42 / 95
初めてのデート
1
しおりを挟む
よく晴れた土曜日、僕と杏さんは家族連れや若いカップルで賑わう遊園地にやって来た。
杏さんは僕の隣で、珍しそうにキョロキョロ辺りを見回している。
「あれは?」
「ジェットコースター。乗ってみる?」
杏さんは素直にうなずいた。
「よし、じゃあ行こう」
僕は杏さんの手を握って、ジェットコースターの乗り場を目指す。
杏さんは少し恥ずかしそうに僕の手を握り返した。
なぜ僕と杏さんが遊園地でカップルの真似みたいな事をしているのか。
それは昨日の夜に少し遅めの夕飯が済んでゆっくりお茶を飲んでいる時に杏さんの放った一言から始まった。
「鴫野、明日は出掛けよう」
杏さんはなんの前触れもなくそう言った。
一瞬聞き間違いかと思ったけれど、いくら僕がばあやっぽいとは言え、耳はまだ衰えていない。
だけど僕には杏さんの意図がまったくわからず、湯飲みを手に首をかしげた。
「出掛けるって……どこにですか?」
「知らん。恋人同士というのは、デートというものをするんだろう?」
なんだ、デートのことか。
そんな回りくどい言い方をしなくても、「明日デートしよう」って普通に言えばいいのに。
「確かにそうですね。休みの日とか仕事の後とか、二人で出掛けたり食事したりします」
「どこに行けばいい?」
杏さんは恋愛経験がないから、きっとデートもした事がないんだろう。
慣れない話をしている自覚はあるようで、杏さんは少しソワソワしている。
他の女の子とは違ってハッキリと顔には出さないから少しわかりにくいけど、どうやら照れているらしい。
一緒に暮らし始めてから、僕は杏さんの表情の微かな変化を感じ取れるようになってきた。
美味しいとか嬉しいとか恥ずかしいとか、会社では見ることのない杏さんの素顔は新鮮で、ちょっとかわいい。
「杏さんの行きたい所でいいですよ。どこがいいですか?」
「……特にない」
僕と暮らし始めるまでの杏さんはどんな休日を過ごしていたんだろう?
彼氏もいないし親しい友人がいる様子もない。
こんな広い部屋にひとりぼっちで何を思っていたのか。
以前は考えもしなかったそんなことが、最近はやけに気になる。
「デートの定番と言えば、遊園地とか水族館とか動物園とか……そうだ、ショッピングなんかどうです?」
「人の多い場所は苦手だ」
オイオイ……そんな身も蓋もないことを言うなよ。
だったらどこに行けばいいんだ?
僕はお茶を飲みながら、しばし考える。
人混みを完璧に避けるデートなんてあるもんかと思ったけれど、よく考えたらひとつだけあるじゃないか。
しかもお金もかからず二人きりでのんびり過ごせて、最も庶民的なデートだと言える。
世間の多くのカップルが休みのたびに出掛けているわけじゃないということも、知識のひとつとして杏さんに教えてあげた方がいいだろう。
「苦手な人混みを完璧に避けられる『おうちデート』なんて言うのもありますよ。だけど僕と杏さんは一緒に住んでますから、それじゃあデートになりませんね」
杏さんの反応を見るためにわざとらしくそう言うと、杏さんは怪訝な顔をして何かを考えるそぶりを見せた。
杏さんは僕の隣で、珍しそうにキョロキョロ辺りを見回している。
「あれは?」
「ジェットコースター。乗ってみる?」
杏さんは素直にうなずいた。
「よし、じゃあ行こう」
僕は杏さんの手を握って、ジェットコースターの乗り場を目指す。
杏さんは少し恥ずかしそうに僕の手を握り返した。
なぜ僕と杏さんが遊園地でカップルの真似みたいな事をしているのか。
それは昨日の夜に少し遅めの夕飯が済んでゆっくりお茶を飲んでいる時に杏さんの放った一言から始まった。
「鴫野、明日は出掛けよう」
杏さんはなんの前触れもなくそう言った。
一瞬聞き間違いかと思ったけれど、いくら僕がばあやっぽいとは言え、耳はまだ衰えていない。
だけど僕には杏さんの意図がまったくわからず、湯飲みを手に首をかしげた。
「出掛けるって……どこにですか?」
「知らん。恋人同士というのは、デートというものをするんだろう?」
なんだ、デートのことか。
そんな回りくどい言い方をしなくても、「明日デートしよう」って普通に言えばいいのに。
「確かにそうですね。休みの日とか仕事の後とか、二人で出掛けたり食事したりします」
「どこに行けばいい?」
杏さんは恋愛経験がないから、きっとデートもした事がないんだろう。
慣れない話をしている自覚はあるようで、杏さんは少しソワソワしている。
他の女の子とは違ってハッキリと顔には出さないから少しわかりにくいけど、どうやら照れているらしい。
一緒に暮らし始めてから、僕は杏さんの表情の微かな変化を感じ取れるようになってきた。
美味しいとか嬉しいとか恥ずかしいとか、会社では見ることのない杏さんの素顔は新鮮で、ちょっとかわいい。
「杏さんの行きたい所でいいですよ。どこがいいですか?」
「……特にない」
僕と暮らし始めるまでの杏さんはどんな休日を過ごしていたんだろう?
彼氏もいないし親しい友人がいる様子もない。
こんな広い部屋にひとりぼっちで何を思っていたのか。
以前は考えもしなかったそんなことが、最近はやけに気になる。
「デートの定番と言えば、遊園地とか水族館とか動物園とか……そうだ、ショッピングなんかどうです?」
「人の多い場所は苦手だ」
オイオイ……そんな身も蓋もないことを言うなよ。
だったらどこに行けばいいんだ?
僕はお茶を飲みながら、しばし考える。
人混みを完璧に避けるデートなんてあるもんかと思ったけれど、よく考えたらひとつだけあるじゃないか。
しかもお金もかからず二人きりでのんびり過ごせて、最も庶民的なデートだと言える。
世間の多くのカップルが休みのたびに出掛けているわけじゃないということも、知識のひとつとして杏さんに教えてあげた方がいいだろう。
「苦手な人混みを完璧に避けられる『おうちデート』なんて言うのもありますよ。だけど僕と杏さんは一緒に住んでますから、それじゃあデートになりませんね」
杏さんの反応を見るためにわざとらしくそう言うと、杏さんは怪訝な顔をして何かを考えるそぶりを見せた。
0
お気に入りに追加
111
あなたにおすすめの小説
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
最後の恋って、なに?~Happy wedding?~
氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた―――
ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。
それは同棲の話が出ていた矢先だった。
凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。
ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。
実は彼、厄介な事に大の女嫌いで――
元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる