サディスティックなプリテンダー

櫻井音衣

文字の大きさ
上 下
91 / 95
暴かれた真実

しおりを挟む
「できれば生きているうちに曾孫の顔を見たいとは言ったが、すぐに子供ができなければ結婚を認めんとは言っておらん」

お祖父様の思いもよらぬ言葉に、杏さんはかなり戸惑っているらしい。
僕もお祖父様の言葉には心底驚いている。
僕が杏さんに頼まれて婚約者のふりをしていた事は話したはずなのに、なぜお祖父様はそんな事を言うんだろう?
杏さんが自分の口から「あれは嘘だったんです」と打ち明けるまで、お祖父様はその嘘に付き合う気なのかな?

「ところで裕喜くん、さっきの話なんだが」
「はい」
「こちらの会社で商品化した鴫野くんのメニューのデータを、ビジネスとして正式に譲ってくれんだろうか。鴫野くん本人も一緒に」

……え?
今なんておっしゃいました?
僕も一緒にってどういう事だ?

「うちの鴫野も……ですか?」
「聞いたところによると、彼の実力がおおいに発揮できるのは、高齢者向けの商品だそうじゃないか」
「そのようですね」
「鴫野くんにはうちの会社でぜひ働いてもらいたい。どうかね?」

お祖父様と裕喜社長が同時に僕の方を見た。
どうかね?って突然言われても……。
これっていわゆる、ヘッドハンティングとか言うやつ?
作る料理も地味だけど、社内でも地味で目立たない僕にそんなことが起こるなんて、もう何がなんだかわけがわからない。
予想外の展開に僕はオロオロするばかりだ。

「突然そうおっしゃられても……」
「そうか。では杏との縁談も含めて前向きに検討してくれ」
「……はい?」
「君は杏の婚約者なんだろう?」
「えっと……それは……」

なんと答えれば良いのやら。
これには杏さんも慌てている様子だ。

「君は杏の事が本当に好きなんだろう?」

自分の口から伝えた事もないのに、まさか杏さん本人の前でお祖父様に暴露されるとは!!
ばあちゃんがしれっとお祖父様に暴露した時とは比べ物にならないくらいの衝撃だ。

「この先もずっと杏といたいと……その気持ちに嘘はないと、君は言ったな?」
「……はい、言いました」
「それでは後は当人同士の問題だ。二人でよく話し合って考えてくれればいい。信幸もそれで良いな?」

ずっと杏さんの隣で黙っていた男の人が、少し嬉しそうに笑ってうなずいた。

「ええ、お父さんがそうおっしゃるのなら」

お祖父様がこの人のお父さん……って事は、この人は杏さんのお父さんか!!
なんかもう、どえらいことになってるよ……!
隣を見ると、ばあちゃんがニコニコして僕と杏さんを見ている。

「良かったわね、章悟」

良かった……のか?
いや、ちょっと待て。
僕は肝心な事を忘れている。
お祖父様やお父さんが許しても、僕がどれだけ杏さんを好きでも、杏さんが僕を好きでなければどうにもならないじゃないか!!
あまりにも気まずくて、僕の胃までキリキリと悲鳴をあげ始めた。
こんな状態ではまともに杏さんの顔を見る事もできない。

「それにしても疲れた。ワシは休む事にする。信幸、弥栄子さんと鴫野くんを家にお連れしなさい」
「わかりました」


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

crazy Love 〜元彼上司と復縁しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
crazy Love 〜元彼上司と復縁しますか?〜

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

Princess story 〜御曹司とは付き合いません〜

鳴宮鶉子
恋愛
Princess story 〜御曹司とは付き合いません〜

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

処理中です...