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夢なのか現実なのか
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「弁当に味噌汁?」
「汁物はいろんな具材を入れやすいですからね。調理中に食材から出る栄養分も汁と一緒に摂れるし、一度にたくさんの栄養が摂れるんですよ。僕、毎朝作るんです」
「これを毎朝自分で作るのか!!」
「そうですよ。僕は一人暮らしで、作ってくれる人もいませんからね。温かいうちにどうぞ」
箸を渡すと、杏さんは素直に味噌汁を飲み、箸でつまんだ大根を口に入れてモグモグ口を動かしている。
なんだ、ちゃんと人間らしい食事もできるんじゃないか。
「おにぎりも味噌汁も、全部食べていいですよ」
僕がそう言うと、杏さんは箸を止めて僕の顔を見た。
「私が全部食べると、鴫野の昼食がなくなるだろう」
「僕は1階で何か買ってきますから大丈夫です」
「そうか……悪いな。昼食代は後で払うから」
「いえ、それはいいです。この間ご馳走になったので。ゆっくり召し上がってください」
杏さんはうなずいてまた味噌汁を飲み始めた。
あまり表情が変わらないけど、この間一緒に食事をした時より美味しそうに食べているように見えた。
僕の料理が気に入ったのかな?
……いや、単純にものすごくお腹がすいていただけなのかも。
弁当を買って試作室に戻ると、杏さんは相変わらずゆっくりとおにぎりを食べていた。
「お口に合いますか?」
「ああ……なんというか、懐かしい味がする」
「それは……地味って意味ですか?」
「いや、そうじゃない。本当に懐かしい味がするんだ」
田舎料理的な意味なのか……?
ばあちゃん直伝のおにぎりだから懐かしい味がするのかも知れない。
ペースはゆっくりだけど、箸を休める事なく食べている杏さんの様子を見ると、少し嬉しくなった。
昼休みが終わる少し前。
最初は食べるのを拒んでいた杏さんがおにぎりを二つ残して僕の作った弁当を食べ終えた。
少食の杏さんには量が多かったらしい。
杏さんは残業前に食べると言って残りのおにぎりを手に試作室を出る前に振り返り、美味しかったと言った。
普段無駄な事を言わない杏さんのその一言は、本当に美味しいと思ってくれたんだと思えて、素直に嬉しかった。
美玖に地味だと言われた僕の料理を、味に厳しい杏さんが誉めてくれた。
杏さんはいつもまともな食生活を送っていないようだけど、味の良し悪しを見極める舌は確かだ。
良家のお嬢様っていう噂だから、幼い頃から上質なものに触れていて、舌が肥えているんだろう。
だけどそのお嬢様がなぜ会社勤めをしていて、異常な食生活を送っているのか。
お嬢様育ちで料理ができなくても、今の時代お金さえ払えばなんでも食べられるのに。
あ、もしかしてあれか。
身の回りの世話をしてくれる人がいないと、一人ではなんにもできないとか?
実家は執事とかメイドとかのいるような豪邸だったりして。
あれ?じゃあそんなお嬢様が、なんでまた一人暮らしなんかしてるんだろ?
……一人暮らしだよな?
誰かと暮らしていたなら、その誰かが何かしら食べさせるはずだ。
杏さんは会社ではプライベートな事を一言も話さないから、私生活や交友関係がまったくわからない。
本当に謎多き人だ。
そういえば、恋愛はしたことがないって言ってたっけ。
そう思った瞬間、またあの変な夢を思い出した。
夢の中で僕は杏さんに、信じられないような事をしていたし、僕らしくもない事を言っていた。
杏さんを泣かせたいとか、怯える杏さんがかわいいとか、僕が教えてあげるとか……。
いくら夢の中とは言え、自分がそんなことを言ったのだと思うと本当に恥ずかしい。
美玖に言われた言葉に腹が立って、強気な杏さんにイライラをぶつけたかったんだろうか。
それとも僕の中に、僕も知らないあんな願望や欲望でもあるのかな?
いやいや……。
僕はサディストでも俺様でもないし、どちらかと言うと世話焼きなフェミニストで、普通に考えて現実ではあんなの有り得ない。
所詮、夢は夢って事だ。
「汁物はいろんな具材を入れやすいですからね。調理中に食材から出る栄養分も汁と一緒に摂れるし、一度にたくさんの栄養が摂れるんですよ。僕、毎朝作るんです」
「これを毎朝自分で作るのか!!」
「そうですよ。僕は一人暮らしで、作ってくれる人もいませんからね。温かいうちにどうぞ」
箸を渡すと、杏さんは素直に味噌汁を飲み、箸でつまんだ大根を口に入れてモグモグ口を動かしている。
なんだ、ちゃんと人間らしい食事もできるんじゃないか。
「おにぎりも味噌汁も、全部食べていいですよ」
僕がそう言うと、杏さんは箸を止めて僕の顔を見た。
「私が全部食べると、鴫野の昼食がなくなるだろう」
「僕は1階で何か買ってきますから大丈夫です」
「そうか……悪いな。昼食代は後で払うから」
「いえ、それはいいです。この間ご馳走になったので。ゆっくり召し上がってください」
杏さんはうなずいてまた味噌汁を飲み始めた。
あまり表情が変わらないけど、この間一緒に食事をした時より美味しそうに食べているように見えた。
僕の料理が気に入ったのかな?
……いや、単純にものすごくお腹がすいていただけなのかも。
弁当を買って試作室に戻ると、杏さんは相変わらずゆっくりとおにぎりを食べていた。
「お口に合いますか?」
「ああ……なんというか、懐かしい味がする」
「それは……地味って意味ですか?」
「いや、そうじゃない。本当に懐かしい味がするんだ」
田舎料理的な意味なのか……?
ばあちゃん直伝のおにぎりだから懐かしい味がするのかも知れない。
ペースはゆっくりだけど、箸を休める事なく食べている杏さんの様子を見ると、少し嬉しくなった。
昼休みが終わる少し前。
最初は食べるのを拒んでいた杏さんがおにぎりを二つ残して僕の作った弁当を食べ終えた。
少食の杏さんには量が多かったらしい。
杏さんは残業前に食べると言って残りのおにぎりを手に試作室を出る前に振り返り、美味しかったと言った。
普段無駄な事を言わない杏さんのその一言は、本当に美味しいと思ってくれたんだと思えて、素直に嬉しかった。
美玖に地味だと言われた僕の料理を、味に厳しい杏さんが誉めてくれた。
杏さんはいつもまともな食生活を送っていないようだけど、味の良し悪しを見極める舌は確かだ。
良家のお嬢様っていう噂だから、幼い頃から上質なものに触れていて、舌が肥えているんだろう。
だけどそのお嬢様がなぜ会社勤めをしていて、異常な食生活を送っているのか。
お嬢様育ちで料理ができなくても、今の時代お金さえ払えばなんでも食べられるのに。
あ、もしかしてあれか。
身の回りの世話をしてくれる人がいないと、一人ではなんにもできないとか?
実家は執事とかメイドとかのいるような豪邸だったりして。
あれ?じゃあそんなお嬢様が、なんでまた一人暮らしなんかしてるんだろ?
……一人暮らしだよな?
誰かと暮らしていたなら、その誰かが何かしら食べさせるはずだ。
杏さんは会社ではプライベートな事を一言も話さないから、私生活や交友関係がまったくわからない。
本当に謎多き人だ。
そういえば、恋愛はしたことがないって言ってたっけ。
そう思った瞬間、またあの変な夢を思い出した。
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杏さんを泣かせたいとか、怯える杏さんがかわいいとか、僕が教えてあげるとか……。
いくら夢の中とは言え、自分がそんなことを言ったのだと思うと本当に恥ずかしい。
美玖に言われた言葉に腹が立って、強気な杏さんにイライラをぶつけたかったんだろうか。
それとも僕の中に、僕も知らないあんな願望や欲望でもあるのかな?
いやいや……。
僕はサディストでも俺様でもないし、どちらかと言うと世話焼きなフェミニストで、普通に考えて現実ではあんなの有り得ない。
所詮、夢は夢って事だ。
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