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謝罪と償い
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「僕……杏さんにひどい事しましたよね?」
「……そうだな」
「酔っていたとは言え、僕のした事は人として許される事じゃないです。本当に申し訳ありませんでした」
額を床に擦り付けながら謝ると、杏さんはため息をついた。
「鴫野、何をしたか覚えてるのか?」
「いえ……失礼ですけど、ハッキリとは覚えてません。でもこれ……杏さんのですよね?僕のベッドに落ちてたんです」
ボタンを差し出すと、杏さんはそれを指でつまみ上げて、手の中にギュッと握りしめた。
「覚えていないか……。あれだけ酔っていればな……」
「本当にすみません。できればお詫びというか、どんな方法でもいいので償わせていただきたいんですが……」
「償いね……。それは鴫野が……」
そこまで言って杏さんは口ごもり、ゆっくりと立ち上がった。
「顔洗ってくる」
「ハイ……。あ、今日も弁当作ってきましたから!」
僕がそう言うと、杏さんは何も言わずに軽く右手を挙げた。
オフィスを出ていく杏さんの後ろ姿を眺めながら、僕は小さく息をついた。
杏さんは一体何を言おうとしたんだろう?
午前中の試作班でのミーティングを終える頃にちょうど昼休みになり、僕は試作室で杏さんを待った。
杏さんと二人きりで面と向かって食事をするのだと思うと緊張する。
それなのにこんな時でも食事だけは欠かさない。
人間って、案外強いんだな。
温かいお茶を淹れていると杏さんがやって来た。
午前中の部長会議のせいか、杏さんは少しお疲れの様子だ。
部長会議のせい……かな?
僕との事が原因なんて事は……。
いやいや、仕事人間の杏さんに限ってそれはないだろう。
夢の中でまで仕事しているような人なんだから。
「お疲れ様です」
「ああ、お疲れ。待たせたな」
湯飲みを差し出すと、杏さんは熱いお茶をゆっくりと口に含んだ。
バッグから弁当とスープポットを取り出して杏さんの前に置くと、杏さんは今日も静かに手を合わせ、小さく「いただきます」と呟いて、弁当に箸をつける。
そう言えばここ何日か、杏さんがカロリーバーをかじっている姿を見ていない。
デスクの横には注文したカロリーバーが段ボール箱ごと常備されているのに。
僕は弁当を食べる杏さんの表情をそっと窺いながら味噌汁をすすった。
「今日の弁当はお口に合いますか」
「うん……今日も美味しい」
「それは良かったです」
杏さんは時おり箸でつまんだおかずをじっくり眺めたり、匂いを嗅いだりしながら、黙々と弁当を食べ進める。
ちょっと変わってはいるけれど、僕の作った料理に興味を持ってくれているのかも知れない。
昼休みが始まって30分ほど経った頃、杏さんのスマホが鳴った。
杏さんは口に入れた山芋の落とし揚げをモグモグと噛み締めながらスーツのポケットの中からスマホを取り出し、画面に映る着信表示を見た途端に不機嫌そうに深く眉間にシワを寄せて、口の中のものをゴクンと飲み込んだ。
「食事中に悪いな」
「いえ……どうぞ」
杏さんは立ち上がり、試作室の隅の方へ歩いて行って電話に出た。
何やらボソボソと小声で話しているところを見ると、どうやら仕事の電話ではなさそうだ。
「ですから……その件はお断りしたはずです」
盗み聞きしているわけではないけれど、語気を強めた杏さんの言葉がところどころ耳に入る。
「ええっ?今日ですか?待ってください。急にそんな事を言われても……」
何やら杏さんが慌てている。
僕はなんとなく聞き耳をたてながら、知らんふりして豚のしょうが焼きを口に運んだ。
「……そうだな」
「酔っていたとは言え、僕のした事は人として許される事じゃないです。本当に申し訳ありませんでした」
額を床に擦り付けながら謝ると、杏さんはため息をついた。
「鴫野、何をしたか覚えてるのか?」
「いえ……失礼ですけど、ハッキリとは覚えてません。でもこれ……杏さんのですよね?僕のベッドに落ちてたんです」
ボタンを差し出すと、杏さんはそれを指でつまみ上げて、手の中にギュッと握りしめた。
「覚えていないか……。あれだけ酔っていればな……」
「本当にすみません。できればお詫びというか、どんな方法でもいいので償わせていただきたいんですが……」
「償いね……。それは鴫野が……」
そこまで言って杏さんは口ごもり、ゆっくりと立ち上がった。
「顔洗ってくる」
「ハイ……。あ、今日も弁当作ってきましたから!」
僕がそう言うと、杏さんは何も言わずに軽く右手を挙げた。
オフィスを出ていく杏さんの後ろ姿を眺めながら、僕は小さく息をついた。
杏さんは一体何を言おうとしたんだろう?
午前中の試作班でのミーティングを終える頃にちょうど昼休みになり、僕は試作室で杏さんを待った。
杏さんと二人きりで面と向かって食事をするのだと思うと緊張する。
それなのにこんな時でも食事だけは欠かさない。
人間って、案外強いんだな。
温かいお茶を淹れていると杏さんがやって来た。
午前中の部長会議のせいか、杏さんは少しお疲れの様子だ。
部長会議のせい……かな?
僕との事が原因なんて事は……。
いやいや、仕事人間の杏さんに限ってそれはないだろう。
夢の中でまで仕事しているような人なんだから。
「お疲れ様です」
「ああ、お疲れ。待たせたな」
湯飲みを差し出すと、杏さんは熱いお茶をゆっくりと口に含んだ。
バッグから弁当とスープポットを取り出して杏さんの前に置くと、杏さんは今日も静かに手を合わせ、小さく「いただきます」と呟いて、弁当に箸をつける。
そう言えばここ何日か、杏さんがカロリーバーをかじっている姿を見ていない。
デスクの横には注文したカロリーバーが段ボール箱ごと常備されているのに。
僕は弁当を食べる杏さんの表情をそっと窺いながら味噌汁をすすった。
「今日の弁当はお口に合いますか」
「うん……今日も美味しい」
「それは良かったです」
杏さんは時おり箸でつまんだおかずをじっくり眺めたり、匂いを嗅いだりしながら、黙々と弁当を食べ進める。
ちょっと変わってはいるけれど、僕の作った料理に興味を持ってくれているのかも知れない。
昼休みが始まって30分ほど経った頃、杏さんのスマホが鳴った。
杏さんは口に入れた山芋の落とし揚げをモグモグと噛み締めながらスーツのポケットの中からスマホを取り出し、画面に映る着信表示を見た途端に不機嫌そうに深く眉間にシワを寄せて、口の中のものをゴクンと飲み込んだ。
「食事中に悪いな」
「いえ……どうぞ」
杏さんは立ち上がり、試作室の隅の方へ歩いて行って電話に出た。
何やらボソボソと小声で話しているところを見ると、どうやら仕事の電話ではなさそうだ。
「ですから……その件はお断りしたはずです」
盗み聞きしているわけではないけれど、語気を強めた杏さんの言葉がところどころ耳に入る。
「ええっ?今日ですか?待ってください。急にそんな事を言われても……」
何やら杏さんが慌てている。
僕はなんとなく聞き耳をたてながら、知らんふりして豚のしょうが焼きを口に運んだ。
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