83 / 95
嵐の後の胸騒ぎ
3
しおりを挟む
……そういえば、昨日矢野さんが気になる事を言ってたな。
僕は熱いお茶をすすりながら、昨日矢野さんから聞いた話を思い出した。
昨日の夜、僕と矢野さんはまた例の小料理屋で酒を飲みながら食事をしていた。
ある程度空腹が満たされた頃、矢野さんが「そういえば……」と声を潜めた。
「なぁ……渡部の事で変な話聞いちゃったんだけどさ……」
退職する前、渡部さんはやけに羽振りが良かったらしい。
普段はあまり高価な物を身につけたり派手に遊んだりはしなかったのに、突然高価なブランド物を身につけるようになり、連日のように同僚と飲みに行ったりしていたそうだ。
ボーナス後でもないのに、あまりの羽振りの良さに仲の良い同僚も首をかしげたらしい。
ただそれまで節約してたくさん貯金していただけなのかも知れないが、急に人が変わったように散財する姿は誰が見ても妙だったと言う。
突然会社を辞めた理由は誰も知らないそうだ。
「鴫野にフラれたショックでやけになったのかもな」
「そんな事はないと思いますけど……。部署も違うし、会社を辞めるほどでもないでしょう」
「あー、でもなんかな、渡部が会社辞めて何日か経った頃に、広報部の子が渡部に会ったらしいんだけどさ。もう次の就職先は決まってるって言ったんだってさ」
「そうなんですか?」
ずいぶんフットワークが軽いんだな。
会社を辞めるよりずっと前から転職活動でもしていたんだろうか。
「それとな、渡部がすっげぇ車から身なりのいい男と出てくるのを見たって。それおまえか?」
「絶対に違いますね」
「俺はてっきりおまえと渡部が付き合ってるもんだとばかり思ってたからさ。そういうセレブなデートみたいなサービスでも利用したのかと思ってたんだけど」
「そんなキザな事はしませんよ。渡部さんとはデートもした事ないし……」
矢野さんは日本酒を飲みながら首をかしげた。
「渡部ってそんな奴だったかなぁ……。でもおまえじゃないなら、その金持ちの男に貢いでもらってたのかな」
「きっと地味な僕なんかより、金持ちのいい男がいたんでしょう」
渡部さんの事は別に好きじゃなかったから、男がいようがどうでもいい。
だけど美玖が他の男とホテルから出てきた現場を目撃した時の事が思い出されて、なんとなく後味が悪い。
他に男がいたのなら、あんなに必死に僕にすがったりする必要なんてなかったんじゃないのか?
渡部さんが僕の断りをすんなりと聞き入れて身を引いてくれていたら、僕はあんな酷いことをせずに済んだし、杏さんの顔も見られなくなるほどの罪悪感と後ろめたさを抱えることもなかったのに。
男ならきっと誰だって、たいして好きでなくてもかわいい女の子とセックスできたらラッキーだと思ったりするのかも知れない。
僕にだってそんな部分はあると思う。
最初のうちは涙を浮かべて僕にすがる顔が少しかわいく思えて、もっと泣かせてやりたくもなったし、ちょっといじめてやりたくもなった。
だけど一緒にいるうちに、僕を求める渡部さんの目が獲物を狙う女豹のように見えてきて、どんどん嫌悪感を抱くようになった。
そう、どこかで見た事のあるような、僕が嫌いなあの目付きだ。
僕は熱いお茶をすすりながら、昨日矢野さんから聞いた話を思い出した。
昨日の夜、僕と矢野さんはまた例の小料理屋で酒を飲みながら食事をしていた。
ある程度空腹が満たされた頃、矢野さんが「そういえば……」と声を潜めた。
「なぁ……渡部の事で変な話聞いちゃったんだけどさ……」
退職する前、渡部さんはやけに羽振りが良かったらしい。
普段はあまり高価な物を身につけたり派手に遊んだりはしなかったのに、突然高価なブランド物を身につけるようになり、連日のように同僚と飲みに行ったりしていたそうだ。
ボーナス後でもないのに、あまりの羽振りの良さに仲の良い同僚も首をかしげたらしい。
ただそれまで節約してたくさん貯金していただけなのかも知れないが、急に人が変わったように散財する姿は誰が見ても妙だったと言う。
突然会社を辞めた理由は誰も知らないそうだ。
「鴫野にフラれたショックでやけになったのかもな」
「そんな事はないと思いますけど……。部署も違うし、会社を辞めるほどでもないでしょう」
「あー、でもなんかな、渡部が会社辞めて何日か経った頃に、広報部の子が渡部に会ったらしいんだけどさ。もう次の就職先は決まってるって言ったんだってさ」
「そうなんですか?」
ずいぶんフットワークが軽いんだな。
会社を辞めるよりずっと前から転職活動でもしていたんだろうか。
「それとな、渡部がすっげぇ車から身なりのいい男と出てくるのを見たって。それおまえか?」
「絶対に違いますね」
「俺はてっきりおまえと渡部が付き合ってるもんだとばかり思ってたからさ。そういうセレブなデートみたいなサービスでも利用したのかと思ってたんだけど」
「そんなキザな事はしませんよ。渡部さんとはデートもした事ないし……」
矢野さんは日本酒を飲みながら首をかしげた。
「渡部ってそんな奴だったかなぁ……。でもおまえじゃないなら、その金持ちの男に貢いでもらってたのかな」
「きっと地味な僕なんかより、金持ちのいい男がいたんでしょう」
渡部さんの事は別に好きじゃなかったから、男がいようがどうでもいい。
だけど美玖が他の男とホテルから出てきた現場を目撃した時の事が思い出されて、なんとなく後味が悪い。
他に男がいたのなら、あんなに必死に僕にすがったりする必要なんてなかったんじゃないのか?
渡部さんが僕の断りをすんなりと聞き入れて身を引いてくれていたら、僕はあんな酷いことをせずに済んだし、杏さんの顔も見られなくなるほどの罪悪感と後ろめたさを抱えることもなかったのに。
男ならきっと誰だって、たいして好きでなくてもかわいい女の子とセックスできたらラッキーだと思ったりするのかも知れない。
僕にだってそんな部分はあると思う。
最初のうちは涙を浮かべて僕にすがる顔が少しかわいく思えて、もっと泣かせてやりたくもなったし、ちょっといじめてやりたくもなった。
だけど一緒にいるうちに、僕を求める渡部さんの目が獲物を狙う女豹のように見えてきて、どんどん嫌悪感を抱くようになった。
そう、どこかで見た事のあるような、僕が嫌いなあの目付きだ。
0
お気に入りに追加
111
あなたにおすすめの小説

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
偽装溺愛 ~社長秘書の誤算~
深冬 芽以
恋愛
あらすじ
俵理人《たわらりひと》34歳、職業は秘書室長兼社長秘書。
女は扱いやすく、身体の相性が良ければいい。
結婚なんて冗談じゃない。
そう思っていたのに。
勘違いストーカー女から逃げるように引っ越したマンションで理人が再会したのは、過去に激しく叱責された女。
年上で子持ちのデキる女なんて面倒くさいばかりなのに、つい関わらずにはいられない。
そして、互いの利害の一致のため、偽装恋人関係となる。
必要な時だけ恋人を演じればいい。
それだけのはずが……。
「偽装でも、恋人だろ?」
彼女の甘い香りに惹き寄せられて、抗えない――。
禁断溺愛
流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。


甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる