうのに免疫ないから反応に困る。からかってるわけじゃないだろうし、けっこう天然なのかな。レンって。
「秋月くん。僕達も行こうか」
そのスルーが逆に痛いよ!いっそなんか突っ込んでよ!
諦めて、前を歩くレンを追いかけるように歩く。
「秋月くん。歩きながらでいいよ」
「はい?」
「あれは、強化魔法だよね?」
おお、ばれてる。ん?なんかこんな話したような…。まあいいか。
「はい。そうです」
前を歩くレンがぴくりと反応する。
「やっぱりか…」
頭を抱える中武さん。
「もう、なんで使えるのかは聞かないよ。秋月くんだからで納得しとく」
なんか酷いなそれ。
「ただ、使えることを公言しないようにしてもらっていいかな。収集がつかなくなるから」
「そんなにですか…」
「そんなにだよ。秋月くんが強化魔法を確立したって名前を残したいなら諦めるけどね。そうじゃないなら止めておくことを勧めるよ。間違いなく探索者は廃業しないといけなくなる」
いや、それは困ります。
「わかりました。誰にもいいません」
「ありがとう。レンもね。言っちゃダメだよ」
「言うわけないでしょう!」
ちょっと怒ってる。不本意だったのか。
「知ってるけど念のためだよ」
この二人ってどういう関係なんだろう。聞いてる限り、けっこう古い知り合いみたいだけど。
まあ、聞いても教えてもらえないだろうなぁ。
「それじゃあ、少し急ごうか。秋月くんのお母さん。心配してるだろうからね。」
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