6 / 18
偽誕生日作戦 1
しおりを挟む
「俺、もうすぐ誕生日なんだ」
入社2年目の8月の蒸し暑い夜、仕事のあとに同期のみんなと飲みに行った帰り道で、俺は葉月に嘘をついた。
本当は4月生まれなのに、葉月と同じ8月生まれだと嘘をついて近付こうなんて、今になって考えてみると、なんて浅はかで馬鹿らしい作戦なんだろう。
俺が本当は4月生まれであることなんて、俺の営業事務を担当している葉月にはすぐバレそうなものなのに、葉月は俺の方をチラッと見て「へぇ、そうなんや」と呟いた。
「8月生まれってさ、子どもの頃は『誕生日おめでとう』って友達に言ってもらえないんだよな、夏休みだから」
その名前から葉月は8月生まれに違いないと勝手に決めつけ、8月生まれの友達が昔言っていたことを自分のことのようにもっともらしく言って共感を得ようとすると、意外なことに葉月は少し笑いながら首を横に振った。
「私は毎年、幼馴染みが家までプレゼント持って『おめでとう』て言いに来てくれてた。家近いし、私も毎年その子の誕生日にはプレゼント渡してたから。年中行事みたいなもんやねん」
大阪出身の葉月は、いつも懐かしそうに笑って地元の友達の話をする。
今年も幼馴染みが誕生日を祝ってくれるのかと思ったけど、恋人でもあるまいし、さすがに幼馴染みの誕生日を祝うためだけに大阪から出てくることはないだろう。
「へぇ……いいなぁ、幼馴染みか。俺なんか今年も誰かに祝ってもらう予定ないよ」
本当は毎年いとこたちが祝ってくれるし、今年の4月9日ももちろん祝ってもらったのだけど、『誕生日を祝ってくれる彼女はいません』とアピールするためにまた嘘をついた。
他の同僚たちも一緒に食事をしたり酒を飲んだりしているときは楽しそうにたくさん話す葉月が、帰り道が同じ方向の俺と二人きりになると、いつもなんとなくそっけないというか、明らかに口数が少なくなる。
もしかして俺のことは苦手なのかなとか、あまり好きなタイプではないのかもとか、嫌われていたらどうしようかと思ったりもした。
だけど俺は、どうにかして葉月に近付きたかったし、もっと仲良くなりたかった。
いろいろ悩んだ末、誕生日が近いと言えば親近感が湧くのではないかと思いつき、あわよくば二人でお祝いをして、いい感じになりたいと思ったのだ。
葉月は口元に手を当てて少し笑った。
「そら寂しいなぁ。誕生日いつなん?」
「えっと……今週の土曜日」
「今週の土曜日言うたら……11日か。その日から盆休みやし、どっちにしても会社休みやから『おめでとう』言うてもらわれへんな」
もちろんそれを狙って誕生日だと言ったのだ。
「じゃあ二人で飯でも行かない?一緒に誕生日のお祝いしようよ」
思いきって食事に誘うと、葉月は少し首をかしげた。
もしかしたら『そんなに親しくもないのになんで私を誘うの?』とか、変に思われているのかも……。
それによく考えると、休みの日にわざわざ俺と会ってくれるだろうかと不安になってきた。
本当の誕生日でもないし、この際だから二人で会えるならいつだっていいや。
「あー……もし休みの日は都合悪いなら前日の仕事のあとでもいいし……」
なんとか断られないように焦ってそう言うと、葉月はまた少し首をかしげながら何か考えるそぶりを見せた。
「別になんも予定ないし、土曜日でええけど……」
断られなくて良かったとホッと胸を撫で下ろし、葉月と二人だけで会う約束ができることが嬉しくて、心の中で高々と拳を突き上げた。
こうなったら何がなんでもチャンスをものにしたい。
入社2年目の8月の蒸し暑い夜、仕事のあとに同期のみんなと飲みに行った帰り道で、俺は葉月に嘘をついた。
本当は4月生まれなのに、葉月と同じ8月生まれだと嘘をついて近付こうなんて、今になって考えてみると、なんて浅はかで馬鹿らしい作戦なんだろう。
俺が本当は4月生まれであることなんて、俺の営業事務を担当している葉月にはすぐバレそうなものなのに、葉月は俺の方をチラッと見て「へぇ、そうなんや」と呟いた。
「8月生まれってさ、子どもの頃は『誕生日おめでとう』って友達に言ってもらえないんだよな、夏休みだから」
その名前から葉月は8月生まれに違いないと勝手に決めつけ、8月生まれの友達が昔言っていたことを自分のことのようにもっともらしく言って共感を得ようとすると、意外なことに葉月は少し笑いながら首を横に振った。
「私は毎年、幼馴染みが家までプレゼント持って『おめでとう』て言いに来てくれてた。家近いし、私も毎年その子の誕生日にはプレゼント渡してたから。年中行事みたいなもんやねん」
大阪出身の葉月は、いつも懐かしそうに笑って地元の友達の話をする。
今年も幼馴染みが誕生日を祝ってくれるのかと思ったけど、恋人でもあるまいし、さすがに幼馴染みの誕生日を祝うためだけに大阪から出てくることはないだろう。
「へぇ……いいなぁ、幼馴染みか。俺なんか今年も誰かに祝ってもらう予定ないよ」
本当は毎年いとこたちが祝ってくれるし、今年の4月9日ももちろん祝ってもらったのだけど、『誕生日を祝ってくれる彼女はいません』とアピールするためにまた嘘をついた。
他の同僚たちも一緒に食事をしたり酒を飲んだりしているときは楽しそうにたくさん話す葉月が、帰り道が同じ方向の俺と二人きりになると、いつもなんとなくそっけないというか、明らかに口数が少なくなる。
もしかして俺のことは苦手なのかなとか、あまり好きなタイプではないのかもとか、嫌われていたらどうしようかと思ったりもした。
だけど俺は、どうにかして葉月に近付きたかったし、もっと仲良くなりたかった。
いろいろ悩んだ末、誕生日が近いと言えば親近感が湧くのではないかと思いつき、あわよくば二人でお祝いをして、いい感じになりたいと思ったのだ。
葉月は口元に手を当てて少し笑った。
「そら寂しいなぁ。誕生日いつなん?」
「えっと……今週の土曜日」
「今週の土曜日言うたら……11日か。その日から盆休みやし、どっちにしても会社休みやから『おめでとう』言うてもらわれへんな」
もちろんそれを狙って誕生日だと言ったのだ。
「じゃあ二人で飯でも行かない?一緒に誕生日のお祝いしようよ」
思いきって食事に誘うと、葉月は少し首をかしげた。
もしかしたら『そんなに親しくもないのになんで私を誘うの?』とか、変に思われているのかも……。
それによく考えると、休みの日にわざわざ俺と会ってくれるだろうかと不安になってきた。
本当の誕生日でもないし、この際だから二人で会えるならいつだっていいや。
「あー……もし休みの日は都合悪いなら前日の仕事のあとでもいいし……」
なんとか断られないように焦ってそう言うと、葉月はまた少し首をかしげながら何か考えるそぶりを見せた。
「別になんも予定ないし、土曜日でええけど……」
断られなくて良かったとホッと胸を撫で下ろし、葉月と二人だけで会う約束ができることが嬉しくて、心の中で高々と拳を突き上げた。
こうなったら何がなんでもチャンスをものにしたい。
0
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
羽村美海
恋愛
古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。
とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。
そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー
住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……?
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
✧天澤美桜•20歳✧
古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様
✧九條 尊•30歳✧
誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
*西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨
※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。
※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。
※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。
✧
✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧
✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧
【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】
サディスティックなプリテンダー
櫻井音衣
恋愛
容姿端麗、頭脳明晰。
6か国語を巧みに操る帰国子女で
所作の美しさから育ちの良さが窺える、
若くして出世した超エリート。
仕事に関しては細かく厳しい、デキる上司。
それなのに
社内でその人はこう呼ばれている。
『この上なく残念な上司』と。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる