上 下
39 / 99

紅茶煎れるのってけっこう難しい

しおりを挟む
「クロウ君。今日は招待に応じてくれてありがとう。」
メローが俺の目を見つめながら礼を言ってくる。
少し落ち着いたのか昨日の雰囲気に戻ってきてるな。
「いや、無理なお願いをした自覚はあるからな。このくらい当然だよ。」
「そう言ってもらえると助かります。ふふ…、なんだか一晩ですいぶん丸くなったように感じますね。」
たぶん、シンシアさんのお陰です。
「昨日は2人のこともあって気負ってたからな。それと、フィーオウの英雄って言葉に対抗意識を燃やしてた。」
「私にですか?」
「ああ、いま考えると恥ずかしいけど。」
あと、ものすごく悔しい。
「恥ずかしがることではないでしょう。体術ならクロウ君が上だろうと見ていますよ?」
「どうだろうな。少なくとも俺は魔法が使えない。」
「魔法…ですか。」
メローが右手の人差し指を立てると、その先に炎が灯る。
思わず「おお…。」と声が漏れた。
「魔法は魔力を使ってイメージしたことを現実に起こす技術です。そして規模が大きくなれば大きくなるほどイメージを組み立てる時間も集中力も必要になる。」
指先の炎がうねり、翼を閉じた小鳥へと姿を変えた。
「たとえば、この距離でクロウ君が私に攻撃したとしましょう。その攻撃が届くまでに私がクロウ君を止めるほどのイメージを組み立てられるか。」
小鳥が羽ばたき指先から舞い上がる。
2人の頭上を何度か回ると、そのまま少しずつ小さくなり消えていった。
「おそらく難しいでしょう。良くて五分。分が悪いと思いませんか?」
「そうだな…。」
けど、俺の攻撃が届くかも五分ってことだ。
俺が積み重ねてきたものが、魔法というよく分からない不思議なものに劣る。
そのことにモヤモヤしたものがある。
もちろん、魔法を使いこなすのだって大変なんだろうけど。
「対抗意識を燃やしたのはクロウ君が強いから。そして体術は立ち振る舞いだけで、その英雄が自分よりも上だと感じるほど。恥じることなどないと思いませんか?」
ああ、これは励ましてくれてるのか。
「…ありが
お礼を言おうとしたところで、ノックの音が響く。
「入りなさい。」
失礼します、と入ってきた2人のメイドが綺麗な所作でてきぱきとお茶を注ぎ、焼き菓子を並べる。
赤いジャムが乗った、クッキーだろうか?
製菓レベル高いな、この世界。
「ありがとう。あとは申し付けておいた通りに。」
メイド2人が退出していく。
申し付けておいた、か。
なにかあるんだろうか。
「さ、クロウ君。どうぞ召し上がってください。この焼き菓子のジャムは庭で取れたベリーで作っているんですよ。私の年に一度の楽しみなんです。」
この状況で毒殺はないよな。
薬を盛られる可能性は?
……考えても仕方ないか。
「いただきます。」
焼き菓子を手に取り口へと運ぶ。
砂糖とバターをたっぷりと使ったサクサクの生地がジャムの酸味と口の中で溶け合う。
「…美味しい。」
「そうでしょう?私の自慢なんです。どうぞ、お茶も飲んでみてください。」
言われるままにお茶を口に含む。
完璧だ。
エグみが一切ない。
お湯の温度管理が徹底されているんだろう。
お茶を入れる水にもこだわってるかもしれない。
「すごいな、これ…。」
「もしかして、クロウ君はお茶がわかる人ですか?」
「ああ、自分でもよくいれるんだ。けど、狙ってこの味を出すのは俺には無理だな。」
「そうなんです!使用人達にコツを聞いても、自分達が入れるからって絶対に教えてくれないですよ!」
キラッキラの目で早口でまくし立てるメロー。
同好の士を見つけられたことが、よほど嬉しいらしい。
俺も誰かとお茶の話をしたことは無かったから、とにかくお茶の話で盛り上がった。
この世界もお茶を産地で呼ぶようだが、当然分からない。
せっかくなので味の特徴と併せて教えてもらった。
意外なことに、この世界はまだミルクを入れる習慣やフレーバーティーは無いようだった。
メローには邪道じゃないかと言われたが、熱く語る俺に少し興味を持ってくれたらしい。
いつかアールグレイのミルクティーを飲ませてみたい。
そしてなにより意外だったのは、焼き菓子はメローが焼いたものだったことだ。
ジャムに至ってはベリーの手入れ、収穫から自分でやっているという。
なんか女子力を通り越した別の力が高くなってる感じだ。
飲み食いして大丈夫な身体かも分からないのに、ついつい手を伸ばしてしまい…焼き菓子の皿を空にしてしまった。
当然、お茶もおかわりした。
メローが直接注いでくれたが、いいんだろうかこれ。
「ごちそうさまでした。」
「はい。満足してくれたようでなによりです。」
そう言って微笑む。
「それじゃあ、クロウ君。」
その瞬間、メローの雰囲気が変わる
フィーオウの英雄、アグリッサ・メロー。
「少し、真面目な話をしましょうか。」
ここからが本番か。
「そうだな。俺もそのつもりだった。」
昨日と同じ、妖艶な微笑。
貫くような鋭い視線に負けないよう、腹に力を込める。
「クロウ君、君はいったい何者ですか?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】転生?した先は、リアルよりもHな世界でした。

N.M.V
ファンタジー
注)本小説は、1話毎にエロシーンが御座います。嫌悪感を抱かれる方、苦手な方は閲覧をお控えください。 ……そこはダンジョン奥深く、戦闘の狭間で休憩していたワタシは、パーティーメンバーの1人、後衛の魔法士にいきなり弱の麻痺魔法をかけられ、押し倒された。 「なに考えれんろのよ!!、やめれぇ!!」 麻痺のせいでろれつが回らない。 「テメェが、素直にヤラせてくれねーからだろ?」 他のメンバーに助けを求め視線を向けた。だけど、全員が下卑た笑いをしてる。コイツら全員最初からワタシを犯す気なんだ。 最悪だわ。 魔法士は、ワタシの装備を剥がし、その下の服を引き裂いて、下半身の下着を引きちぎった。 「ペナルティ食らうわよ……」 「そんなもん怖くねーよ、気持ち良けりゃイイんだよ」 魔法士はそう言ってズボンを下ろした。ギンギンに張ったサオを握りしめ、ワタシの股を割って腰を入れて来る。 「や、やめてぇ、いやぁん」 「好き者のくせに、カマトトぶるんじゃねーよ、最初に誘ったのはオメエじゃねーか」 強引なのは嫌なのよ! 魔法士のサオがワタシのアソコに当てがわれ、先っちょが入って来る。太くて硬い、リアルとは異なるモノが…… 「や、いやっ、あっ、ああっ」 ……… ワタシの名前は、「エム」 人類は平和だろうが戦争中だろうが、心に余裕があろうがなかろうが、生きるも死ぬも関係なしに、とにかく欲望のままにHをしたがる。 ワタシがプレイしていたゲームは、そんな人類の中で、人より頭がちょっと賢くてオカシなゲームマスターが 「とにかくHがしたい」 なーんて感じで娯楽を創造したんだと思う。 類い稀なるフルダイブ型エロゲー。世界設定は、剣と魔法のファンタジー、エロゲーだけあり、Hもできちゃう。 でも内容は本格的、一切の妥協はなし。 生と死の間、命のやりとり、バトルオブサスペンス!、世界も広い!、未踏の大地、拡張されるストーリー!、無限に広がるナントやら。 因みに、H出来るのは倫理上、人同士のみ。 ゴブリンに攫われてヤラレちゃうとかナンセンス。そんなのは他所でヤレ、です。 …そんなゲーム世界から、いきなり異世界に飛ばされてしまった不幸なワタシの物語です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした

田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。 しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。 そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。 そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。 なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。 あらすじを読んでいただきありがとうございます。 併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。 より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした

宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。 聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。 「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」 イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。 「……どうしたんだ、イリス?」 アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。 だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。 そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。 「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」 女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

凌辱系エロゲの世界に転生〜そんな世界に転生したからには俺はヒロイン達を救いたい〜

美鈴
ファンタジー
※ホットランキング6位本当にありがとうございます! 凌辱系エロゲーム『凌辱地獄』。 人気絵師がキャラクター原案、エロシーンの全てを描き、複数の人気声優がそのエロボイスを務めたという事で、異例の大ヒットを飛ばしたパソコンアダルトゲーム。 そんなエロゲームを完全に網羅してクリアした主人公豊和はその瞬間…意識がなくなり、気が付いた時にはゲーム世界へと転生していた。そして豊和にとって現実となった世界でヒロイン達にそんな悲惨な目にあって欲しくないと思った主人公がその為に奔走していくお話…。 ※カクヨム様にも投稿しております。

処理中です...