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やけ酒の果ての過ち
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「僕は一人で帰れますよー……」
「あ、タクシー来ました」
酔っ払いの戯言なんかに耳も貸さないとでも言うかのように、矢野さんは僕の言葉を無視してタクシーに向かって手を挙げた。
矢野さんはタクシーの後部座席に僕を無理やり押し込んで、運転手に行き先を細かく説明した。
「それじゃあ杏さん、すみませんけど鴫野の事お願いします」
「ああ、任せとけ。ご苦労さん」
タクシーの中で僕は、酔って自分の思い通りにならない体の重みを杏さんの肩に預けた。
なんだかやけに杏さんの体温が心地いい。
重みに耐えられなくなったまぶたを閉じると、さっき見た美玖とあの男が腕を組んで歩いていく後ろ姿が浮かんできた。
……好きだったんだけどな。
情けなくて、悔しくて、胸が痛い。
不意に肌触りの良い柔らかい布のような物が頬に当たる感触がした。
いつの間にか無意識のうちに涙が溢れていたようで、杏さんが高そうなハンカチで僕の涙を拭いてくれていた。
フラれて泣いているところを女性の上司に慰められるなんて、本当にカッコ悪い。
「すみません……みっともない部下で」
「部下だからいいんだ。気にするな」
なんだ、優しいとこもあるんだな。
見た目も頭も良くて仕事ができて、若くして出世した超エリートで、仕事にはストイックだけど自分の事には無関心っていうギャップがあって、無愛想だけど部下思いの上司。
そんな杏さんがもし男なら、きっと女の子にめちゃくちゃモテるんだろう。
その証拠に杏さんは、女性なのに男の僕なんかよりずっと男前だ。
タクシーを降りて、杏さんの肩を借りながら部屋に帰った。
杏さんは僕をベッドまで連れて行ってから、冷蔵庫を勝手に開けた。
僕はベッドに体を投げ出して、杏さんって女の人なのに力があるんだなぁ、なんて事を思いながらネクタイをゆるめる。
「ほら、水でも飲め」
冷たいミネラルウォーターの並々と注がれたグラスを差し出しされたけれど、僕は自力で起き上がる事もできない。
「仕方ないな」
杏さんはひとつため息をついてグラスをテーブルの上に置き、両手を僕の首の後ろに回してゆっくりと起こしてくれた。
「ほら。これで飲めるだろう」
差し出されたグラスを受け取って一気に水を飲み干すと、杏さんは少し腰を屈めて僕の様子を窺った。
「もっと飲むか?」
「杏さんって案外優しいんですね」
「ん……?案外は余計だな」
「美人でスタイルが良くて頭も良くて仕事ができて……おまけに優しいのに、なんで彼氏がいないんですか」
本音なのか酔っているからなのか僕の口は勝手に動いて、かなり失礼なことを言っている。
たとえ思っていたとしても普段の僕ならこんなこと絶対に言わないのに、酒の力って恐ろしい。
杏さんは呆れた様子で、僕の手からグラスを取り上げた。
「何バカな事を言ってるんだ。とりあえずもう一杯だな」
空いたグラスに水を注ぎに行く杏さんの後ろ姿が、やけに色っぽく見える。
後ろからいきなり抱きしめたら、杏さんはどんな顔をするだろう?
やっぱり驚いたりするのかな?
思いきり抱きしめて僕の唇であの形の良い唇を塞いで、自由を奪ってやりたい。
……って……僕はなにバカな事を考えているんだろう。
あー、杏さんが色っぽく見えるなんて、相当酔ってるな。
「ほら、もう一杯水飲んでさっさと寝ろ」
僕は差し出されたグラスを受け取り、また一気に水を飲み干した。
杏さんは髪をかき上げながら、心配そうに僕の顔を覗き込んだ。
「大丈夫か?」
やっぱり色っぽい。
なぜだか無性に杏さんを抱きしめたくて、僕はさっきの僕からは考えられないような強い力で杏さんの腕を掴んだ。
「大丈夫……じゃ、ないです……」
杏さんは訝しげに眉を寄せた。
「もう少しだけ、ここにいてください」
「……どうした?」
「杏さんにはわかりませんよね……僕の気持ちなんて……」
僕は何を言ってるんだ?
こんな事、上司の杏さんに言ってどうするつもりなんだ?!
「あ、タクシー来ました」
酔っ払いの戯言なんかに耳も貸さないとでも言うかのように、矢野さんは僕の言葉を無視してタクシーに向かって手を挙げた。
矢野さんはタクシーの後部座席に僕を無理やり押し込んで、運転手に行き先を細かく説明した。
「それじゃあ杏さん、すみませんけど鴫野の事お願いします」
「ああ、任せとけ。ご苦労さん」
タクシーの中で僕は、酔って自分の思い通りにならない体の重みを杏さんの肩に預けた。
なんだかやけに杏さんの体温が心地いい。
重みに耐えられなくなったまぶたを閉じると、さっき見た美玖とあの男が腕を組んで歩いていく後ろ姿が浮かんできた。
……好きだったんだけどな。
情けなくて、悔しくて、胸が痛い。
不意に肌触りの良い柔らかい布のような物が頬に当たる感触がした。
いつの間にか無意識のうちに涙が溢れていたようで、杏さんが高そうなハンカチで僕の涙を拭いてくれていた。
フラれて泣いているところを女性の上司に慰められるなんて、本当にカッコ悪い。
「すみません……みっともない部下で」
「部下だからいいんだ。気にするな」
なんだ、優しいとこもあるんだな。
見た目も頭も良くて仕事ができて、若くして出世した超エリートで、仕事にはストイックだけど自分の事には無関心っていうギャップがあって、無愛想だけど部下思いの上司。
そんな杏さんがもし男なら、きっと女の子にめちゃくちゃモテるんだろう。
その証拠に杏さんは、女性なのに男の僕なんかよりずっと男前だ。
タクシーを降りて、杏さんの肩を借りながら部屋に帰った。
杏さんは僕をベッドまで連れて行ってから、冷蔵庫を勝手に開けた。
僕はベッドに体を投げ出して、杏さんって女の人なのに力があるんだなぁ、なんて事を思いながらネクタイをゆるめる。
「ほら、水でも飲め」
冷たいミネラルウォーターの並々と注がれたグラスを差し出しされたけれど、僕は自力で起き上がる事もできない。
「仕方ないな」
杏さんはひとつため息をついてグラスをテーブルの上に置き、両手を僕の首の後ろに回してゆっくりと起こしてくれた。
「ほら。これで飲めるだろう」
差し出されたグラスを受け取って一気に水を飲み干すと、杏さんは少し腰を屈めて僕の様子を窺った。
「もっと飲むか?」
「杏さんって案外優しいんですね」
「ん……?案外は余計だな」
「美人でスタイルが良くて頭も良くて仕事ができて……おまけに優しいのに、なんで彼氏がいないんですか」
本音なのか酔っているからなのか僕の口は勝手に動いて、かなり失礼なことを言っている。
たとえ思っていたとしても普段の僕ならこんなこと絶対に言わないのに、酒の力って恐ろしい。
杏さんは呆れた様子で、僕の手からグラスを取り上げた。
「何バカな事を言ってるんだ。とりあえずもう一杯だな」
空いたグラスに水を注ぎに行く杏さんの後ろ姿が、やけに色っぽく見える。
後ろからいきなり抱きしめたら、杏さんはどんな顔をするだろう?
やっぱり驚いたりするのかな?
思いきり抱きしめて僕の唇であの形の良い唇を塞いで、自由を奪ってやりたい。
……って……僕はなにバカな事を考えているんだろう。
あー、杏さんが色っぽく見えるなんて、相当酔ってるな。
「ほら、もう一杯水飲んでさっさと寝ろ」
僕は差し出されたグラスを受け取り、また一気に水を飲み干した。
杏さんは髪をかき上げながら、心配そうに僕の顔を覗き込んだ。
「大丈夫か?」
やっぱり色っぽい。
なぜだか無性に杏さんを抱きしめたくて、僕はさっきの僕からは考えられないような強い力で杏さんの腕を掴んだ。
「大丈夫……じゃ、ないです……」
杏さんは訝しげに眉を寄せた。
「もう少しだけ、ここにいてください」
「……どうした?」
「杏さんにはわかりませんよね……僕の気持ちなんて……」
僕は何を言ってるんだ?
こんな事、上司の杏さんに言ってどうするつもりなんだ?!
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