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本気で喧嘩されると止める以前になんか引きますね

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 メルの鋭い声。驚いて目を向けると、噛み付かんばかりにリサを睨みつけている。

「メロー、アグリッサ・メロー、貴方はくろーさんを切り捨てるの?」

 やばい、なんかメルのスイッチが入ってる

「必要な判断を下しただけです。何より、メルも攻撃はないと考えていたのでしょう?」

「そう、考えてた。だからくろーさんが一人になる必要はない」

「いえ、僅かでも可能性があるのなら、危険は排除すべきです」

「つまり!」

 リサの言葉を遮るようにメルが叫ぶ。

「つまり、僅かな可能性が現実になったのなら、貴方はくろーさんに一人で死ねと言うのですね? アグリッサ・メロー」

 閣下が出てきてるよ、メル。怖いから。

「メル、リサの判断は間違ってねえよ」

「黙りなさい、エルダ」

「あぅ……」

 相変わらず弱いなエルダ。

「どうなのですか? 答えなさい、メロー」

「……クロウくんとフィーオウ。どちらかしか救えないのなら、私はフィーオウを選びます」

「貴方はっ!」

「メル、そこまで」

 立ち上がろうとするメルを引きとめ、抱き寄せる。

「はなっ、しなさい!」

「いいから落ち着け」

 暴れるメルを抱きしめて、額に口付けて髪を撫でる。

 諦めたのか、すぐに大人しくなったメルを抱いたまま顔を上げると、リサの顔から表情が抜け落ちてた。いや、目元がひくついてる。

 え、怒ってる?

 なんで? あ、俺がメルを抱きしめてるから? 嫉妬?

「それが公爵の地位にあった者の言葉ですか。領地と一緒に貴族の誇りも失ったようですね。メルフィリア・オーデール閣下」

 腕のなかでピクリとメルが反応する。まてまてまて、そこは突いちゃだめだろ。

「痛ましいことです」

「リサ!」

 思わず出てしまった咎めるような声。

「あ……」

 リサもまずいことを言ったことに気づいたらしい。みるみる弱弱しくなって俯いてしまう。

「うっ……、ふっ、ぐっ」

 メル?

「ふぅっ、うっ……えぇぇぇぇぇええ……」

 俺の服をギュッと掴んだメルの、哀れなほどか細い泣き声。

「くろっ、さん、おねがぃ、おいてかないでぇ。わたし、姉さっ、もっ、いや、もういやぁぁ……」

 なにかトラウマ的なものを刺激してしまったのか、俺の胸に額をこすりつけて必死で懇願してくる。

 けど、連れて行くとも言えず、抱きしめたまま頭を撫でてやるくらいしかない。

 メルを泣かせたリサはというと、俯いて黙ってるが目がせわしなく動いている。だいぶ同様してるっぽい。

「ほら、メル。こっちおいで」

 どうしたものかと悩んでいると、座ったまま向き直ったエルダが、そろえた膝の上をポンポンと叩く。

 のそのそと俺の身体をつたって、そちらへ移るメル。その小さな身体をエルダが包み込むように抱きしめる。

「さっきのは、メルがわりぃぞ?」

「ひくっ、姉っさっ」

「くろーは大丈夫だよ。ちゃんと帰ってくるから。くろーはつえぇんだから」

「でもっ、みんな、かえってぇ」

「大丈夫だって。なあ、くろー」

 こちらに向けられるエルダの瞳。

「ああ、大丈夫だ。心配するな」

「な。くろーは、あたし達を置いてったりしねえよ」

 エルダの大きな胸に顔を埋めてしゃくりあげるメル。その頭をエルダが優しく撫でる。

「くろー。もう大丈夫だから行ってくれ。シンシアにも言っとくから」

 残念がるだろうけど、と歯を見せて笑う。その笑顔が、なんか胸に刺さる。

「ああ、戻るまで頼むぞ。エルダ」

「おぉ、任せとけ」

 答えるエルダの頭を撫でる。こんな風にこいつを撫でるのは初めてかも。

 「行きましょう。クロウくん」

 そう言って立ち上がったリサが、2人へと頭を下げる。謝罪、なのかな。仲良くしてね、ほんとに。

 頭を上げたリサにエルダが頷く。大丈夫ってことかな。はぁ……。

 これも修羅場なのかな。心配事が増えてしまった。



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