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杞の国の人が無駄な心配をしてたから杞憂って言うんですって
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「うはぁ……」
通された応接室の中を見回し、思わず溜息をつく。
「くろーさん、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
「なんでそんな緊張してんだよ」
「そりゃするだろ」
こんな部屋で待たされて緊張しない訳がない。
真っ白な壁に金色の装飾。ところどころが虹色に光ってるのは貝殻だろうか。
その壁と合わせた調度品。いま正面にあるローテーブルも同じ意匠だ。
触ってみると、金色の装飾は本当に金属だった。たぶん金なんだろうな、これ。
床には毛足の長い絨毯がしかれ、三人並んで座ってるベルベットが張られたソファも中にたっぷりと綿が詰まってる。ふかふかだ。
壁に飾られた風景画も、鮮やかに塗られた花瓶も、そこに飾られた大輪の花も、なにを入れてるのかわからない宝石で飾られた小箱も、どれもこれも一目で、とんでもない高級品だというのがはっきりとわかる。
とにかく豪華で絢爛。リサの応接室は落ち着いてまとめてあって、たぶん高いんだろうなと思わせる感じだったけど、ここはまったく違う。
どれもこれも、私は高いです! と自己主張してくる。
お前らが落ち着いてるのが不思議でしょうがないよ。
「応接室なんて、どこもこんなもの。うちもここまでじゃないけど頑張ってた」
「あたしは凄えんだぞって見せ付ける部屋だかんな。ここ」
「お前ら、高位貴族だったな。そういえば」
こういうのも慣れてるわけか。
「元、高位貴族」
「あたしんとこは子爵家だから、そんなでもねぇけどな」
元を強調すんなよ。悪かったよ。
こっそりと反省していると、コッコッとノックの音。こちらの返事を待たずに扉が開くと、英雄の顔をしたリサが悠然と入ってくる。
外で扉を開く正規兵の姿が見えたが、外に残ったまま扉を閉めてしまった。そんな簡単に一人になっていいんだろうか。
「お待たせして申し訳ありません。オーデール……、ではありませんね。なんと呼べばいいでしょうか?」
俺達の正面のソファへ腰を降ろしながら2人へ問いかける。
「メル。敬称はいらない」
「あたしはエルダで。長い付き合いになんだろうしな」
「そうですね。私のことはクロウくんのようにリサと呼んでください。メル、エルダ」
「わかった。よろしく、リサ」
なんだろうね、穏やかな会話なんだけど、なんか怖い。俺が後ろめたく思ってるせい?
「リサ、悪かったな。会議中なのに」
「いえ、ちょうど休憩を入れたいと思っていたところでしたから」
そう言って俺へ視線を向けるリサ。一瞬だけ英雄の顔から女の顔になる。
「それで、エリカから簡単に聞きましたが、詳しく話してくれますか?」
エリカって誰だっけ。そんな考えを追いやって、砦での出来事から順に、自分の推測を話していく。
揺り籠の不自然な挙動、俺にだけ聞こえた声、俺は何かの目的があってこの世界によばれたのではないか。
それに神殿が絡んでいる可能性。「ミツケタ」が言葉通りの意味なら神殿から接触がある可能性が高い。
その時、神殿は俺に友好的か。俺に友好的だったとしても俺の周囲には? 250年前のような事態になりはしないか。
「だから俺は、周囲に被害がでないような場所で一人待機するか、いっそ一人で神殿へ向かうべきじゃないかと考えてる」
眉間にシワを寄せて俯くリサ。ごめんな、そんな顔させて。
「わたしはくろーさんの考えすぎだと思ってる。理由もなく街を攻撃するなら、この世界はとっくに滅んでる」
それは俺も考えた。考えたけどやっぱ怖いんだよ。
「そう、ですね。確かに杞憂かもしれません」
杞憂? 杞憂って使うのか。あるのか。なんなんだろうな、この世界って。
「ですが、僅かでも可能性があるのなら、そのままにはできませんね。クロウくん」
「はい」
あ、気を抜いてて思わず敬語で返事してしまった。
「正式な対処が決まるまで、東の砦で待機してください。リーゼロッテとミリアは引き上げさせますが、連絡役としてメイアは残します。もう面識は――
「待ちなさい!」
通された応接室の中を見回し、思わず溜息をつく。
「くろーさん、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
「なんでそんな緊張してんだよ」
「そりゃするだろ」
こんな部屋で待たされて緊張しない訳がない。
真っ白な壁に金色の装飾。ところどころが虹色に光ってるのは貝殻だろうか。
その壁と合わせた調度品。いま正面にあるローテーブルも同じ意匠だ。
触ってみると、金色の装飾は本当に金属だった。たぶん金なんだろうな、これ。
床には毛足の長い絨毯がしかれ、三人並んで座ってるベルベットが張られたソファも中にたっぷりと綿が詰まってる。ふかふかだ。
壁に飾られた風景画も、鮮やかに塗られた花瓶も、そこに飾られた大輪の花も、なにを入れてるのかわからない宝石で飾られた小箱も、どれもこれも一目で、とんでもない高級品だというのがはっきりとわかる。
とにかく豪華で絢爛。リサの応接室は落ち着いてまとめてあって、たぶん高いんだろうなと思わせる感じだったけど、ここはまったく違う。
どれもこれも、私は高いです! と自己主張してくる。
お前らが落ち着いてるのが不思議でしょうがないよ。
「応接室なんて、どこもこんなもの。うちもここまでじゃないけど頑張ってた」
「あたしは凄えんだぞって見せ付ける部屋だかんな。ここ」
「お前ら、高位貴族だったな。そういえば」
こういうのも慣れてるわけか。
「元、高位貴族」
「あたしんとこは子爵家だから、そんなでもねぇけどな」
元を強調すんなよ。悪かったよ。
こっそりと反省していると、コッコッとノックの音。こちらの返事を待たずに扉が開くと、英雄の顔をしたリサが悠然と入ってくる。
外で扉を開く正規兵の姿が見えたが、外に残ったまま扉を閉めてしまった。そんな簡単に一人になっていいんだろうか。
「お待たせして申し訳ありません。オーデール……、ではありませんね。なんと呼べばいいでしょうか?」
俺達の正面のソファへ腰を降ろしながら2人へ問いかける。
「メル。敬称はいらない」
「あたしはエルダで。長い付き合いになんだろうしな」
「そうですね。私のことはクロウくんのようにリサと呼んでください。メル、エルダ」
「わかった。よろしく、リサ」
なんだろうね、穏やかな会話なんだけど、なんか怖い。俺が後ろめたく思ってるせい?
「リサ、悪かったな。会議中なのに」
「いえ、ちょうど休憩を入れたいと思っていたところでしたから」
そう言って俺へ視線を向けるリサ。一瞬だけ英雄の顔から女の顔になる。
「それで、エリカから簡単に聞きましたが、詳しく話してくれますか?」
エリカって誰だっけ。そんな考えを追いやって、砦での出来事から順に、自分の推測を話していく。
揺り籠の不自然な挙動、俺にだけ聞こえた声、俺は何かの目的があってこの世界によばれたのではないか。
それに神殿が絡んでいる可能性。「ミツケタ」が言葉通りの意味なら神殿から接触がある可能性が高い。
その時、神殿は俺に友好的か。俺に友好的だったとしても俺の周囲には? 250年前のような事態になりはしないか。
「だから俺は、周囲に被害がでないような場所で一人待機するか、いっそ一人で神殿へ向かうべきじゃないかと考えてる」
眉間にシワを寄せて俯くリサ。ごめんな、そんな顔させて。
「わたしはくろーさんの考えすぎだと思ってる。理由もなく街を攻撃するなら、この世界はとっくに滅んでる」
それは俺も考えた。考えたけどやっぱ怖いんだよ。
「そう、ですね。確かに杞憂かもしれません」
杞憂? 杞憂って使うのか。あるのか。なんなんだろうな、この世界って。
「ですが、僅かでも可能性があるのなら、そのままにはできませんね。クロウくん」
「はい」
あ、気を抜いてて思わず敬語で返事してしまった。
「正式な対処が決まるまで、東の砦で待機してください。リーゼロッテとミリアは引き上げさせますが、連絡役としてメイアは残します。もう面識は――
「待ちなさい!」
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