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トラウマと禊
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それから少し話した後、もう時間も遅いので話はまた明日という事になり、僕は杏さんが呼んでくれたタクシーで自宅に戻った。
なんだかえらい事になってしまった。
明日僕が会社で仕事をしているうちに、引っ越し業者が僕の荷物をまるごと杏さんの家に運ぶらしい。
さすが大企業のご令嬢だ。
夜中だろうが電話1本で翌日の引っ越しの依頼を引き受けさせてしまった。
見られて困る物は処分しておけと杏さんに言われたけど、見られて困る物なんてあったかな?
ネクタイをはずしながら引き出しを開けて確認すると、美玖と一緒に撮った写真が何枚か出てきた。
ああ……なるほど、こういう事か。
今更こんなものを持っていても仕方ないし、コンロで燃やしてしまおう。
ガスコンロの炎に近付けて写真に火をつけシンクの中に投げ込むと、端の方から少しずつ燃え落ちて黒い灰だけが残った。
デジカメやスマホのデータを開いても、2年も付き合っていた割にその数は少ない気がする。
美玖は写真写りが悪いからと言ってあまり写真を撮りたがらなかったし、今思えば僕との思い出なんて、美玖には必要なかったんだろう。
美玖と撮った画像のデータを選択して、削除ボタンを押す。
『削除しました』の一文で、美玖との思い出は跡形もなく消えた。
呆気ないもんだな。
付き合っていた2年分の思い出を処分するのにかかった時間はほんの数分だ。
誕生日とか記念日にもらったプレゼントはどうしたっけ。
……そもそも、プレゼントなんてもらったか?
ああ、そうか。
美玖からのプレゼントはいつも形に残るような物ではなくて、使ったり食べたりしてなくなるものばかりだった。
自分はブランドのバッグやアクセサリーをねだってたくせに、今思えば僕は随分安くあげられてたんだな。
今更ながら美玖に愛されていなかった事に改めて気付く。
次に出会う恋人にはちゃんと心から愛されたいし、もちろん僕も目一杯愛したい。
そう思っていたけれど、当分そんな出会いもなさそうだ。
だって僕は明日から杏さんの婚約者として一緒に暮らすんだから。
……偽者だけど。
帰り際、杏さんは言った。
密偵に見られると困るから、婚約者として一緒に暮らしている間は、外で他の女と会うのは控えろと。
それはつまり、この件から解放されるまでは新しい恋人なんか作るなって事だ。
一体どれくらいの期間に及ぶのか見当もつかない。
残しておいて怪しまれないように、僕の部屋は引き払う事になった。
この件が終わったら新しい部屋を用意してやると杏さんは言っていた。
初めて一人暮らしをしたこの部屋、それなりに気に入ってたんだけどな。
でも何度もこの部屋で一緒に過ごした美玖との思い出を吹っ切るには、いい機会なのかも知れない。
目に見える思い出を跡形もなく消してしまえば、心に残った思い出もいつかは綺麗に消えてなくなるだろう。
なんだかえらい事になってしまった。
明日僕が会社で仕事をしているうちに、引っ越し業者が僕の荷物をまるごと杏さんの家に運ぶらしい。
さすが大企業のご令嬢だ。
夜中だろうが電話1本で翌日の引っ越しの依頼を引き受けさせてしまった。
見られて困る物は処分しておけと杏さんに言われたけど、見られて困る物なんてあったかな?
ネクタイをはずしながら引き出しを開けて確認すると、美玖と一緒に撮った写真が何枚か出てきた。
ああ……なるほど、こういう事か。
今更こんなものを持っていても仕方ないし、コンロで燃やしてしまおう。
ガスコンロの炎に近付けて写真に火をつけシンクの中に投げ込むと、端の方から少しずつ燃え落ちて黒い灰だけが残った。
デジカメやスマホのデータを開いても、2年も付き合っていた割にその数は少ない気がする。
美玖は写真写りが悪いからと言ってあまり写真を撮りたがらなかったし、今思えば僕との思い出なんて、美玖には必要なかったんだろう。
美玖と撮った画像のデータを選択して、削除ボタンを押す。
『削除しました』の一文で、美玖との思い出は跡形もなく消えた。
呆気ないもんだな。
付き合っていた2年分の思い出を処分するのにかかった時間はほんの数分だ。
誕生日とか記念日にもらったプレゼントはどうしたっけ。
……そもそも、プレゼントなんてもらったか?
ああ、そうか。
美玖からのプレゼントはいつも形に残るような物ではなくて、使ったり食べたりしてなくなるものばかりだった。
自分はブランドのバッグやアクセサリーをねだってたくせに、今思えば僕は随分安くあげられてたんだな。
今更ながら美玖に愛されていなかった事に改めて気付く。
次に出会う恋人にはちゃんと心から愛されたいし、もちろん僕も目一杯愛したい。
そう思っていたけれど、当分そんな出会いもなさそうだ。
だって僕は明日から杏さんの婚約者として一緒に暮らすんだから。
……偽者だけど。
帰り際、杏さんは言った。
密偵に見られると困るから、婚約者として一緒に暮らしている間は、外で他の女と会うのは控えろと。
それはつまり、この件から解放されるまでは新しい恋人なんか作るなって事だ。
一体どれくらいの期間に及ぶのか見当もつかない。
残しておいて怪しまれないように、僕の部屋は引き払う事になった。
この件が終わったら新しい部屋を用意してやると杏さんは言っていた。
初めて一人暮らしをしたこの部屋、それなりに気に入ってたんだけどな。
でも何度もこの部屋で一緒に過ごした美玖との思い出を吹っ切るには、いい機会なのかも知れない。
目に見える思い出を跡形もなく消してしまえば、心に残った思い出もいつかは綺麗に消えてなくなるだろう。
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