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海辺の町で、あなたと
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客室に應汰の荷物を運んだ後、落ち着いて話をするために私の部屋に應汰を連れて行った。
この部屋に両親以外の人が来るのは初めてだ。
コーヒーを淹れてテーブルの上に置き、向かい合って座る。
「とりあえず順を追って話して欲しいんだけど……應汰は私がここにいるって、なんでわかったの?」
「最後に会った次の週、芙佳に電話しても繋がらないし会社にも来てないし、おかしいと思って経理部の子に聞いたら、芙佳は会社辞めたって言うからビックリしてさ。仕事終わってマンション行っても、もう引っ越した後だったし」
最後に会った時に『両親のところに行く』と私が言っていた事を思い出した應汰は、高校時代の卒業アルバムで住所を調べて私の実家があった場所に行ったそうだ。
実家に行けばきっと会えると思っていたのに、そこにあるはずの家はなく、コインパーキングになっていることに愕然としたと應汰は言った。
應汰は手がかりを探して、高校時代の同級生や経理部の人たち、仲の良かった同期に私の居所を聞いて回り、ついには経理部の部長にまで詰め寄って、両親のペンションを手伝うと言っていたと聞きだしたらしい。
その時勲が、『両親は海辺の町でペンションを経営していると聞いた事がある』と教えてくれたと言う。
それは勲なりの、私に対する最後の優しさだったのかも知れない。
それから應汰はまたいろんな人にペンションの場所を知らないかと尋ねて回り、更にガイドブックやインターネットで検索した海辺のペンションに電話をして、私がそこで働いていないかと尋ねたそうだ。
そして3日前、出先でコーヒーでも飲もうと入ったカフェで、若いカップルがタブレットを見ながら『このペンションは良かったね』『来年も海に行く時はここに泊まろう』などと話しているところに遭遇して、藁にもすがる思いで見ず知らずのカップルに声をかけたらしい。
その時カップルが『このペンションは小さいからガイドブックにも載っていないけど、家庭的で料理が美味しかった』と言いながら見せてくれたのがこのペンションのホームページで、客の送った写真に私が写っているのを見て、やっと見つけたと思ったと應汰は言った。
應汰はここに来た経緯を一通り話し終わると、コーヒーを飲んでまっすぐに私の方を見た。
「芙佳、なんで俺に何も言わなかった?」
「なんで……って……。心の傷を癒したかったし、一人になって、ちゃんと自分を見つめ直したかったから。あのまま應汰に甘えてたら、ダメになっちゃいそうだったもん」
「俺には甘えてくれていいのに……」
そう言って應汰はテーブルの上で私の手を握った。
久しぶりの應汰の手のぬくもりが心地いい。
「もう傷は癒えた?」
「……うん」
「俺は芙佳に会いたくて、ずっと探して、ここに来た。好きだから」
「ありがと……」
「まだあの人が好き?俺は……まだあの人の身代わりにしかなれないか?それとももう新しい恋人が……」
應汰は真剣な顔をして尋ねる。
私は應汰の手を握り返して、首を横に振った。
「目を閉じるとね……あの人の事ばっかり浮かんできた時もあったけど……今は……」
「今は?」
少し身を乗り出して應汰の唇に軽く口付けた。
不意を突かれた應汰は目を大きく見開いた後、3度瞬きをした。
驚いたその様子がなんだかおかしくて、思わず笑ってしまう。
「今は目を開いてても閉じてても、いつも應汰の事ばっかり考えてる」
私がそう答えると、テーブルを挟んだ距離がもどかしくなったのか、應汰が私の隣に座った。
「ちゃんと言えよ」
「ん?」
「俺が好きだってハッキリ言え」
「……やだ」
「なんでだよ、こいつ!!」
應汰は私を抱き寄せて、逃げられないように長い腕で抱え込んだ。
少し強引で俺様なこの感じも懐かしくて、また笑いがもれる。
この部屋に両親以外の人が来るのは初めてだ。
コーヒーを淹れてテーブルの上に置き、向かい合って座る。
「とりあえず順を追って話して欲しいんだけど……應汰は私がここにいるって、なんでわかったの?」
「最後に会った次の週、芙佳に電話しても繋がらないし会社にも来てないし、おかしいと思って経理部の子に聞いたら、芙佳は会社辞めたって言うからビックリしてさ。仕事終わってマンション行っても、もう引っ越した後だったし」
最後に会った時に『両親のところに行く』と私が言っていた事を思い出した應汰は、高校時代の卒業アルバムで住所を調べて私の実家があった場所に行ったそうだ。
実家に行けばきっと会えると思っていたのに、そこにあるはずの家はなく、コインパーキングになっていることに愕然としたと應汰は言った。
應汰は手がかりを探して、高校時代の同級生や経理部の人たち、仲の良かった同期に私の居所を聞いて回り、ついには経理部の部長にまで詰め寄って、両親のペンションを手伝うと言っていたと聞きだしたらしい。
その時勲が、『両親は海辺の町でペンションを経営していると聞いた事がある』と教えてくれたと言う。
それは勲なりの、私に対する最後の優しさだったのかも知れない。
それから應汰はまたいろんな人にペンションの場所を知らないかと尋ねて回り、更にガイドブックやインターネットで検索した海辺のペンションに電話をして、私がそこで働いていないかと尋ねたそうだ。
そして3日前、出先でコーヒーでも飲もうと入ったカフェで、若いカップルがタブレットを見ながら『このペンションは良かったね』『来年も海に行く時はここに泊まろう』などと話しているところに遭遇して、藁にもすがる思いで見ず知らずのカップルに声をかけたらしい。
その時カップルが『このペンションは小さいからガイドブックにも載っていないけど、家庭的で料理が美味しかった』と言いながら見せてくれたのがこのペンションのホームページで、客の送った写真に私が写っているのを見て、やっと見つけたと思ったと應汰は言った。
應汰はここに来た経緯を一通り話し終わると、コーヒーを飲んでまっすぐに私の方を見た。
「芙佳、なんで俺に何も言わなかった?」
「なんで……って……。心の傷を癒したかったし、一人になって、ちゃんと自分を見つめ直したかったから。あのまま應汰に甘えてたら、ダメになっちゃいそうだったもん」
「俺には甘えてくれていいのに……」
そう言って應汰はテーブルの上で私の手を握った。
久しぶりの應汰の手のぬくもりが心地いい。
「もう傷は癒えた?」
「……うん」
「俺は芙佳に会いたくて、ずっと探して、ここに来た。好きだから」
「ありがと……」
「まだあの人が好き?俺は……まだあの人の身代わりにしかなれないか?それとももう新しい恋人が……」
應汰は真剣な顔をして尋ねる。
私は應汰の手を握り返して、首を横に振った。
「目を閉じるとね……あの人の事ばっかり浮かんできた時もあったけど……今は……」
「今は?」
少し身を乗り出して應汰の唇に軽く口付けた。
不意を突かれた應汰は目を大きく見開いた後、3度瞬きをした。
驚いたその様子がなんだかおかしくて、思わず笑ってしまう。
「今は目を開いてても閉じてても、いつも應汰の事ばっかり考えてる」
私がそう答えると、テーブルを挟んだ距離がもどかしくなったのか、應汰が私の隣に座った。
「ちゃんと言えよ」
「ん?」
「俺が好きだってハッキリ言え」
「……やだ」
「なんでだよ、こいつ!!」
應汰は私を抱き寄せて、逃げられないように長い腕で抱え込んだ。
少し強引で俺様なこの感じも懐かしくて、また笑いがもれる。
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