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初めてのデート
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「話が逸れてしまったが、狙いは私たちが仲の良い婚約者であるとアピールすることだ。だから人目につかない家の中ではまったくもって意味がない」
「アピール……ですか?」
「言っただろう?私たちの粗を探そうと、どこで密偵に見張られているかわからないと。だったらそれを逆手に取るんだ」
なるほど、それで突然デートしようなんて柄にもないこと言い出したんだな。
もしかしたら杏さんも恋愛に興味を持ち始めたのかとほんの少し思ったんだけど、杏さんに限ってそんなことはないか。
「だったら……お芝居だってことも忘れるくらいに思いきり楽しめる場所がいいですね。遊園地にでも行ってみますか?」
「遊園地には行った事がないんだが……。行き先は鴫野に任せる」
「それじゃあ遊園地にしましょう。お弁当作りますね」
こうして僕と杏さんの初デートの場所は遊園地に決まった。
そして僕は杏さんにいくつかの条件を出した。
恋人同士のデートなのだから、もちろん敬語は無し。
お互いを名前で呼んで、手を繋いで歩く。
思いきり楽しむ。
これが僕の提示したデートの条件だ。
杏さんは戸惑っていたようだけど、自分の言い出した事だから仕方がないと思ったのか、渋々それを承諾した。
そして恋人ごっこをしている今に至る。
遊園地に着くと杏さんは初めての遊園地に興味津々で、グルグル回る乗り物や凄い速さで走るジェットコースターを目をキラキラさせて眺めていた。
その姿はまるで、初めて遊園地に来た幼い子供のようだった。
幼い頃からお祖父様に厳しくしつけられたと言っていたし、普通の家庭の子供のように家族で遊びに行った事がないんだろう。
そういう僕も、小さい頃に両親が離婚してばあちゃんに育てられ、家族で遊園地に来た記憶はない。
記憶に残る初めての遊園地は、近所の友達の家族と一緒だった。
大きくなると友達や彼女と一緒に遊園地や水族館なんかに行ったりはしたけれど、家族とは一緒に遊びに行ったことが一度もない。
それどころか写真以外の両親を知らずに育った僕の遠い記憶に微かに残っているのは、母親が出ていくときに残した『いい子にしていてね』という言葉と、その時母親がつけていた赤い口紅の色だけだ。
いくつかの乗り物に乗った後、ベンチに座って売店で買ったジュースを飲んだ。
杏さんは初めてジェットコースターに乗った余韻で少し興奮しているのか、いつもより幼く見える。
「杏は高い場所とか速い乗り物とか平気なんだね」
「うん、面白い」
「次は何に乗りたい?」
「あれ」
杏さんは空中ブランコを指差した。
期待に目を輝かせる姿は幼い子供みたいで、思わず頭を撫でたくなるほどかわいい。
「じゃあ、ひと休みしたら乗ってみようか」
「うん!」
杏さんが嬉しそうに笑った。
こんな無防備で無邪気な笑顔を見たのは初めてだ。
ついこの間までは杏さんのことを『自分自身のことには関心がないのに仕事には厳しく、クールで人間味の薄い変わった上司』だと思っていたのに、ふとした拍子に『かわいい』と思うことが増えた。
意外な素顔がひとつ見えるたびに、僕の中の杏さんのイメージがどんどん変わっていく。
「アピール……ですか?」
「言っただろう?私たちの粗を探そうと、どこで密偵に見張られているかわからないと。だったらそれを逆手に取るんだ」
なるほど、それで突然デートしようなんて柄にもないこと言い出したんだな。
もしかしたら杏さんも恋愛に興味を持ち始めたのかとほんの少し思ったんだけど、杏さんに限ってそんなことはないか。
「だったら……お芝居だってことも忘れるくらいに思いきり楽しめる場所がいいですね。遊園地にでも行ってみますか?」
「遊園地には行った事がないんだが……。行き先は鴫野に任せる」
「それじゃあ遊園地にしましょう。お弁当作りますね」
こうして僕と杏さんの初デートの場所は遊園地に決まった。
そして僕は杏さんにいくつかの条件を出した。
恋人同士のデートなのだから、もちろん敬語は無し。
お互いを名前で呼んで、手を繋いで歩く。
思いきり楽しむ。
これが僕の提示したデートの条件だ。
杏さんは戸惑っていたようだけど、自分の言い出した事だから仕方がないと思ったのか、渋々それを承諾した。
そして恋人ごっこをしている今に至る。
遊園地に着くと杏さんは初めての遊園地に興味津々で、グルグル回る乗り物や凄い速さで走るジェットコースターを目をキラキラさせて眺めていた。
その姿はまるで、初めて遊園地に来た幼い子供のようだった。
幼い頃からお祖父様に厳しくしつけられたと言っていたし、普通の家庭の子供のように家族で遊びに行った事がないんだろう。
そういう僕も、小さい頃に両親が離婚してばあちゃんに育てられ、家族で遊園地に来た記憶はない。
記憶に残る初めての遊園地は、近所の友達の家族と一緒だった。
大きくなると友達や彼女と一緒に遊園地や水族館なんかに行ったりはしたけれど、家族とは一緒に遊びに行ったことが一度もない。
それどころか写真以外の両親を知らずに育った僕の遠い記憶に微かに残っているのは、母親が出ていくときに残した『いい子にしていてね』という言葉と、その時母親がつけていた赤い口紅の色だけだ。
いくつかの乗り物に乗った後、ベンチに座って売店で買ったジュースを飲んだ。
杏さんは初めてジェットコースターに乗った余韻で少し興奮しているのか、いつもより幼く見える。
「杏は高い場所とか速い乗り物とか平気なんだね」
「うん、面白い」
「次は何に乗りたい?」
「あれ」
杏さんは空中ブランコを指差した。
期待に目を輝かせる姿は幼い子供みたいで、思わず頭を撫でたくなるほどかわいい。
「じゃあ、ひと休みしたら乗ってみようか」
「うん!」
杏さんが嬉しそうに笑った。
こんな無防備で無邪気な笑顔を見たのは初めてだ。
ついこの間までは杏さんのことを『自分自身のことには関心がないのに仕事には厳しく、クールで人間味の薄い変わった上司』だと思っていたのに、ふとした拍子に『かわいい』と思うことが増えた。
意外な素顔がひとつ見えるたびに、僕の中の杏さんのイメージがどんどん変わっていく。
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