キミガ ウソヲ ツイタ

櫻井音衣

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君が嘘をついた 2

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そんな嘘をついて何になるんだろうと首をかしげながら俺がそう言うと、葉月はお腹にそっと手をあてた。

「しんどかったんはホンマやけど、風邪やなくて……ここにな、いてるんやて」
「……えっ?」

葉月の言葉の続きを予想して、俺の鼓動が急激に速くなる。
もし俺の予想通りなら葉月が謝る必要なんてまったくないし、報告と言うより重大発表じゃないか!
急にあたふたし始めた俺を見て、葉月はおかしそうに笑った。

「それってもしかして……」
「うん、志岐と私の赤ちゃん」
「……マジか……!」
「ホンマ。先週の金曜日に、仕事終わってから病院行ってきたんよ。昨日6週目に入ったとこで、今年の12月に入ってすぐくらいに生まれるて、先生が言うてはった。せっかくやから志岐の誕生日にお義母さんの前で報告しよう思て、内緒にしててん。心配かけてごめんな」
「いや、奥さんの体調が悪けりゃ夫が心配すんのは当たり前だし、俺は葉月の夫だから葉月が謝ることなんてないけど……でも……ええっ……マジか……」

ここで妊娠の報告をされるとは思ってもみなかったから、俺の頭の中はおもちゃ箱をひっくり返したようにいろんな感情で散らかって、自分が何を言っているのかもよくわからない。
子どもはいずれ欲しいと思っていたし、婚約してからは『二人は欲しいね』などと二人で話していた。
だけど俺の中では、『俺と葉月の間に子どもがいる生活』はどこか現実離れしていて、ここよりずっと先にあるおぼろげな夢のように感じていた。
それが思っていたより早く現実になり、この俺がちゃんとした親になれるだろうかとか、葉月は無事に出産できるだろうかとか、子どもは元気に生まれてきてくれるだろうかなどという、これまで感じたことのない不安が一気に押し寄せた。
そしてそんな大きな不安を差し引いても、俺たちの家族ができるということは、とても嬉しいと思えた。

「ヤバイ……俺、泣きそう……」
「泣くのはまだまだ早いで」

葉月はそう言って笑いながら俺の手を握った。

「シャンとしてや、これから父親になるねんで。一緒に頑張ろな」
「うん、頑張るよ。葉月と子どものことは、何があっても俺が守るからな」
「頼もしいオトンやなぁ」

俺たちは新しい命を授かったことを母に報告したあと、『また来るよ』と約束して、手を繋いで車に戻った。
車に乗ってしばらく経った頃、葉月が重そうなまぶたをなんとか閉じまいと耐えていることに気付いた。
俺が運転しているのに自分だけ寝てしまうのは気が引けるのだろう。

「葉月、眠いなら我慢しないで寝てていいよ」
「うん……。なんか最近やたら眠いからなんでやろって思てたんやけど、妊娠やて気付いたら納得したわ。妊娠したらめっちゃ眠いんやて、前に先輩が言うてた」
「なるほどな。確かに最近よく寝てたから、よほど疲れてるんだなって思ってたよ」
「もうしばらくしたら本格的なつわりが始まって、食べ物の好みが変わったり食べ過ぎたり食べれんようになったり、ずっと船酔いしてるみたいに気分悪かったり吐いたり、急に腹立ったり泣いたりしていろいろ大変らしいわ」
「そうなんだ。やっぱ子どもを産むのって大変なことなんだな。俺、もっと家事覚えるよ。もう葉月だけの体じゃないんだから、しんどいときは無理しないで休みな」
「ありがとう、そうさせてもらうわ」

そう言って葉月はゆっくりと目を閉じて眠り始めた。
信号待ちで葉月の体に俺の上着をかけてやると、葉月は気持ち良さそうに眠りながら微かに笑みを浮かべた。


その日の夜、二人でベッドに入って横になると、葉月はぴったりと寄り添って俺の胸に何度も頬をすりよせた。
最近ずいぶん素直に甘えてくれるんだなと思っていたけど、これも妊娠しているからなのか、無意識のうちに、子どもが生まれてくる前に俺に目一杯甘えておこうとしているのかも知れない。

「はぁ……やっぱ可愛いな。葉月はお母さんになってもおばあちゃんになっても、絶対に可愛いよ」

葉月の髪を撫でながらそう言うと、葉月は俺にギュッとしがみついた。

「私、志岐と一緒になれてホンマに良かったわ。でも最近思うねん。好きな人と一緒におれるのって当たり前のことやなくて、奇跡って言うくらい幸せなことやねんな。だから私、もう絶対志岐と離れへん。ずっと一緒におる」
「うん、俺も葉月といられてめちゃくちゃ幸せだから、一生離さない。どっちが先に逝くことになっても添い遂げて、来世でも絶対葉月を見つける」
「嘘ついたらハリセンボン飲ますで」
「絶対飲まないよ、嘘じゃないから」

俺たちは何度も優しいキスをして、抱きしめ合って愛の言葉を囁いて眠る。
愛する人と抱きしめ合ってお互いのぬくもりを感じられることは、なんて幸せなんだろう。
つらいことや悲しいこともあったけど、たくさんの偶然が重なって葉月と出会い、幸せな気持ちで寄り添い合える今がある。
この幸せがずっと続くとは限らないから、俺は葉月と一緒にいられる今を精一杯生きたいと思う。
そして俺と葉月の子どもが生まれたら、二人で目一杯愛情を注いで、その想いを惜しみ無く伝えて大切に育てたい。

俺たちの恋はじれったい片想いと小さな嘘から始まったけれど、これだけは偽りのない気持ちで自信を持って言える。

『いくつになっても、何度生まれ変わっても、君だけを愛してる』



─END─

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