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犬と獣(ケダモノ)
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3時前。
愛美のスマホがトークメッセージの受信を知らせた。
【今から会社を出て、一度家に戻って
着替えてから愛美の家に行きます。
せっかく早く終わったから、どこかに出掛けようか?】
愛美は思ったよりずっと早く会えるのが嬉しくて、自然と笑みを浮かべながら返信する。
【お疲れ様でした。気を付けて帰って下さいね。
楽しみに待ってます】
メッセージを送った後、自分から『楽しみに待ってます』と言う言葉が出た事に驚いた。
待つのはつらいとずっと思っていたのに、もうすぐ会えると思うと、待っている時間さえ幸せだと感じる。
それはきっと、待つ相手が『政弘さん』だからなのだと愛美は思った。
それから愛美は丁寧に化粧をして、この間デートの約束をした時に選んだ服を着た。
髪をハーフアップにしてお気に入りの髪飾りをつけた。
もうすぐ会えるとか、どこに行くんだろうとか、浮き足立っている自分が少し照れくさい。
好きだと言ってくれる人がいて、自分もまた、その人が好きだと思う。
自分の会いたいと思う人が、会いたいと言って会いに来てくれる。
好きな人のためにおしゃれをして、ドキドキしながらその人を待つ。
こんな気持ちになるのは何年ぶりだろう?
いつの間に、こんなに好きになっていたんだろう?
自宅に帰った緒川支部長は、これから愛美とどこに行こうかと考えながら、急いでシャワーを浴びた。
やっと愛美とデートができると思うと、嬉しくて仕方がない。
バスルームから出て急いで体と髪を拭き、クローゼットから洋服を引っ張り出して袖を通す。
愛美はどんな服装が好きだろうとか、一緒に買い物に行って洋服を選んでもらうのもいいなとか、何をしていても愛美の事で頭がいっぱいだ。
とにかく早く会いたい。
少しでも長く一緒にいたい。
緒川支部長ははやる気持ちを抑えながら愛美にメッセージを送り、自宅を出て車で愛美の家に向かった。
【出掛ける準備できた?これから迎えに行くよ】
緒川支部長からのメッセージに、愛美も【待ってます】と返信して、スマホをテーブルの上に置いた。
鏡の前で化粧や髪型を何度もチェックしながら、ウキウキと嬉しそうな鏡の中の自分を見て、少し照れ笑いを浮かべる。
しばらくすると、玄関のチャイムが鳴った。
愛美は満面の笑みを浮かべてバッグを肩に掛け、スマホを手に玄関のドアを開けた。
「よぅ愛美、久しぶり」
そこに立っていたのは『政弘さん』ではなく、愛美を乱暴に傷付けたかつての恋人の泰士だった。
ずっと前に他の女を選んで去っていったはずの泰士が、どうしてまたここにいるのか?
愛美は目を見開き、蒼白い顔をして体を震わせた。
震える愛美の手からスマホが音をたてて落ちる。
「ごめんな、長い間ほったらかしにして。寂しかっただろ?」
ニヤニヤ笑う泰士に頬を撫でられた愛美は、驚きと恐怖のあまり口の中はカラカラに渇き、声も出せなくなった。
「あれから何人か他の女と付き合ってみたけど、やっぱり愛美が一番だってわかったんだ。あんなに尽くしてくれたの、愛美だけだもんな」
好きで尽くしていたわけではない。
逆らうとひどく虐げられるのが怖くて、逃げ出す事もできず従うしかなかっただけだ。
ジリジリと詰め寄って来る泰士から逃れようと、愛美は震える足で半歩、また半歩と後ずさった。
「また昔みたいに戻れるだろ?愛美は俺がいないと生きていけないもんな」
追い詰められ背中が壁に当たり、愛美は逃げ場を失った。
何度も殴られ犯された記憶が愛美の脳裏に鮮明に蘇る。
(いや……もうあんな怖い思いするのは絶対いや……)
愛美は必死で首を横に振った。
「なんだよ、ずっとほったらかしにしたからすねてんのか?可愛がってやるから機嫌直せよ……な?」
泰士は強張った愛美の手を引き寄せ、強引に床に押し倒した。
(いや……!!助けて!!)
どんなに叫ぼうと思っても、掠れた声すらも出ない。
「いいだろ、愛美……。もう乱暴にしない。優しくするから……」
泰士の手がブラウス越しに愛美の胸を執拗に撫で回した。
忘れかけていた自分勝手で乱暴な愛撫に、嫌悪感と不快感を覚え吐き気がする。
愛美のスマホがトークメッセージの受信を知らせた。
【今から会社を出て、一度家に戻って
着替えてから愛美の家に行きます。
せっかく早く終わったから、どこかに出掛けようか?】
愛美は思ったよりずっと早く会えるのが嬉しくて、自然と笑みを浮かべながら返信する。
【お疲れ様でした。気を付けて帰って下さいね。
楽しみに待ってます】
メッセージを送った後、自分から『楽しみに待ってます』と言う言葉が出た事に驚いた。
待つのはつらいとずっと思っていたのに、もうすぐ会えると思うと、待っている時間さえ幸せだと感じる。
それはきっと、待つ相手が『政弘さん』だからなのだと愛美は思った。
それから愛美は丁寧に化粧をして、この間デートの約束をした時に選んだ服を着た。
髪をハーフアップにしてお気に入りの髪飾りをつけた。
もうすぐ会えるとか、どこに行くんだろうとか、浮き足立っている自分が少し照れくさい。
好きだと言ってくれる人がいて、自分もまた、その人が好きだと思う。
自分の会いたいと思う人が、会いたいと言って会いに来てくれる。
好きな人のためにおしゃれをして、ドキドキしながらその人を待つ。
こんな気持ちになるのは何年ぶりだろう?
いつの間に、こんなに好きになっていたんだろう?
自宅に帰った緒川支部長は、これから愛美とどこに行こうかと考えながら、急いでシャワーを浴びた。
やっと愛美とデートができると思うと、嬉しくて仕方がない。
バスルームから出て急いで体と髪を拭き、クローゼットから洋服を引っ張り出して袖を通す。
愛美はどんな服装が好きだろうとか、一緒に買い物に行って洋服を選んでもらうのもいいなとか、何をしていても愛美の事で頭がいっぱいだ。
とにかく早く会いたい。
少しでも長く一緒にいたい。
緒川支部長ははやる気持ちを抑えながら愛美にメッセージを送り、自宅を出て車で愛美の家に向かった。
【出掛ける準備できた?これから迎えに行くよ】
緒川支部長からのメッセージに、愛美も【待ってます】と返信して、スマホをテーブルの上に置いた。
鏡の前で化粧や髪型を何度もチェックしながら、ウキウキと嬉しそうな鏡の中の自分を見て、少し照れ笑いを浮かべる。
しばらくすると、玄関のチャイムが鳴った。
愛美は満面の笑みを浮かべてバッグを肩に掛け、スマホを手に玄関のドアを開けた。
「よぅ愛美、久しぶり」
そこに立っていたのは『政弘さん』ではなく、愛美を乱暴に傷付けたかつての恋人の泰士だった。
ずっと前に他の女を選んで去っていったはずの泰士が、どうしてまたここにいるのか?
愛美は目を見開き、蒼白い顔をして体を震わせた。
震える愛美の手からスマホが音をたてて落ちる。
「ごめんな、長い間ほったらかしにして。寂しかっただろ?」
ニヤニヤ笑う泰士に頬を撫でられた愛美は、驚きと恐怖のあまり口の中はカラカラに渇き、声も出せなくなった。
「あれから何人か他の女と付き合ってみたけど、やっぱり愛美が一番だってわかったんだ。あんなに尽くしてくれたの、愛美だけだもんな」
好きで尽くしていたわけではない。
逆らうとひどく虐げられるのが怖くて、逃げ出す事もできず従うしかなかっただけだ。
ジリジリと詰め寄って来る泰士から逃れようと、愛美は震える足で半歩、また半歩と後ずさった。
「また昔みたいに戻れるだろ?愛美は俺がいないと生きていけないもんな」
追い詰められ背中が壁に当たり、愛美は逃げ場を失った。
何度も殴られ犯された記憶が愛美の脳裏に鮮明に蘇る。
(いや……もうあんな怖い思いするのは絶対いや……)
愛美は必死で首を横に振った。
「なんだよ、ずっとほったらかしにしたからすねてんのか?可愛がってやるから機嫌直せよ……な?」
泰士は強張った愛美の手を引き寄せ、強引に床に押し倒した。
(いや……!!助けて!!)
どんなに叫ぼうと思っても、掠れた声すらも出ない。
「いいだろ、愛美……。もう乱暴にしない。優しくするから……」
泰士の手がブラウス越しに愛美の胸を執拗に撫で回した。
忘れかけていた自分勝手で乱暴な愛撫に、嫌悪感と不快感を覚え吐き気がする。
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