パドックで会いましょう

櫻井音衣

文字の大きさ
上 下
46 / 60
卒業アルバム

しおりを挟む
担任の先生のおかげで、先輩は将来のことを考えるようになり、高校を受験した。
ねえさんは家庭の事情で進学を希望しなかったけれど、中学校からの推薦で就職できるよう、授業で習う以外の社会の動きなども真面目に勉強した甲斐あって、手堅い地元の中小企業に就職できたそうだ。
だけど無事に中学を卒業して間もなく、担任の先生とねえさんは、駆け落ち同然で姿を消したらしい。

「こいつな、小5の時に急にオカンが病気で死んでから、オトンに虐待されとったんや。オトンはオカンの再婚相手で、酒飲みで働きもせんとギャンブルに狂って、借金ばっかりこさえてな……」

先輩から聞いた話は、僕がねえさんから聞いた父親の話と同じだった。
でも、違ったのはその後だった。

「こいつ、家計支えるために一日でも早く働きたい言うて、就職先に頼み込んでな。中学の卒業式済んですぐから研修っちゅう形で真面目に働き始めたんやけど、このオトンがまた莫大な借金こさえて来よってな。アホやから、ヤクザがやってるヤミ金に手ぇ出したんや。そんで、借金の肩代わりさせられそうになって……」

そのヤクザな借金取りは、稼ぎのない父親よりも若くて美人な娘に稼がせようと、ねえさんを風俗に連れて行こうとしたらしい。
もちろんまだ中学を卒業したばかりだから、裏で提携している風俗店で、年齢をごまかして働かせようとしていたようだ。
その隙をついて逃げ出したねえさんは、藁にもすがる思いで、中学3年の時の担任の先生の元へ逃げ込んだ。
ハッキリとした約束はしていなかったけれど、ねえさんと担任の先生は、在学中からお互いに想いを寄せ合っていて、人知れず秘かに交際をしていたそうだ。
そしてある日、先生はねえさんを連れて、二人を知る人のいない遠い場所へ逃げた。
父親と借金取りに来たヤクザたちが、必死になって近辺を探していたと先輩は言っていた。
父親からの暴力や借金のこと、先生と付き合っていることなど、ねえさんから相談を受けていた先輩は、誰に何を聞かれても知らないとシラを切り、とにかく二人が無事に逃げ延びてくれることを願っていたそうだ。
だけどそんな願いも虚しく、数か月後、二人は連れ戻された。
事故に遇い、二人とも大怪我を負っていたそうだ。
その事故はきっと、二人を連れ戻すためにヤクザが仕組んだものだろうと先輩は言っていた。
当然の如く二人は引き離され、先生は教師と言う職も、社会的な信用も失った。
ねえさんは頭を強く打ってしばらく意識が戻らず、一時は命も危ぶまれたらしい。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

処理中です...