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不条理な関係
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ベッドに寝かせてやると、渡部さんは腕を伸ばして僕の背中にしがみつくようにして抱きついた。
「渡部さん、離して」
「鴫野くん、行かないで」
「でももう遅いし……」
体から腕を引き剥がすようにしてなんとか離れようとしたけれど、渡部さんは涙をボロボロこぼして僕から離れようとしなかった。
「いや……帰らないで……。ここにいて……」
僕は渡部さんの背中を優しくトントン叩きながら、どうしたものかと考えていた。
だけどずっとこうしているわけにもいかない。
「ごめんね、もう帰るよ」
少し落ち着くのを見計らって手を離すと、渡部さんはすごい勢いで僕に飛びかかってきた。
不意をつかれた僕はベッドに押し倒され強引に唇を塞がれた。
「好き……。鴫野くんが好き……」
渡部さんはうわ言みたいにそう呟いて、こぼれ落ちる涙で僕の頬を濡らしながら何度も僕にキスをした。
僕のどこがそんなにいいんだろう?
僕よりずっといい男はいっぱいいるのに、渡部さんが僕に執着する意味がよくわからない。
「やっぱり私、鴫野くんが好き……。私から離れていかないで」
離れるも何も、元から付き合ってるわけでもないのにどうしろって言うんだ。
これ以上言葉を濁してうやむやにしても渡部さんをもっと傷付けるだけだから、何を言われても渡部さんと付き合う気はないとハッキリ言おう。
僕はそう決心して口を開く。
「でも僕は……」
「そばに居させて……お願い……」
僕の言葉を遮った渡部さんの懇願するようなせりふで、僕の心は一気に嫌悪感でいっぱいになる。
それはまた僕に性欲を満たす手伝いをしてくれって言いたいのか?
僕の気持ちも無視して?
そこに愛なんてないのに。
「あのさ……もう、こういうのやめにしない?」
「こういうのって……?」
僕は自分の体にかかった渡部さんの体の重みを押し退けて起き上がった。
「今更なんだけど、こういう事はさ……好きな人とするもんじゃないかと思うんだ」
「それって……私の事は好きじゃないって言いたいの?」
「渡部さんの事はちょっと仲のいい同僚以上に思った事はない」
渡部さんは悲愴感の溢れる顔でじっと僕を見つめ、唇を噛んでうつむいた。
また大粒の涙がこぼれ落ちて、膝の上で握りしめた渡部さんの手の甲を濡らす。
「他に好きな人がいるの……?」
なんで彼女でもない渡部さんにそんな事を答えなきゃいけないんだ。
少なくとも君の事は好きじゃないよ、ってハッキリ言ったらあきらめてくれるだろうか。
そんなことを考えているうちにどんどん酔いが回って、なぜ僕は自分の正直な気持ちを抑えてまで、こんなにも渡部さんを傷付けないようにしようとしていたのかという思いが強くなる。
まったく傷付けないなんて最初から無理な話だ。
この際だから未練のひとかけらも残らないくらいに僕の本音を洗いざらい吐き出して、この不条理な関係を綺麗サッパリ終わらせよう。
「僕は渡部さんの彼氏じゃないよ。今後も僕は渡部さんと付き合う気はないし、そんな事を答える必要ある?」
「ひどい……」
ひどいのはどっちだよ。
僕は最初から付き合う気はないって言っていたじゃないか。
それなのに一方的に気持ちを押し付けるだけ押し付けて、勝手に彼女気取りで僕の体を求めてきたのは渡部さんの方だ。
「渡部さん、離して」
「鴫野くん、行かないで」
「でももう遅いし……」
体から腕を引き剥がすようにしてなんとか離れようとしたけれど、渡部さんは涙をボロボロこぼして僕から離れようとしなかった。
「いや……帰らないで……。ここにいて……」
僕は渡部さんの背中を優しくトントン叩きながら、どうしたものかと考えていた。
だけどずっとこうしているわけにもいかない。
「ごめんね、もう帰るよ」
少し落ち着くのを見計らって手を離すと、渡部さんはすごい勢いで僕に飛びかかってきた。
不意をつかれた僕はベッドに押し倒され強引に唇を塞がれた。
「好き……。鴫野くんが好き……」
渡部さんはうわ言みたいにそう呟いて、こぼれ落ちる涙で僕の頬を濡らしながら何度も僕にキスをした。
僕のどこがそんなにいいんだろう?
僕よりずっといい男はいっぱいいるのに、渡部さんが僕に執着する意味がよくわからない。
「やっぱり私、鴫野くんが好き……。私から離れていかないで」
離れるも何も、元から付き合ってるわけでもないのにどうしろって言うんだ。
これ以上言葉を濁してうやむやにしても渡部さんをもっと傷付けるだけだから、何を言われても渡部さんと付き合う気はないとハッキリ言おう。
僕はそう決心して口を開く。
「でも僕は……」
「そばに居させて……お願い……」
僕の言葉を遮った渡部さんの懇願するようなせりふで、僕の心は一気に嫌悪感でいっぱいになる。
それはまた僕に性欲を満たす手伝いをしてくれって言いたいのか?
僕の気持ちも無視して?
そこに愛なんてないのに。
「あのさ……もう、こういうのやめにしない?」
「こういうのって……?」
僕は自分の体にかかった渡部さんの体の重みを押し退けて起き上がった。
「今更なんだけど、こういう事はさ……好きな人とするもんじゃないかと思うんだ」
「それって……私の事は好きじゃないって言いたいの?」
「渡部さんの事はちょっと仲のいい同僚以上に思った事はない」
渡部さんは悲愴感の溢れる顔でじっと僕を見つめ、唇を噛んでうつむいた。
また大粒の涙がこぼれ落ちて、膝の上で握りしめた渡部さんの手の甲を濡らす。
「他に好きな人がいるの……?」
なんで彼女でもない渡部さんにそんな事を答えなきゃいけないんだ。
少なくとも君の事は好きじゃないよ、ってハッキリ言ったらあきらめてくれるだろうか。
そんなことを考えているうちにどんどん酔いが回って、なぜ僕は自分の正直な気持ちを抑えてまで、こんなにも渡部さんを傷付けないようにしようとしていたのかという思いが強くなる。
まったく傷付けないなんて最初から無理な話だ。
この際だから未練のひとかけらも残らないくらいに僕の本音を洗いざらい吐き出して、この不条理な関係を綺麗サッパリ終わらせよう。
「僕は渡部さんの彼氏じゃないよ。今後も僕は渡部さんと付き合う気はないし、そんな事を答える必要ある?」
「ひどい……」
ひどいのはどっちだよ。
僕は最初から付き合う気はないって言っていたじゃないか。
それなのに一方的に気持ちを押し付けるだけ押し付けて、勝手に彼女気取りで僕の体を求めてきたのは渡部さんの方だ。
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