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別人なのか?
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「もしかして愛美ちゃん、仕事中の政弘見てそう言ってる?」
「だって私は仕事中の支部長しか知らないもん。職場での支部長はそんな感じだから嫌いなの」
「だったら仕事してない時の政弘を見たら変わるんじゃないの?よく知りもしないのに嫌ったら可哀想だよ。政弘、ナイーブだから。試しに付き合ってみたら?」
「えぇっ?!それは……!!」
(なんでそうなる?!それだけは勘弁してよ!)
「菅谷……」
また子犬のような眼差しで緒川支部長に見つめられ、愛美はもう何も考えられなくなって立ち上がった。
「か……帰る……」
すごい勢いで走って店を出た愛美を追い掛けようと、緒川支部長も慌てて席を立ち、ドアノブに手を掛けた。
「先輩、後で払いますから!!」
「いつでもいいぞ。行って来い!!」
愛美は少しふらつく足取りで駅までの道のりを急いでいた。
何がなんだかわけのわからない状況に酔いも手伝って、頭の中がパニックを起こしている。
大嫌いなはずの俺様タイプの緒川支部長が、見た事もないような優しい目でじっと見つめて好きだと言った。
知らなかった一面を見せられ、本来の緒川支部長は愛美が知っている仕事中の姿とは正反対だとマスターは言う。
緒川支部長だと気付く前ならともかく、大嫌いな緒川支部長だとわかった後も、不覚にもときめいてしまった自分が信じられない。
(何これ……何これ……?!わけがわからん!!やっぱ別人?ってか、私めちゃくちゃ酔ってる?!)
頭の中がぐちゃぐちゃに混乱したまま、愛美は足早に歩く。
その後を追い掛けてきた緒川支部長が、愛美の手を掴んだ。
「待って、菅谷」
「離して下さい……」
「菅谷……改めて言うけど……俺と付き合って。菅谷の事が好きな俺をちゃんと見て。それでもやっぱり俺が嫌いなら……あきらめるから」
「なんで……?私の事なんて何も知らないでしょ?!支部長が私を好きだって言う理由もよくわからないのに、別人みたいな顔してそんな事言われても……!!」
緒川支部長は腕を引いて愛美を抱き寄せた。
大嫌いなはずの緒川支部長の胸の広さやあたたかさに愛美は戸惑う。
「だから……もっとホントの俺の事を知ってよ。俺ももっと菅谷の事知りたい。菅谷が、好きだから」
緒川支部長の腕に抱きしめられながら、耳元で囁く優しく甘い声に、すべてを委ねてしまいたくなる。
(私、酔ってるのに……こんなのずるい……)
「俺の彼女になって。これでもかってくらい、めちゃくちゃ大事にするから」
心の奥の甘い疼きと、耳の奥に残る火照りを酔ったせいにして、愛美は小さくうなずいた。
翌朝。
いつも通りに出社した愛美は、更衣室で制服に着替えながら、どんな顔をして緒川支部長に会えばいいのだろうと考えていた。
成り行きとは言え、緒川支部長と付き合う事になってしまった。
『酔っていたから覚えてない』とでも言ってシラを切ろうかとも思ったが、ゆうべの緒川支部長の切なげな声が頭から離れない。
仕事中の支部長が大嫌いなことに変わりはないけれど、ゆうべの緒川支部長は別人かと思うほど穏やかで優しかった。
大嫌いなはずなのに、本当の緒川支部長がどんな人なのか知ってみたい気もする。
愛美は不可解な自分自身の考えに戸惑いつつも、とりあえず職場ではいつも通りにしていようと思いながら更衣室を出て支部に向かった。
「菅谷さん、おはようございます」
エレベーターを降りたところで、高瀬FPに声を掛けられた。
いつも通りににこやかな笑顔を向けられ、愛美もつられて微笑む。
「おはようございます」
「昨日の夜遅くに契約をもらったんです。支部に着いたらすぐにデータを送りますので、確認お願いします」
「わかりました」
高瀬FPと一緒に支部に入ると、支部長席でパソコンに向かっていた緒川支部長が画面から微かに視線を外した。
しかし眉間にシワを寄せ、再び画面に視線を移す。
「おはようございます」
「おはよう」
こちらを見もしないで挨拶をする無愛想な緒川支部長の態度に愛美は苛立つ。
(何あの態度……。やっぱ嫌い……!!)
愛美は昨日の事は気の迷いだったのかも知れないと思いながら内勤席に着いて、高瀬FPに頼まれていたデータに目を通した。
仕事中の緒川支部長とゆうべの緒川支部長が、どうしても結び付かない。
支社にいた時の緒川支部長も全然覚えていない。
一体どれが本当の緒川支部長なのか、さっぱりわからない。
(酔ってたとは言え、どうかしてたな……。とりあえず何回か食事でもして、やっぱりどうしても無理って言えばいいや)
そんな事を考えながら、愛美はデータの確認を終えて席を立った。
休憩スペースの電気ポットを給湯室ですすぎ、新しいお湯を沸かすための水を入れて支部に戻ったあと、布巾で休憩スペースのテーブルを拭いていると、インスタントコーヒーの残りがわずかな事に気付く。
「だって私は仕事中の支部長しか知らないもん。職場での支部長はそんな感じだから嫌いなの」
「だったら仕事してない時の政弘を見たら変わるんじゃないの?よく知りもしないのに嫌ったら可哀想だよ。政弘、ナイーブだから。試しに付き合ってみたら?」
「えぇっ?!それは……!!」
(なんでそうなる?!それだけは勘弁してよ!)
「菅谷……」
また子犬のような眼差しで緒川支部長に見つめられ、愛美はもう何も考えられなくなって立ち上がった。
「か……帰る……」
すごい勢いで走って店を出た愛美を追い掛けようと、緒川支部長も慌てて席を立ち、ドアノブに手を掛けた。
「先輩、後で払いますから!!」
「いつでもいいぞ。行って来い!!」
愛美は少しふらつく足取りで駅までの道のりを急いでいた。
何がなんだかわけのわからない状況に酔いも手伝って、頭の中がパニックを起こしている。
大嫌いなはずの俺様タイプの緒川支部長が、見た事もないような優しい目でじっと見つめて好きだと言った。
知らなかった一面を見せられ、本来の緒川支部長は愛美が知っている仕事中の姿とは正反対だとマスターは言う。
緒川支部長だと気付く前ならともかく、大嫌いな緒川支部長だとわかった後も、不覚にもときめいてしまった自分が信じられない。
(何これ……何これ……?!わけがわからん!!やっぱ別人?ってか、私めちゃくちゃ酔ってる?!)
頭の中がぐちゃぐちゃに混乱したまま、愛美は足早に歩く。
その後を追い掛けてきた緒川支部長が、愛美の手を掴んだ。
「待って、菅谷」
「離して下さい……」
「菅谷……改めて言うけど……俺と付き合って。菅谷の事が好きな俺をちゃんと見て。それでもやっぱり俺が嫌いなら……あきらめるから」
「なんで……?私の事なんて何も知らないでしょ?!支部長が私を好きだって言う理由もよくわからないのに、別人みたいな顔してそんな事言われても……!!」
緒川支部長は腕を引いて愛美を抱き寄せた。
大嫌いなはずの緒川支部長の胸の広さやあたたかさに愛美は戸惑う。
「だから……もっとホントの俺の事を知ってよ。俺ももっと菅谷の事知りたい。菅谷が、好きだから」
緒川支部長の腕に抱きしめられながら、耳元で囁く優しく甘い声に、すべてを委ねてしまいたくなる。
(私、酔ってるのに……こんなのずるい……)
「俺の彼女になって。これでもかってくらい、めちゃくちゃ大事にするから」
心の奥の甘い疼きと、耳の奥に残る火照りを酔ったせいにして、愛美は小さくうなずいた。
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成り行きとは言え、緒川支部長と付き合う事になってしまった。
『酔っていたから覚えてない』とでも言ってシラを切ろうかとも思ったが、ゆうべの緒川支部長の切なげな声が頭から離れない。
仕事中の支部長が大嫌いなことに変わりはないけれど、ゆうべの緒川支部長は別人かと思うほど穏やかで優しかった。
大嫌いなはずなのに、本当の緒川支部長がどんな人なのか知ってみたい気もする。
愛美は不可解な自分自身の考えに戸惑いつつも、とりあえず職場ではいつも通りにしていようと思いながら更衣室を出て支部に向かった。
「菅谷さん、おはようございます」
エレベーターを降りたところで、高瀬FPに声を掛けられた。
いつも通りににこやかな笑顔を向けられ、愛美もつられて微笑む。
「おはようございます」
「昨日の夜遅くに契約をもらったんです。支部に着いたらすぐにデータを送りますので、確認お願いします」
「わかりました」
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しかし眉間にシワを寄せ、再び画面に視線を移す。
「おはようございます」
「おはよう」
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(何あの態度……。やっぱ嫌い……!!)
愛美は昨日の事は気の迷いだったのかも知れないと思いながら内勤席に着いて、高瀬FPに頼まれていたデータに目を通した。
仕事中の緒川支部長とゆうべの緒川支部長が、どうしても結び付かない。
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一体どれが本当の緒川支部長なのか、さっぱりわからない。
(酔ってたとは言え、どうかしてたな……。とりあえず何回か食事でもして、やっぱりどうしても無理って言えばいいや)
そんな事を考えながら、愛美はデータの確認を終えて席を立った。
休憩スペースの電気ポットを給湯室ですすぎ、新しいお湯を沸かすための水を入れて支部に戻ったあと、布巾で休憩スペースのテーブルを拭いていると、インスタントコーヒーの残りがわずかな事に気付く。
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