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そんなことを考えている間に二層へと出る。
どうやらここも魔物はいないみたいだ。
「やはり何もいない…か。」
「そうみたいだな。」
レンの呟きに答える。
「先に進むぞ。この様子なら三層、四層も同じだろう。」
「ん、わかった。」
またどんどんと進み始めるレン。
なんだろう、会話を拒否されてるような気がしなくもない。
ただ観光したいから急いでるだけだったらいんだけど。
「レンは日本は初めて?」
「初めてだ。むしろムーから出ること自体が初めてだな。」
「そっか、まだ自由に行き来できないもんな。」
たしか一般人の渡航については見通しが立ってないんだったか。
「そう、だから私は本当に幸運なんだ。日本に行くのは子供の頃からの夢だったから…。」
嬉しそうに微笑む。けっこう感情が顔に出る子だな。
「そうだったんだ。」
でも子供の頃からって…。うん、これは聞き流しとこう。
「じゃあ、観光で行きたい場所は決まってるとか?東京とかだと、ちょっと無理だと思うけど…。」
三層への入り口が見えてきた。
「東京か…。いつかは行ってみたいが、今回の目的は別だ。」
「ん、目的って?」
「あ…、いや、少し恥ずかしいんだが…」
腰につけた革製のポーチを探り始める。
「これだ」
取り出したのは古ぼけたキーホルダー。よく見かけるリンゴ三個分のキャラクターだ。
「子供の頃にスズ…いや、恩人にもらった物だ。日本に行けば買えると聞いていたから…。」
"スズ…"も聞き流す。
でも、そんな目的だったのか。顔がにやけそう。我慢しないと。
「それだったら専門店があるよ。そんなに大きくないけど。」
「本当か!?」
食いついてきたなぁ。掴みかからんばかりって感じだ。
「うん。少し距離があるけど車で二〇分くらいかな。終わってからでも十分いけるよ。」
「そうか…、ふふっ、楽しみだな。」
本当に嬉しそうだ。その横顔を眺めていると、何かに気づいたように俺の方を向く。
「あっ、いや、すまない。君の件をおろそかにしている訳ではないんだ。少し軽率だった…。」
また謝られた。ほんとにそういう訳じゃないんだけど。
「大丈夫。楽しみにしてたってことは良くわかったから。」
「う…、そう言われると恥ずかしいな…。」
俯いてしまった。顔は見えないけど赤くなってそうだ。
…うん。これは早く終わらせてあげよう。
「よし、五層の入り口まで走ろう。」
そう言って、レンの返事も聞かずに走り始める。
「なっ!?どうしたんだ急に!」
あ、けっこう慌ててる。
でも、せっかくだから少しでも長く遊べた方がいいだろ。
日本に行けてよかったって思って欲しいしさ。
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