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結婚式を終えた夜に 1
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入籍してから3か月半が経ち、無事に挙式を終えた日の夜遅く、葉月と二人で暮らしている自宅に戻ると、ポストを覗いた葉月が俺に一通の封書を差し出した。
「志岐宛ての手紙、届いてるで」
「手紙?」
ダイレクトメールの類いかと思ったけれどそうではないらしく、封筒には丁寧な手書きの文字が並んでいる。
ネクタイをゆるめながら封筒を裏返して差出人の名前を見たけれど、北村 雅夫というその男性の名前には心当たりがない。
「知らない人だなぁ。誰だろう?」
「会社の関係者ちゃう?」
大学卒業後から勤めている祖母の会社の後継者に任命された頃から、それまで面識のなかった会社関係の人たちとの関わりが多くなったので、その可能性もあるかとは思ったけれど、どう考えてもこれは個人的な手紙に見える。
「いや、それなら社名入りの封筒で送ってくるんじゃないか?」
「そうか、それもそうやな。まぁ、開けてみたらわかるんちゃう?そんなに気になるんやったら今開けてみたら?」
差出人の正体は気になるものの、今日は結婚式と披露宴で緊張しっぱなしで、そのあと二次会に続き三次会まで開いてもらって、クタクタに疲れている。
早いとこ風呂に入ってゆっくり休みたい。
いや、その前に早くベッドの中でじっくり葉月を愛でたい気持ちの方が勝っている。
ウエディングドレスやお色直し後の青いドレスを着た葉月はとても言葉では言い表せないほど綺麗で、感極まって涙ぐむ横顔はあまりにもかわいくて、早く二人きりになって思いきり抱きしめたいとずっと思っていたのだ。
どうせもうこんな時間だし、手紙を見るのは1日くらい遅れても問題ないだろう。
「うーん……。でも今日は酒も入ってるし、頭回んないから明日でいいや。それより葉月、今日くらい一緒に風呂に入ろうよ」
二次会用に仕立てたフォーマルドレスの背中のファスナーを下ろそうとしている葉月を後ろから抱きしめると、葉月は俺の手をバチバチ叩いて振りほどこうとした。
「なに甘えたこと言うてんの」
「いいじゃん、新婚なんだし」
「恥ずかしいからお風呂はイヤやって言うてるやん」
結婚しても相変わらず恥ずかしがりやの葉月は、何度誘っても一緒に風呂に入ってはくれない。
これまで数えきれないほど裸で抱き合っているのに、一緒に風呂に入るのがなぜそんなに恥ずかしいんだろう?
「なんで?葉月の裸なら何度も見てるけど」
「それでもあかんねん!恥ずかしいもんは恥ずかしいの!」
「ふーん……やっぱ今日もダメか。じゃあ風呂から上がったらもっと恥ずかしいことしてやるから、覚悟してろよ?」
そう言ってファスナーを下ろし首筋にキスすると、葉月は真っ赤な顔をして俺を部屋から押し出した。
「志岐のアホ!スケベ!そんなん言わんでええわ!はよ風呂入れ!」
「はいはい、気が向いたら葉月も入ってきていいよ」
付き合い始めてから何年経っても恥じらう葉月は本当にかわいいなと思いながら浴室に向かった。
風呂に入って湯舟に浸かりながらぼんやりしていると、葉月と出会った頃のことや付き合い始めた頃のことを思い出した。
そして結婚式という人生に一度の晴れ舞台を無事に終えた安堵からか、葉月と出会う前のことや子どもの頃の記憶までが頭の中を駆け巡った。
おそらく俺の幼少期は、誰の目から見ても普通ではないと思うし、あまり幸せだったとは言えないだろう。
だからと言うわけでもないけれど、子どもの頃のことなど滅多に思い出すことはなかったのに、今日はやけに鮮明に記憶が蘇る。
「志岐宛ての手紙、届いてるで」
「手紙?」
ダイレクトメールの類いかと思ったけれどそうではないらしく、封筒には丁寧な手書きの文字が並んでいる。
ネクタイをゆるめながら封筒を裏返して差出人の名前を見たけれど、北村 雅夫というその男性の名前には心当たりがない。
「知らない人だなぁ。誰だろう?」
「会社の関係者ちゃう?」
大学卒業後から勤めている祖母の会社の後継者に任命された頃から、それまで面識のなかった会社関係の人たちとの関わりが多くなったので、その可能性もあるかとは思ったけれど、どう考えてもこれは個人的な手紙に見える。
「いや、それなら社名入りの封筒で送ってくるんじゃないか?」
「そうか、それもそうやな。まぁ、開けてみたらわかるんちゃう?そんなに気になるんやったら今開けてみたら?」
差出人の正体は気になるものの、今日は結婚式と披露宴で緊張しっぱなしで、そのあと二次会に続き三次会まで開いてもらって、クタクタに疲れている。
早いとこ風呂に入ってゆっくり休みたい。
いや、その前に早くベッドの中でじっくり葉月を愛でたい気持ちの方が勝っている。
ウエディングドレスやお色直し後の青いドレスを着た葉月はとても言葉では言い表せないほど綺麗で、感極まって涙ぐむ横顔はあまりにもかわいくて、早く二人きりになって思いきり抱きしめたいとずっと思っていたのだ。
どうせもうこんな時間だし、手紙を見るのは1日くらい遅れても問題ないだろう。
「うーん……。でも今日は酒も入ってるし、頭回んないから明日でいいや。それより葉月、今日くらい一緒に風呂に入ろうよ」
二次会用に仕立てたフォーマルドレスの背中のファスナーを下ろそうとしている葉月を後ろから抱きしめると、葉月は俺の手をバチバチ叩いて振りほどこうとした。
「なに甘えたこと言うてんの」
「いいじゃん、新婚なんだし」
「恥ずかしいからお風呂はイヤやって言うてるやん」
結婚しても相変わらず恥ずかしがりやの葉月は、何度誘っても一緒に風呂に入ってはくれない。
これまで数えきれないほど裸で抱き合っているのに、一緒に風呂に入るのがなぜそんなに恥ずかしいんだろう?
「なんで?葉月の裸なら何度も見てるけど」
「それでもあかんねん!恥ずかしいもんは恥ずかしいの!」
「ふーん……やっぱ今日もダメか。じゃあ風呂から上がったらもっと恥ずかしいことしてやるから、覚悟してろよ?」
そう言ってファスナーを下ろし首筋にキスすると、葉月は真っ赤な顔をして俺を部屋から押し出した。
「志岐のアホ!スケベ!そんなん言わんでええわ!はよ風呂入れ!」
「はいはい、気が向いたら葉月も入ってきていいよ」
付き合い始めてから何年経っても恥じらう葉月は本当にかわいいなと思いながら浴室に向かった。
風呂に入って湯舟に浸かりながらぼんやりしていると、葉月と出会った頃のことや付き合い始めた頃のことを思い出した。
そして結婚式という人生に一度の晴れ舞台を無事に終えた安堵からか、葉月と出会う前のことや子どもの頃の記憶までが頭の中を駆け巡った。
おそらく俺の幼少期は、誰の目から見ても普通ではないと思うし、あまり幸せだったとは言えないだろう。
だからと言うわけでもないけれど、子どもの頃のことなど滅多に思い出すことはなかったのに、今日はやけに鮮明に記憶が蘇る。
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