54 / 95
本気を見せろと言われても
6
しおりを挟む
「……おい、いつまでこうしているつもりだ」
勝利の余韻に浸っている僕の腕の中で、杏さんが低く呟いた。
いつものように強気な態度でそう言ってはいるけど、まだ顔が赤い。
ギャップ萌えというかツンデレっぽいというか、最近は杏さんのそんなところがかわいいと思う。
もう少し見ていたいから、ちょっとからかってやろう。
僕は調子に乗って、杏さんを更に強く抱き寄せてみた。
「杏さんがお望みならいつまででも」
「調子に乗るな、早く下ろせ!」
杏さんは足をバタバタさせて抵抗した。
恥ずかしがってるくせに、いつも通り振る舞おうとする偉そうな態度がかわいい。
もっとからかってみようか。
「なんならベッドに下ろして、子作りの練習でもしてみますか?」
「ばっ……バカッ!!」
杏さんの平手が容赦なく僕の頬に飛んできた。
その衝撃の強さに目の前がチカチカする。
「……冗談ですよ」
僕は杏さんをソファーの上に下ろして、ジンジンと痛む頬をさすった。
やっぱりダメか。
もちろん本気で言ったわけじゃないけど。
「それにしても……なんだかすごい事言ってましたね」
「ああ……そうだな。お祖父様はきっと最初から、私が鴫野と付き合っていると言うのは嘘だと見抜いていたんだろう」
「そうなんですか?」
「嘘だとわかっているから、本気でなければできないような事を言ってきたんだ。そうとしか思えない」
杏さんは腕組みをしてため息をついた。
結婚前に子供ができたらほとんどの場合はその相手と結婚するけれど、お互いに結婚の意思がなければ女性の方が一人で産んで育てるか、子供を産まないという選択をする事になる。
杏さんはイチキの御曹司との縁談をなんとしても断りたかっただけで、僕との子供どころか結婚自体を望んでいない。
杏さん以外の女性だって偽物の婚約者との間に子供を作ろうなんて普通は思わないから、お祖父様はあんな無茶な条件を出したんだろう。
結局お祖父様は最初から自分が決めた男以外との結婚なんて、許す気はなかったということだ。
「それで……杏さんはどうするつもりなんですか」
「そうだな……。さすがに鴫野にこれ以上の物を背負わせるわけにはいかない……。少し考えさせてくれ」
杏さんはゆっくりと立ち上がって、自分の部屋へ戻った。
考えると言ったって、杏さんが僕とホントに結婚なんてするわけないし、結局はお祖父様が選んだ婚約者のイチキの御曹司と結婚する事になるんだろう。
でもそれで杏さんは幸せになれるのか?
できれば杏さんが幸せになれる選択肢が見つかればいいと心から思う。
僕がイチキコーポレーションに負けないくらいの大企業の御曹司なら……なんて、有り得ない事を考えても仕方がない。
だけどもし僕が御曹司だったら、料理なんかしていないだろうな。
料理のできない僕なんか、杏さんに必要とされるところがひとつもないじゃないか。
仕方なく始まったはずの杏さんとの生活に終わりが近付いて来るのを感じて、なぜか僕の胸はギュッと握り潰されるような痛みを感じた。
この胸の痛みはなんだろう?
勝利の余韻に浸っている僕の腕の中で、杏さんが低く呟いた。
いつものように強気な態度でそう言ってはいるけど、まだ顔が赤い。
ギャップ萌えというかツンデレっぽいというか、最近は杏さんのそんなところがかわいいと思う。
もう少し見ていたいから、ちょっとからかってやろう。
僕は調子に乗って、杏さんを更に強く抱き寄せてみた。
「杏さんがお望みならいつまででも」
「調子に乗るな、早く下ろせ!」
杏さんは足をバタバタさせて抵抗した。
恥ずかしがってるくせに、いつも通り振る舞おうとする偉そうな態度がかわいい。
もっとからかってみようか。
「なんならベッドに下ろして、子作りの練習でもしてみますか?」
「ばっ……バカッ!!」
杏さんの平手が容赦なく僕の頬に飛んできた。
その衝撃の強さに目の前がチカチカする。
「……冗談ですよ」
僕は杏さんをソファーの上に下ろして、ジンジンと痛む頬をさすった。
やっぱりダメか。
もちろん本気で言ったわけじゃないけど。
「それにしても……なんだかすごい事言ってましたね」
「ああ……そうだな。お祖父様はきっと最初から、私が鴫野と付き合っていると言うのは嘘だと見抜いていたんだろう」
「そうなんですか?」
「嘘だとわかっているから、本気でなければできないような事を言ってきたんだ。そうとしか思えない」
杏さんは腕組みをしてため息をついた。
結婚前に子供ができたらほとんどの場合はその相手と結婚するけれど、お互いに結婚の意思がなければ女性の方が一人で産んで育てるか、子供を産まないという選択をする事になる。
杏さんはイチキの御曹司との縁談をなんとしても断りたかっただけで、僕との子供どころか結婚自体を望んでいない。
杏さん以外の女性だって偽物の婚約者との間に子供を作ろうなんて普通は思わないから、お祖父様はあんな無茶な条件を出したんだろう。
結局お祖父様は最初から自分が決めた男以外との結婚なんて、許す気はなかったということだ。
「それで……杏さんはどうするつもりなんですか」
「そうだな……。さすがに鴫野にこれ以上の物を背負わせるわけにはいかない……。少し考えさせてくれ」
杏さんはゆっくりと立ち上がって、自分の部屋へ戻った。
考えると言ったって、杏さんが僕とホントに結婚なんてするわけないし、結局はお祖父様が選んだ婚約者のイチキの御曹司と結婚する事になるんだろう。
でもそれで杏さんは幸せになれるのか?
できれば杏さんが幸せになれる選択肢が見つかればいいと心から思う。
僕がイチキコーポレーションに負けないくらいの大企業の御曹司なら……なんて、有り得ない事を考えても仕方がない。
だけどもし僕が御曹司だったら、料理なんかしていないだろうな。
料理のできない僕なんか、杏さんに必要とされるところがひとつもないじゃないか。
仕方なく始まったはずの杏さんとの生活に終わりが近付いて来るのを感じて、なぜか僕の胸はギュッと握り潰されるような痛みを感じた。
この胸の痛みはなんだろう?
0
お気に入りに追加
111
あなたにおすすめの小説
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
最後の恋って、なに?~Happy wedding?~
氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた―――
ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。
それは同棲の話が出ていた矢先だった。
凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。
ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。
実は彼、厄介な事に大の女嫌いで――
元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる