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暴かれた真実
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「杏お嬢さんの顔に泥をって……穂高、おまえ一体何をしたんだ?!」
僕の知らない男性の一人が青ざめた。
あれは誰かと僕が小声で尋ねると、ばあちゃんがこそっと教えてくれた。
どうやらその男性はイチキの御曹司の父親、すなわちイチキコーポレーションの社長らしい。
「な……なんの事ですか?」
上ずった声でイチキの御曹司が尋ねると、お祖父様は冷たく鋭い目をしてニヤリと笑った。
「しらばっくれるか?おまえは鴫野くんの同僚を買収しただろう。調べはついている。おまえの小さい頃からのお家芸だな」
お祖父様はイチキの御曹司が子供の頃にはたらいていた悪事もお見通しのようだった。
そして一体どうやって調べあげたのか、イチキの御曹司が渡部さんに僕のメニューのデータを盗ませたんだそうだ。
お祖父様の話によると、渡部さん本人から聞き出したところ、渡部さんは有澤家の令嬢で決められた婚約者がいるのに僕と一緒に暮らしている事を社内の人間にバラされたくなければ僕と別れろと、杏さんを脅したらしい。
もちろんその情報はイチキの御曹司から得た物だ。
ついでに言うと渡部さんはその時、僕が好きなのは渡部さんで、僕と付き合っていると杏さんに言ったそうだ。
僕自身が知らない所でそんな話をされていた事に驚いた。
だから杏さんは急に昼休みを別々に過ごそうとか、弁当はいらないと言ったり、社泊の日が増えたり、僕と距離を取ろうとしたのかも知れない。
結局渡部さんはイチキの御曹司の口車に乗り、自分をフッた僕と、僕と別れなかった杏さんへの仕返しに、僕のメニューのデータを盗んだ。
その見返りは多額の金銭と、イチキコーポレーション本社広報部への再就職だったそうだ。
イチキの御曹司は渡部さんに盗ませたデータを自分が趣味で作ったレシピとして、例のシニア向けサービスの商品開発部で働く知人に「自由に使っていいからぜひ参考にしてくれ」と言って渡したらしい。
事細かに自分の悪事を調べあげられたイチキの御曹司は、物も言わず青ざめた顔で唇を噛んでいた。
イチキの社長は息子のしでかした事を知って、お祖父様に平謝りだ。
その姿はちょっと気の毒に思えた。
「市来、杏と穂高の縁談はなかった事にしてくれ」
お祖父様はイチキの社長にそう言い渡すと、イチキの御曹司に視線を向けた。
「いくら好きでも、おまえのようなあざとい男にかわいい孫は任せられん。いい歳をして親の地位や財力にばかり頼っていないで、性根を入れ替えて一からやり直せ」
お祖父様の厳しいお叱りの言葉に、イチキの御曹司はガックリうなだれた。
お祖父様がイチキの社長の方を見ながらクイッと顎でドアの方を指し示すと、イチキの社長は深々と頭を下げて、御曹司を連れて病室を後にした。
ゆっくりドアが閉まると、お祖父様は杏さんに向かって穏やかに笑った。
「さて……穂高との縁談はこれで完全に白紙になった。杏は本当に結婚したい相手と一緒になりなさい。もちろん会社は継いでもらうがな」
「えっ……?」
僕の知らない男性の一人が青ざめた。
あれは誰かと僕が小声で尋ねると、ばあちゃんがこそっと教えてくれた。
どうやらその男性はイチキの御曹司の父親、すなわちイチキコーポレーションの社長らしい。
「な……なんの事ですか?」
上ずった声でイチキの御曹司が尋ねると、お祖父様は冷たく鋭い目をしてニヤリと笑った。
「しらばっくれるか?おまえは鴫野くんの同僚を買収しただろう。調べはついている。おまえの小さい頃からのお家芸だな」
お祖父様はイチキの御曹司が子供の頃にはたらいていた悪事もお見通しのようだった。
そして一体どうやって調べあげたのか、イチキの御曹司が渡部さんに僕のメニューのデータを盗ませたんだそうだ。
お祖父様の話によると、渡部さん本人から聞き出したところ、渡部さんは有澤家の令嬢で決められた婚約者がいるのに僕と一緒に暮らしている事を社内の人間にバラされたくなければ僕と別れろと、杏さんを脅したらしい。
もちろんその情報はイチキの御曹司から得た物だ。
ついでに言うと渡部さんはその時、僕が好きなのは渡部さんで、僕と付き合っていると杏さんに言ったそうだ。
僕自身が知らない所でそんな話をされていた事に驚いた。
だから杏さんは急に昼休みを別々に過ごそうとか、弁当はいらないと言ったり、社泊の日が増えたり、僕と距離を取ろうとしたのかも知れない。
結局渡部さんはイチキの御曹司の口車に乗り、自分をフッた僕と、僕と別れなかった杏さんへの仕返しに、僕のメニューのデータを盗んだ。
その見返りは多額の金銭と、イチキコーポレーション本社広報部への再就職だったそうだ。
イチキの御曹司は渡部さんに盗ませたデータを自分が趣味で作ったレシピとして、例のシニア向けサービスの商品開発部で働く知人に「自由に使っていいからぜひ参考にしてくれ」と言って渡したらしい。
事細かに自分の悪事を調べあげられたイチキの御曹司は、物も言わず青ざめた顔で唇を噛んでいた。
イチキの社長は息子のしでかした事を知って、お祖父様に平謝りだ。
その姿はちょっと気の毒に思えた。
「市来、杏と穂高の縁談はなかった事にしてくれ」
お祖父様はイチキの社長にそう言い渡すと、イチキの御曹司に視線を向けた。
「いくら好きでも、おまえのようなあざとい男にかわいい孫は任せられん。いい歳をして親の地位や財力にばかり頼っていないで、性根を入れ替えて一からやり直せ」
お祖父様の厳しいお叱りの言葉に、イチキの御曹司はガックリうなだれた。
お祖父様がイチキの社長の方を見ながらクイッと顎でドアの方を指し示すと、イチキの社長は深々と頭を下げて、御曹司を連れて病室を後にした。
ゆっくりドアが閉まると、お祖父様は杏さんに向かって穏やかに笑った。
「さて……穂高との縁談はこれで完全に白紙になった。杏は本当に結婚したい相手と一緒になりなさい。もちろん会社は継いでもらうがな」
「えっ……?」
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