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スマートフォンは使えませんでした

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見慣れない板張りの天井。
寝ぼけた頭でぼーっと見つめる。
俺の部屋の天井じゃない。
どこだっけ、ここ。
薄い毛布をはらって身体を起こすと服を着ていないことに気づく。
ベッドの隅で、宿から借りた薄いガウンがくしゃくしゃになっていた。
拾い上げてベッドから降り、ガウンを羽織る。
目に入ってくるのはアンティーク感溢れる部屋。
窓から明るい日差しが差し込んでいる。
自分の部屋なわけがないよな。
ぐっと込みあがってくる何かを脇にどけて考える。
昨日はどうしたんだっけ。
風呂に入ってから…、風呂か…シンシアさん。
思い出すと顔が火照る。
なんであんなになったんだろう俺。
はぁ…、とりあえずそれも置いとこう。
風呂が終わって、服はシンシアさんに預けたんだ、洗濯してもらえるから。
部屋にもどったら2人とも寝てて、俺もすぐに寝ちゃったんだな。
2人を見ると、まだぐっすりと眠っている。
奥のエルダは綺麗に肩まで毛布を被って。
手前のメルは頭まで毛布を被って丸まって。
そんな2人を起こさないようにテーブルへ移動し、椅子に腰掛けてる。
メルのナイフをベルトに繋がった鞘から引き抜いた。
綺麗に磨かれた刀身に映った自分の顔。
それを確認しながら恐る恐る顎を撫でる。
つるりとした感触に思わずため息をついた。
ヒゲは濃い方じゃないが、二晩もたって伸びてこないなんてのはありえない。
それに、ここにきてから一度も排泄もしていない。
口にしたのもメルにもらった不味い水を一口だけ。
軽い空腹感はあるが、飢餓感はない。
ナイフで軽く左手の甲を引っ掻く。
じわりと傷口から血が滲み、ぷつりと玉を作る。
血は出るのか。
精液も出る。
眠くはなる。
いま勃起してるから朝立ちもするな。
排泄はない。
腹も減らない。
ヒゲが伸びてこない。
…どうなってんだろうな、俺の身体。
考えても仕方ないから、ほっとくしかないけど。
また溜息をついてナイフを鞘へしまい、元の世界から持ってきたバックを開ける。
学校が休みの日だったから大した物は入ってない。
サイフ、スマートフォン、モバイルバッテリー、100円ショップで買った結束バンド、ホチキスと針、T字カミソリ、500mlペットの水にお気に入りのチョコバーが2本。
もしかしたらとスマートフォンの電源を入れてみるが、アンテナは立ってないしWifiも繋がらない。
まあ、当然か。
ペットボトルはけっこう使えるだろうな。
チョコバーは…、あとで2人に食べさせよう。
喜ぶといいな。
出した荷物をバッグに戻す。
あとは、普通に中にだしてるけど妊娠するんだろうか。
ほっとくわけにもいかないし話さないとなぁ。
なんて言おう。
気が重い…。

そんなことを考えていると、コッコッ、コッコッとノックの音が響く。
ガウンの前を閉じて扉を開けると、立っていたのは服が入った籠を持ったシンシアさんだった。
「おはようございます。クロウ様。」
柔らかい笑顔。
顔が火照る。絶対に真っ赤になってる。
「あ…、お、おはよう、シンシアさん。」
そんな俺の反応にクスっと笑うと、すっと一度だけ俺の頭を撫でてくれた。
「お預かりした服をお持ちしました。ただ、お連れ様の服は痛みが激しいので補修に出されたほうがよろしいかと。代わりの服も用意しておりますので、よろしければご利用ください。」
と、籠を差し出してくる。
「あ、ありがとう、シンシアさん。服を借りるのにお金は?」
籠を受け取ると、きゅっと手を握られる。
「もちろん頂きません。もし用意した服を購入されるのでしたらご相談ください。」
「わかった。ありがとう。」
指先を絡めて名残惜しそうに手が離れる。
「はい、クロウ様。それでは失礼いたします。今日も受付におりますので、何かありましたらお声がけください。」
そう言って綺麗に頭を下げると階段の方へ歩いていった。
顔がにやける。
自分でも単純だと思うけど、凄く元気がでてしまった。
自分が寝ていたベッドに籠を置いて、ガウンを脱ぐ。
元気になれば、やりたくなるのは仕方ないよな。
我ながらゲスいと思うけどさ。
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