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頑張る甲斐君

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ゾンビを殴り始めて、どのくらい経ったのか。
「ふぅっ!」
バットでゾンビの頭を叩き潰す。
いつになったら終わるんだ、これ…。
作業組のおじさんが、死んだような目で倒したゾンビを引きずっていってくれる。
そっちも辛いですよね…。
2本の鉄板は持つのが嫌になったので捨てた。あれ重すぎ。なんであんなに重くしたんだろう、俺。
甲斐君は3回目の魔法を使ったところで嘔吐したので、バリケードの中で休ませている。
俺の始めてのお姫様抱っこは甲斐君だった…。悲しい。甲斐君も不本意だろうけどさ。
俺ももう、2回魔法を使った。
炎を飛ばす意味がわからないとか思っててごめんなさい。便利でした。
「魔法いきますー。」
やってくれー!と誰かの声。
バットの先に灯った光球を放り投げると、通路の奥でボンッと爆炎が巻き起こる。
もう作業組も戦闘組も関係なく、全員で休憩しながら戦って、魔石を回収しているような状態。
その甲斐あってゾンビの数は減った。あれだけギチギチに密集してたのが、いまは随分とまばらになった。
ただ、こうなってしまうと、脆くて弱いゾンビを倒すのは単なる作業でしかない。
本当につらい。もう少しで終わると信じたい。
「秋月くんちょっと休めって。動きっぱなしだろお。」
「川越さん。」
「こんだけ減りゃ俺たちでも大丈夫だからよ。ちょっと下がってろよ。」
そう言って、川越さんがゾンビを殴りつける。
いい人なんだよね。ちょっとデリカシーが無いだけで。
「ありがとうございます。少し休みます。」
「おう、後はまかせとけー。」
川越さんの声を背中で聞きながら、バリケードへ向かう。
魔石を回収してる人も、休んでいる人も、みんなヘロヘロだ。
お疲れ様ですと声をかけると、お疲れ、頑張ったなと返してくれるのが嬉しい。
バリケード内の隅で、座り込んで俯いている甲斐君。驚かせないよう、その隣に座る。
「あっ…、秋月くん。」
「大丈夫?」
「うん、大丈夫。そろそろ動けそう。」
青白い顔は、とても大丈夫には見えない。
魔法の使いすぎってつらいからなぁ。
「かなり減ってきたから無理しなくていいよ。動けそうなら魔石回収の手伝いかな。」
「…そっか。ごめんね。」
また俯いてしまう。
「謝ることなんてないって。甲斐君の魔法で隙間ができたからバリケードを進められたんだし。討伐数だってかなりのものなんだから。」
「うん…。でも、ボクにもっと体力があったら…。」
「甲斐君は今できることをやりきったよ。体力はこれからつければいいし。俺と潜るんだろ?すぐだよ。」
甲斐君が顔を上げる。少し気力が戻った顔で真っ直ぐにこちらを見つめてくる。
「うん。…ボク、頑張るから。」
「ん。じゃあ、俺ももう少し頑張ってくるよ。」
バットを握りなおして立ち上がる。
「もう行くの?」
「ああ、やっぱり気になるからさ。甲斐君は無理しないように。」
「うん。ありがとう、秋月くん。」
ひらひらと手を振ってそれに答えながら、バリケードの外へと向かう。
うーん…。甲斐君はきちんと自分の仕事をこなせてるんだけどな。
俺を距離が近い分、どうしても比べてしまうのかもしれない。
もしかしたら、俺に置いていかれるとか考えるのかな。無理しなくても大丈夫なのに…。
俺にとって唯一の友達なんだから。
そんなことを考えていると、前のほうから声が響いてくる。

「ゾンビが来なくなったぞー!」

え、終わった!?
わっと上がる歓声。
振り返ると、甲斐君と目が合う。
よたよたと立ち上がろうとして、また座り込んでしまうのが見てられなくて、駆け寄って腕を取って立たせる。
「終わった!」
「やったよ秋月くん!」
そのまましがみつく様にして、俺の腕を揺する甲斐君。
「よし、確認しに行こう!」
そんな甲斐君を、ひょいっと抱え上げる。
「えええ!?なんで!?」
「甲斐君、まだ走れないだろ。」
「そりゃ走れないけど…。」
甲斐君の抗議は無視して前線へと走る。
途中。投げ捨てた鉄板を1本回収。
揺れが酷いのか甲斐君が呻くけど、それも無視。ごめんね。
少し走ると、すぐに皆の姿が見えてくる。
気が抜けたのか全員が地面に座り込んでるみたいだ。
「すいません、戻りました!」
甲斐君を地面に座らせる。流石に落とすようなことはしない。
「おう、終わったみたいだぞ。」
河野さんが、なんとかといった感じで言葉を絞り出す。
元気すぎだろぉ、とぼやく川越さんは、まだ余裕がありそうだ。
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