サディスティックなプリテンダー

櫻井音衣

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疑惑

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ばあちゃんの家にいる間は、僕が食事の用意や洗濯などの身の回りの世話をして、通院にも付き添い、今の僕にできる限りの事をした。
就職して家を出てからは仕事が忙しかったり彼女との時間を優先したりして、あまり頻繁には帰って来なかったから、この帰省で久しぶりにばあちゃんとゆっくり話した気がする。


帰省して3日目の昼下がり、部屋の掃除をしている時に古い写真を見つけた。
今よりずいぶん若いばあちゃんが、小さな女の子を膝に乗せて笑っている。
この子、誰だろう?
僕の会った事のない親戚の子とか、近所の子なのかな。
だけど僕にはその女の子の記憶がまったくない。

「ばあちゃん、この子誰?」
「ああ……昔勤めていた家のお嬢さんだよ。とても利口で上品で、かわいい子だったねぇ」
「ふーん……」

人を見る目には厳しいばあちゃんがベタ褒めするということは、相当出来のいい子だったんだろう。
ちょっと寂しげな目をしたその女の子は、誰かに似ているような気がした。


それからほんの少し怪我の具合も良くなったとは言え心配ではあったけど、日曜の夜遅くに帰宅した。
僕が帰ると珍しく杏さんが部屋から出てきた。

「親御さんの怪我の具合はもういいのか」

怪我をしたのがばあちゃんとは言わず、親が怪我をしたと僕が言ったから、杏さんはそんな言い方をした。

「おかげさまで……」
「そうか……」

会話は続かない。
だけど杏さんから話し掛けてくれたことや、一度も会ったことのないばあちゃんの心配をしてくれていたことが素直に嬉しかった。


翌日の朝、いつものように出社した僕に矢野さんは言った。

「渡部、会社辞めたよ」

僕が休んでいた先週の金曜日付けで、渡部さんは会社を辞めたそうだ。
僕のせいかも知れない。
渡部さん自身が望んだ事とは言え、僕のした事は渡部さんをひどく傷付けたんだと思う。
そう思うとまた、あんな事をするんじゃなかったと後悔の念にとらわれた。
美玖にフラれて傷付いたはずなのに、僕はこの手で、僕を好きだと言ってくれた渡部さんを傷付けた。
だけどどんなにごまかしても、僕はきっとこの先も渡部さんを好きにはなれなかったと思う。
渡部さんを抱きながら、なぜか僕の脳裏には杏さんの顔が浮かんでいた。
だから余計に後ろめたかった。


その日の昼休み。
試作室で弁当を食べていると、何やら社内の様子が騒がしくなった。
何を騒いでいるんだろう?
首をかしげながら鮭の塩焼きを食べていると、試作室に矢野さんが飛び込んできた。

「鴫野、大変だ!!」
「どうかしたんですか?」

矢野さんの慌てぶりが尋常じゃない。
一体何事だ?

「これ見てみろ!!」

矢野さんが一枚のチラシを取り出した。
それは高齢者向けの弁当や惣菜の宅配サービスをしている会社の新商品のチラシだった。

「おまえが作った新商品の弁当だよ!まるごと盗作だ!!」
「えっ……盗作……?」


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